エルメニア物語 - 辺境の令嬢は大きな獣に愛される -

小豆こまめ

文字の大きさ
81 / 82
第6章

03 その後(3)

しおりを挟む
人々から隔離された屋敷での休憩の後、懐かしい我が家に帰るまでの道は、快適なものになった。

 バーナード様が用意してくれた仰々しい馬車と騎士達は、見た目はともかく乗り心地も良く、思っていた以上の働きをしてくれた。

 面倒な人達に煩わされる事も無く、体調も良くなれば、ザィード様の眉間のシワも自然に無くなってくる。

 気になったのは、途中、イリノアの街で友人に会えると思っていたら、今は無理だとザィード様に言われた事くらい。

 それにウエストリアの部屋に戻ると、ここが一番落ち着くのも本当で、ゆっくり眠れば体調が悪かった事も忘れてしまいそうになる。

「何しに来た」
「ひどいなぁ、僕は彼女の仕事のパートナーだよ」

「仕事?」
「そう」

 赤毛の男が、ニコニコしながら屋敷の入口に立っている。

「僕は、ウエストリアの布やお茶をミリオネアで売っているんだ。彼女にとって大切なパートナーだからね、覚えておいて欲しいなぁ」

「仕事のだろう」
「まぁね。もちろん、人生のパートナーでも構わないけどね」

「帰れ」
「そんな事を言ってもいいのかなぁ、彼女が困ると思うなぁ」

 ニコニコと笑っている顔を見ていると、本気で追い返したくなる。
 呼び鈴がなって見に行った自分が戻ってこないので、リディアが様子を見に来る。

「ザイード様、お客様ですか?」
「そのようだ」

「まぁ、アレス様。早かったのですね、到着は明後日になると思っていました」
「少しでも早くお会いしたかったので」

 アレス様が、手を取ったかと思うと、甲に唇をふれる。
 この人は相変わらずだ。
 彼とは王都で会った時に話はしているので、彼をわざと困らせているのだと分かっている。

 ザイード様が隣で本当に嫌な顔をしているし、それを見て、アレス様が逆に嬉しそうな顔をしている。

 父にしても、アレス様にしても、彼と友人になりたいのなら、そう言葉にすればよいのにと思う。

 人との間で、一番怖いのは無関心であることだ。
 自分の存在を見てもらえない、感じてもらえない事は恐ろしいが、こうして彼を困らせているのは、彼に関心があるからで、本人は歓迎していなくても、良いことだと思う。

 元々彼は、とても穏やかな真面目な人で、探求心も強く、人に教えを受けたり、物事を指摘されても強く反応する事はないが、番に対しては、とてもわかり易く反応する。

「アレス様、あまり彼を困らせないで下さいね」
「私の事など、微塵も考えた事がないと教えていないのですか?」

「私がどう思っているかではなく、彼がどう感じているかでしょう?」
「なるほどね」

「ですから、あまり困らせないで下さい」
「喧嘩にでもなりますか?」

「ふふっ、どうかしら?」
「なんだ、つまらないなぁ」
「それより、状況を教えて下さいな」

 アレス様から、ミリオネアでの布の売上やお茶の流通の状況。
 改善点や商品の見直し、こちらが用意したフレの糸や布の見本を見せて話を続ける。

 こうした時、仕事の相手が異性であっても彼は絶対に邪魔をしない。
 これが私にとって大切な事だと知っているし、必要な事だとも分かっている。

 仕事場に自分がいても仕方ないと分かると、屋敷の内外で使用人達を手伝ってみたり、畑の方まで出かけて行く事さえある。

 それが一旦仕事を離れると、途端に変わって、片時も離れようとしない。
 それなのに、食事を一緒に取ることを嫌って、自室で済ませようとする。

 元々、晩餐でもなければ、自分たちも私室で済ますけれど、一人である必要もない。

「ザイード様、ガルスでは一人で食事をするものなのですか?」
「いや、そうではない。番のいない者は食事場で、番のいる者は部屋で食事をする」
 
「部屋で、別々に?」
「、、、いや」

 妙に言葉を濁す。
 ガルスについては、知らない事が多い。

 知っている事と言えば、山と深い森のある国で、獣人と人が暮らしている事。
 その深い森の奥で、魔鉱石を産出している事。

 それに獣人の食事には意味がある事。

「ザイード様、ちゃんと教えて下さい」
「私達にとって食事に意味があると話した事があるだろう?」
「はい」

「ガルスには、エルメニアの様に寝室と居間との区別がない」
「どうしてですか?」
「寒いからな」

 確かに部屋を二つ暖めるより、その方が効率もいい。

「では、食事をするのも、眠るのも同じ部屋で?」
「そうだな、夜の食事をした相手とは、そのまま朝まで共に過ごす、わざわざ別の部屋で食べる必要はない」

「まぁ」

 いけない、相変わらず私は同じ間違いばかりしてるみたい。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である

megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

安全第一異世界生活

ファンタジー
異世界に転移させられた 麻生 要(幼児になった3人の孫を持つ婆ちゃん) 新たな世界で新たな家族を得て、出会った優しい人・癖の強い人・腹黒と色々な人に気にかけられて婆ちゃん節を炸裂させながら安全重視の異世界冒険生活目指します!!

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

追放された味噌カス第7王子の異種族たちと,のんびり辺境地開発

ハーフのクロエ
ファンタジー
 アテナ王国の末っ子の第7王子に産まれたルーファスは魔力が0で無能者と言われ、大陸の妖精族や亜人やモンスターの多い大陸から離れた無人島に追放される。だが前世は万能スキル持ちで魔王を倒し英雄と呼ばれていたのを隠し生まれ変わってスローライフを送る為に無能者を装っていたのだ。そんなルーファスはスローライフを送るつもりが、無人島には人間族以外の種族の独自に進化した先住民がおり、周りの人たちが勝手に動いて気が付けば豊かで平和な強国を起こしていく物語です。

異世界転移物語

月夜
ファンタジー
このところ、日本各地で謎の地震が頻発していた。そんなある日、都内の大学に通う僕(田所健太)は、地震が起こったときのために、部屋で非常持出袋を整理していた。すると、突然、めまいに襲われ、次に気づいたときは、深い森の中に迷い込んでいたのだ……

家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜

奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。 パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。 健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。

異世界転生した女子高校生は辺境伯令嬢になりましたが

ファンタジー
車に轢かれそうだった少女を庇って死んだ女性主人公、優華は異世界の辺境伯の三女、ミュカナとして転生する。ミュカナはこのスキルや魔法、剣のありふれた異世界で多くの仲間と出会う。そんなミュカナの異世界生活はどうなるのか。

処理中です...