エルメニア物語 - 辺境の令嬢は大きな獣に愛される -

小豆こまめ

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第5章

19 婚約前

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 いつものようにエスコートされ、暖かいガゼボに連れて行かれる。
 ここ数日の日課になっていて、午後はこうして中庭で色々な話をする。

 父が婚約を許していない以上、彼とは友人としての付き合いをするしかない。

 ザイード様には申し訳ないけれど、こうした時間も心地よく、気に入っていた。

「ウエストリアを離れても良いのか?」
「はい、ウエストリアは大切で大好きな場所です、それはガルスに行っても変わる訳ではありませんもの」

「そうか」
「それにガルスの事だって好きになるかもしれません、大切な場所が増えるなんて素敵でしょう?」

「そうなると良いが」
「ふふっ、私は、結構欲張りなんです。大切なものも大好きなものも、一つにするつもりはありません」

「うん」
「でも愛している人は一人だけですからね。ザイード様も私以外の人を作ってはダメですよ」

 耳元でささやくと、ニッコリと笑う。

 本当に困る。
 ウエストリア伯と話はしていたが、彼は婚約の許しをなかなかくれなかった。

 彼女の体調も万全ではないので、無理をさせるつもりもないが、エルメニアでは、感情より約定が優先されるので、その確約が欲しいのも事実だった。

 リディアと気持ちが通じた後、ウエストリア伯に面会を求めた時を思い出す。

「へぇ、来たんだ」
「遅くなり申し訳ありません」

「別に待っていた訳ではないよ。娘の婚約が解消になっても、君は我が家に全く寄り付かなくなっていたからねぇ、もう興味を失っているのかと思っていたよ」

「いえ、、、」

「いいんだよ。娘はまだ17歳だ。色々あって傷ついてもいるだろうし、しばらく一人でいるのもいいと思っていたからね」

 まだ早いと言われているのは分かるが、約束が必要だった。

「承知しています、急に遠くへ連れて行くつもりはありません。ただ、側にいる事をお許しいただきたい」

「へぇ、僕の許しが必要なことを知っていてくれて良かったよ、君は忘れているのかと思っていたからね」

 ここに案内されるまで、どこにいたか、自分が何をしたかどうやら知られているようで頭を下げるしかない。

 本来、何の約束も無い女性に触れることは許されていない、例えそれがお互いの合意の上だとしても。
 彼女に触れる事も、抱きしめる事も、まして唇を重ねるなど許されるはずがない。

「申し訳ありません」
「認めないと言うつもりはないよ。しかし、手続きには時間もかかる。君も状況にあった付き合いをして欲しいね」
「誓って」

 あれから数日、彼が敢えて自分との婚約を許していないのは知っている。
 最初に約束事に反したのは自分なので、しばらく彼の言葉に従うしかない。

「ザイード様?」

 隣に座った人が覗き込むようにこちらを伺う。

「何でもありません、少し別の事を考えていました」

「サイラス様の事ですか?」
「それは先日、お約束を頂けました」

「まぁ、知りませんでした」
「ローエングルグ男爵にお願いして、サイラスをしばらくイリノアに滞在させます」

 ザイード様は、願ったと言うけれど、獣人を一人で屋敷に滞在させて欲しいなど彼が言うとは思えない。

「ウエストリアに滞在した際、サイラスがあちこちで魔物を狩ったり、収穫祭の時も逃げた使徒達を追い詰めたりしたようで、まぁ、そのおかげで今回許しを頂けました」

「サイラス様らしいですね」
「危険なものだと思われなくて良かったです」

「ザイード様達を、危険だと思う人なんていませんわ」
「ウエストリア伯には、街の人には姿を見られないようにと言われていたのに、サイラスは、セレスティナ嬢にも本来の姿を見せていたようで」

「ふふっ、セレスティナがどんな様子だったか想像できるわ」
「貴方が怖がらなかったみたいに?」

 ザイード様が愛おしいというように、頬にふれてもこれ以上ふれる事はない。

 父が彼を困らせているのは知っているけれど、もう少しこの時間を楽しみたい。
 自分の体が思った様に動かない今、彼の側にいるのは本当に心地いい。
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