エルメニア物語 - 辺境の令嬢は大きな獣に愛される -

小豆こまめ

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第5章

21 約定

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 ジャルドが朝の日課のようにやって来て、お茶を飲みながら話して行く。
 
 ロニが作るお菓子目当てでは無いかと思う時もあるけれど、状況が分からない私に色々教えてくれる為なのだと理解している。
 もちろん、教えるので大人しくしておけという意味もあるけれど。

 屋敷の中の事は、ロニが。
 屋敷の外の事は、ジャルドが何かと知らせてくる。

 ウエストリアを離れても、彼らが側に居てくれると良いけれど、二人はあくまで父の使用人であって私のではない。
 おまけに知らない土地に行く事は、彼らにとっても大変なはずだ。

「ロニにはこれからも一緒にいて欲しいのだけど、良かったのかしら?」
「まぁ、当然ではありませんか」

「ガルスに行く事になってもいいの?」

 ロニがウエストリア家の騎士と、個人的な付き合いをしているのは知っているが、おそらく彼をガルスに連れて行くことは難しい。それは彼女も知っているはずだった。

「勿論です」
「でもねぇ、、、せめて婚約くらいなら大丈夫だと思うけど」

「お嬢様、私はカリナ様のようになりたいと思っておりますので、男性と婚姻を結ぶつもりはありません」

 マルタの娘であるカリナは、夫を持つことなく二人の子どもを育てている。

「そうなの?」
「はい、お嬢様は反対なさいますか? そうなれば赤ん坊を連れている事もあると思いますので」

「もう子どもがいるの?」
「いえ、残念ながら」

「まぁ、楽しみだわ。 ロニの子どもなら絶対可愛いわね。
 なら私も、ロニの子ども達がガルスで暮らせるように、しっかりしないとね」

「お手伝いします」
「ありがとう、ロニ」

 それで彼女との話は終わりになった。
 お父様の所に相手から申し込みがあった様だが、それを受けなかった理由も私にあるのかも知れないが、今は甘える事にする。

 翌日、もう一人の相手とも話をする。

「ねぇ、ジャルド。聞いたこと無かったのだけど、貴方とお父様の約定はどうなっているの?」

「何すか、お嬢が雇ってくれるんすか?」
「それは約定の内容によるわ」

「へぇ、だがお嬢じゃちょっと役不足かなぁ」
「まぁ、そんなに厳しいの?」

「俺、メシが不味いと働けないっすよ」
「えっ、マルタ以上が必要なの? それは大変だわ」

「お嬢の料理に期待してないっすよ」
「正直にありがとう。でも食事ねぇ、それは困ったわね。
 サイラス様が、マリのトルテを食べたとき、レテ豆は苦いから小麦が美味しいって言っていたのよね」

「まぁ、少しの間、待っても良いっすよ。お嬢だってメシは美味い方が、って思うっしょ」
「それはそうね。私の料理の腕が上がるかもしれないし」

「それ、時間かかりそうっすね」
「失礼ね、アルは喜んで食べてくれるわ」

「いや、不味いとは言ってないっすよ。俺は、美味い飯って言っているだけで」
「本当に正直な人ね」

「ま、俺の事はいいっすよ。それより昨日は何で殿下を困らせてたんすか?」
「別に困らせるつもりは無いのよ。ザイード様が私に魔力を入れようとするから、ダメって言っただけ」

「別にいいじゃないっすか、少しくらいの魔力、貰っておけばいいでしょう?」
「ジャルド、彼は私が部屋でつまづいても心配して大騒ぎするのよ、本当にそれで良いと思うの?」

「まぁ、確かに」
「少しは慣れて貰わないと」
「今は仕方ないっすよ。体調が戻ってないのは本当なんすから」

「それでもよ。時間が経てば体調は戻るわ、この位平気なんだと知って貰わないと困るわ。
 それに私は自分の中にある魔力は使えないのもの、勿体ないでしょう?」

「あゝ、なるほど」
「なぁに?」

「お嬢が主人あるじの娘だったと思い出したっすよ」
「まぁ失礼ね、あんなに腹黒くありません」

 目の前で相変わらず口の悪い人が、美味しそうにテーブルに置かれたお菓子を食べる。
 彼の約定は良く分からないが、どうやら一緒に来てくれるみたい。

 知らない北の国に行く事も、二人が側にいてくれると安心していられるし、その国で何があったとしても、この二人はきっと変わらないだろう。

 楽しい事や困った事が起きても、一人は相変わらず茶化してくるだろうし、一人は一緒に喜んだり考えたりしてくれるに違いない。

 そうしていれば、どんな事でもきっと何とかなる。
 ザイード様と二人がいてくれるなら、それがどこであっても、きっと笑っていられるに違いない。



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