【旧版】ひとりぼっち令嬢はおともだちがほしいだけ~自国ではいらない子ですが大国の傲慢な王様と残虐な魔導軍団がなかよくしてくれるそうです~

三月

文字の大きさ
13 / 39

傲慢な独白とジャムサンドイッチ

しおりを挟む
王立学術院を離れたとある私有地、瀟洒しょうしゃな田舎風の屋敷に明かりが灯っている。
飾り格子の向こうでは、さらさらと心地よい書き物の音が聞こえ、室内ではふたりの男がそれぞれの時間を過ごしていた。

「……楽しそうですね」

書き物机に向かっていた王子は、不思議そうに従者を振り返る。

「私がか?」

「ええ、さきほどから。贈り物は今頃盛大に届いていることでしょうね」

王子はそっと笑う。「そうだな」
彼が動くたびに、金色の髪がランプの光を受け輝いた。

「ただ立ってるだけで目立つボアたちには骨の折れる仕事だったろうな。戻ってきたらねぎらってやらねば」

「その苦労を差し引いても僥倖ぎょうこうと言えましょう。彼女の生まれた日に立ち会えたわけですから。きっとお喜びになりますよ。ドレスも菓子も宝飾品も、あらゆるところから集めた一級品ばかりです」

「今夜はずいぶん饒舌じょうぜつだな、イーズ」

「殿下が寡黙かもくなんですよ」

「仕方がないだろう」と、王子は手元の書類をつまみ上げた。

「面倒な手続きばかりだ。おまえがやってくれればいいのに」

「たしか入学者本人の直筆でないと受付できないそうですよ」
そううそぶいたあと、忠実なる従者のイーズは片眼鏡を外し、王子を眺めた。

「それで、いかがでしたか?」

「ああ、ちょうどいいタイミングだ。アバリシアたちの働きでようやく名前が出来た。『ローガン・ルーザー』、悪くない名だろう」

「お似合いですよ。印章も間に合いましたし、あとはルーザー王家の指輪が届けば十分ですね」

「……アバリシアの奴、王の指ごと持ってこないだろうな」

「さて、どうでしょう」

イーズは軽く咳払いをした。

「それはさておき、いかがでした?」

「ん?ああ、聖女だとかいう現王妃は、なかなか抜け目ない女かもしれん」

「……というと?」

「例のあの子は今年で16歳だ。ずいぶん気の早いことだが、5歳のときに王太子と婚約をしている」

王子は書類にペンを走らせながら、こちらを見ずに話し続ける。

「成績は優秀だ。学院在籍者で初めて東方学誌に論文も掲載されている。だが喋り方は幼いし所作は付け焼刃が見てとれる。マナーも外交教育も学術院レベル。つまりフォーリッシュ王家の連中は、彼女を5歳で婚約させたくせに、王太子妃としての教育をほとんど仕込んでいないわけだ」

「専門的な教育を受けていない、ということは……下世話な話ですが、ただの予備ということですか?あとからもっといい候補が現れたときのために」

「まさにドロシア・ウェリタスの連れ子リリベル・ウェリタスが該当するな。義母の実家は公爵家。最初に嫁いだ先の伯爵家では離縁となったが、今は侯爵家のご令嬢だ。そのうえ加護は光の精霊。年頃も見栄えも王太子妃に申し分ない。だが、現状フォーリッシュ王家では王太子の婚約に再考はなさそうだ」

イーズは指先で顎をなでる。

「5歳で婚約ですか」

「そう、この国で5歳といえばなにがある?」

「……加護の選定式」

王子はくるりと羽ペンを回した。

「そのとおり。王妃は気付いたんだろう。あの子の持つものが聖女以上であると勘付いた。手に負えないとな。あわてて身内と婚約を結ばせ、手間はかけないままに、正体が分かるまで飼っておくつもりなんだ」

「だが、肝心の婚約者がアレでは」と、王子は呆れたように肩を竦める。

「まあ、平和呆けした連中に混ざって、時代遅れな授業を受けるのもなかなか愉快な経験だ。明日は王太子の側近自ら学術院を案内してくれるそうだしな。さぞためになるご高尚なお話が拝聴できることだろう。なんせ聖フォーリッシュ王国は『聖女の守護で何者の侵入も許したことがない聖地』であらせられるからな」

