エルメニア物語 - 辺境の令嬢は大きな獣に愛される -

小豆こまめ

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第5章

20 婚約

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「お嬢様、ザイード様がいらっしゃいました」

 ロニに案内されて彼が自分の私室に入って来る。

 今までは、応接間や居間、中庭のような場所でしか彼を迎えることは出来なかったが、こうして私のプライベートな場所に彼が来るのは、少し恥ずかしい気持ちがする。

 何時もと変わらないはずなのに、身支度を気にしていると、

「お綺麗ですよ」

 ロニが小さな声で教えてくれる。

「いらっしゃい、ザイード様」

 部屋で彼を迎えると、その意味を知っているので、彼も嬉しそうな顔をしてそっと抱きしめてくれる。

「リディア、伯と少し話をして来るよ」
「お父様と、ですか?」
「うん、お礼を伝えなくては、サイラスの件でも色々手を貸して頂いていたようだしな」

「それには及ばないよ」

 軽くノックをして、父が部屋に入って来る。

「お父様」

「顔色もいいようだが、体調はどうかな、リディア」
「そろそろ退屈ですわ、部屋と中庭以外の場所にも行く事を許して頂けませんか?」

「そう思っている頃だと思ってね」
「まぁ、よろしいのですか?」

「うん、ウエストリアに戻ってはどうかと思ってね」
「お父様」

 ウエストリアに戻れるのは嬉しいけれど、それではやっと婚約した相手とまた離れることになる。
 彼を困らせて楽しんでいるみたいだけど、これはちょっと意地悪な気がする。

「リディア、話は最後まで聞くものだよ」
「お話して頂けるのでしたら、聞きますわ」

「おやおや、僕はそんなに意地悪をしているつもりは無いんだけどなぁ」

 ひどいなぁと言うように首を振っている。

「ウエストリアに戻るにしても、リディアはまだ転移門を使えない、屋敷までの道を任せられる人が出来たから、僕も帰る事を提案しているというのに、、、」

 この人は本当に面倒な人だわ、それならそうと初めから話してくれればいいものを。

「ごめんなさい、お父様」
「嬉しいかい?」
「ええ」

「なら仕方ないね、準備に三日というところだろう、そのつもりでいなさい」
「ありがとうございます、お父様」

 父が満足して部屋から出て行きながら、ザイード様に言うのも忘れない。

「解っていると思うが、無理をさせないように、いいね」

 父が部屋からいなくなると、彼がそっと引き寄せて聞いてくる。

「一緒にウエストリアに行っても良いという事なのだろうか?」
「はい、転移門を使わないなら、十日余りを馬車で移動することになります。
 その間、ザイード様が側にいてくれれば安心ですし、私にとってザイード様がどういう方か周りの人にも知って貰えます」

「そうか」
「王都の話が領地に伝わるのは、時間がかかりますので、自分で伝えてきなさいって事かしら」

「光栄に思えばいいのかな?」
「ふふっ、父の考えそうなことですけど、、、今回は感謝しないといけないわね」

「楽しみだな」
「私と一緒にいられるから。ではありませんよね?」

「すまない、これからのウエストリアを見るのが楽しみだった」
「それでも、嬉しいですわ。ザイード様が私の好きな土地を気に入って下さって」

 そのまま私室にいるのも恥ずかしいので、どうしようかと思っていると、ロニが庭に出るように伝えてくれる。

「お嬢様、庭に出られますか?」
「ええ、ありがとう」

 部屋から外に行こうとすると、ふわっと彼に抱き上げられる。

「では、お連れします」
「ザイード様、これでは歩く練習にもなりません」
「分かっている、今日だけだ」

 そのまま中庭のガゼボまで連れて行かれる。

 困った人がここにもいるわ。
 彼は私を甘やかすことにけていて、こうしていると何も出来ない人になってしまう。

 友人であれば時に守られて安心していれば良いが、これからも同じように守られるだけなんてちょっと情けない。

 彼が愛おしいと言うように、何度か軽く唇に触れ、今度はゆっくりと重ねたと思えば、身体に何かが流れ込んでくる感覚があるので、思い切り耳を引っ張る。

「痛いっ」
「ザィード様、今度、私に魔力を入れようとしたら絶交です」

「気分が悪くなったのか?」
「そうではありません、でも自分の中を勝手に見られるのは落ち着きません」

「それは感じないようにする。体調がもう少し戻るまで、少しだけだ」
「イ、ヤ、デ、ス」

「リディア」
「そんなに心配しなくても大丈夫です。人はそれ程弱くありません、怪我をしても、体調を崩してもちゃんと治ります」

「しかし」
「ザィード様、絶対にイヤです」

 しばらくは納得出来ないようだったけれど、私も譲るつもりは無い。

 それでも、彼があんまり心配するので、安心出来るまで、しばらく彼の腕の中にいることになった。
 部屋にいる時も、庭で本を読む時も、今度は片時も離れない。

「まだ不安ですか?」
「頭では分かっている、感情がついていかないだけだ」

 困った人だ。
 彼は何でも自分でどうにかしようとする所がある。
 番に対しては特に分かりやすく、自分が守るのが当然だと思っているし、それは本能のようにも感じられる。

 とりあえず、体調を戻すことを考えよう。

 目の前にいる私に優しい二人は、似ているようで全く違っている。

 一人はとっても甘くて、風が吹くと全身を使ってその風から守ろうとする人。
 もう一人は、どうすればその風の中で立っていられるか一緒に考えてくれる人。

 一緒にいるなら、私が倒れないことを、一緒に歩けることを知って欲しい。

 急ぐ必要はない。
 彼は一度失いかけて、必要以上に敏感になっているのだから。
 少しずつ分かってくれればいい、その時間はこれから沢山あるのだから。


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