なるほど、と従者はひとりごちた。
我らが崇敬の頂、傲慢なる王子は『聖フォーリッシュ王国』がまったくお気に召さないようだ。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

間違えられた番様は、消えました。

夕立悠理
恋愛
※小説家になろう様でも投稿を始めました!お好きなサイトでお読みください※ 竜王の治める国ソフームには、運命の番という存在がある。 運命の番――前世で深く愛しあい、来世も恋人になろうと誓い合った相手のことをさす。特に竜王にとっての「運命の番」は特別で、国に繁栄を与える存在でもある。 「ロイゼ、君は私の運命の番じゃない。だから、選べない」 ずっと慕っていた竜王にそう告げられた、ロイゼ・イーデン。しかし、ロイゼは、知っていた。 ロイゼこそが、竜王の『運命の番』だと。 「エルマ、私の愛しい番」 けれどそれを知らない竜王は、今日もロイゼの親友に愛を囁く。 いつの間にか、ロイゼの呼び名は、ロイゼから番の親友、そして最後は嘘つきに変わっていた。 名前を失くしたロイゼは、消えることにした。

幸せな番が微笑みながら願うこと

矢野りと
恋愛
偉大な竜王に待望の番が見つかったのは10年前のこと。 まだ幼かった番は王宮で真綿に包まれるように大切にされ、成人になる16歳の時に竜王と婚姻を結ぶことが決まっていた。幸せな未来は確定されていたはずだった…。 だが獣人の要素が薄い番の扱いを周りは間違えてしまう。…それは大切に想うがあまりのすれ違いだった。 竜王の番の心は少しづつ追いつめられ蝕まれていく。 ※設定はゆるいです。

私は彼に選ばれなかった令嬢。なら、自分の思う通りに生きますわ

みゅー
恋愛
私の名前はアレクサンドラ・デュカス。 婚約者の座は得たのに、愛されたのは別の令嬢。社交界の噂に翻弄され、命の危険にさらされ絶望の淵で私は前世の記憶を思い出した。 これは、誰かに決められた物語。ならば私は、自分の手で運命を変える。 愛も権力も裏切りも、すべて巻き込み、私は私の道を生きてみせる。 毎日20時30分に投稿

〖完結〗私は旦那様には必要ないようですので国へ帰ります。

藍川みいな
恋愛
辺境伯のセバス・ブライト侯爵に嫁いだミーシャは優秀な聖女だった。セバスに嫁いで3年、セバスは愛人を次から次へと作り、やりたい放題だった。 そんなセバスに我慢の限界を迎え、離縁する事を決意したミーシャ。 私がいなければ、あなたはおしまいです。 国境を無事に守れていたのは、聖女ミーシャのおかげだった。ミーシャが守るのをやめた時、セバスは破滅する事になる…。 設定はゆるゆるです。 本編8話で完結になります。

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。 ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。 「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」 ある日、アリシアは見てしまう。 夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを! 「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」 「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」 夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。 自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。 ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。 ※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。

旦那様、離婚しましょう ~私は冒険者になるのでご心配なくっ~

榎夜
恋愛
私と旦那様は白い結婚だ。体の関係どころか手を繋ぐ事もしたことがない。 ある日突然、旦那の子供を身籠ったという女性に離婚を要求された。 別に構いませんが......じゃあ、冒険者にでもなろうかしら? ー全50話ー

年に一度の旦那様

五十嵐
恋愛
愛人が二人もいるノアへ嫁いだレイチェルは、領地の外れにある小さな邸に追いやられるも幸せな毎日を過ごしていた。ところが、それがそろそろ夫であるノアの思惑で潰えようとして… しかし、ぞんざいな扱いをしてきたノアと夫婦になることを避けたいレイチェルは執事であるロイの力を借りてそれを回避しようと…

ご安心を、2度とその手を求める事はありません

ポチ
恋愛
大好きな婚約者様。 ‘’愛してる‘’ その言葉私の宝物だった。例え貴方の気持ちが私から離れたとしても。お飾りの妻になるかもしれないとしても・・・ それでも、私は貴方を想っていたい。 独り過ごす刻もそれだけで幸せを感じられた。たった一つの希望

処理中です...