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12.アルファ様はフレックス?
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「え?いや、ちょっと待って」
そんな貴文を義隆が慌てて追いかけた。
いつも通りに家を出たから、義隆と話をした時間がぶっちゃけロスだ。もちろん余裕を持って家を出ているけれど、乗りたい電車に乗り損ねてしまう。まぁ、一本ぐらい送らせても遅刻はしないのだけれども。
「電車に遅れるんで」
貴文は振り返らずに答えた。通勤用のカバンはスリーウェイだ。今は背中に背負っている。そのカバンを背後からむんずと掴まれた。
「送るから、会社まで送るから」
ちょっと焦り気味の声が面白いと思ったが、いまはそんなことどうでもよかった。
「無理無理。朝の渋滞にハマったら遅刻する」
すげなく手を振り払って歩き出そうとしたら、今度はがっしりと腕を掴んでまくし立てるように言ってきた。
「乗り換えの駅まで送る」
これはなかなかポイントの高い申し出だった。私鉄からJRに乗換えるのだけれど、階段を登って降りて改札を抜けてまた階段を降りるのが地味にしんどいのだ。しかも移動速度は自分の思った速度ではなく、次の電車に間に合う速度で、強制的にベルトコンベアの如く移動させられるのだ。
「それなら頼む」
くるりと体を反転させた貴文を、義隆はさっさと後部座席に座らせてシートベルトをかけた。流れるような手つきで背中からカバンを外されて、貴文はだいぶ驚いた。
「本当に体調はなんともないのだろうか?」
貴文より大きな体なのに、下から見上げるようにして聞いてくるその姿は、なんだか可愛く見えた。
「ええ、なんともないですよ」
義隆の手から自分のカバンを取り返し、膝の上に乗せながら答える。実際、車で乗り換えのJRの駅まで送って貰えるのはとても楽だ。時間にも余裕ができるというものだ。なぜなら私鉄は近隣の中心部に駅を作っているから随分と迂回して線路が走っているのに対して、乗り換えのJRの駅まで車で行くと、真っ直ぐ向かうことができるため、10分以上早く着く。ついでに言えば階段の昇り降りを2回分しなくて済むし、確実に座れる。
「そうか、なんともないのか……いや、でも、何かこう、体に違和感とか」
「いや、何も無い」
貴文は即答した。おかしい、普通ならこちらが何かしらの不調を訴えて慰謝料やらなんやらを要求するところなのではないのだろうか?それなのに、先方から何も無いのか?としつこく問いただされるとは、全くもって予想外だ。
「でも、心配だから明日も送らせてくれ」
そう言って貴文の手を握ってきたものだから、驚いて体が一瞬反応してしまった。貴文はちょっと視線をさ迷わせて、バックミラーに映る田中の顔を見た。
バックミラー越しに田中と目が合った気がしたのに、田中は何も言わず頷くでも首を振るでも、なんの反応もしてはくれなかった。
「明日?いや、でも、あなただって仕事があるでしょう?」
どこに住んでいるのかは知らないけれど、一之瀬の屋敷と呼ばれるのものが、都内の一等地にあることぐらい社会科の授業で習った気がする。詳しい場所は忘れたが、少なくとも一之瀬と名乗ったのだから、自宅は都内だろう。
「仕事……いや、俺はまだ学生で」
耳を疑う単語を聞いて、貴文は義隆の顔を見た。しっかりと覗き込むように。
「学生?」
体の大きさや、しっかりとした顔立ちからみても、学生には到底見えない。言動がアレなのは、初めてやらかしたことに対して対処の仕方が分からないだけなのだと思っていた。
「18で、まだ高校生です」
「はぁ?」
「え?いや、ちょっと待って」
そんな貴文を義隆が慌てて追いかけた。
いつも通りに家を出たから、義隆と話をした時間がぶっちゃけロスだ。もちろん余裕を持って家を出ているけれど、乗りたい電車に乗り損ねてしまう。まぁ、一本ぐらい送らせても遅刻はしないのだけれども。
「電車に遅れるんで」
貴文は振り返らずに答えた。通勤用のカバンはスリーウェイだ。今は背中に背負っている。そのカバンを背後からむんずと掴まれた。
「送るから、会社まで送るから」
ちょっと焦り気味の声が面白いと思ったが、いまはそんなことどうでもよかった。
「無理無理。朝の渋滞にハマったら遅刻する」
すげなく手を振り払って歩き出そうとしたら、今度はがっしりと腕を掴んでまくし立てるように言ってきた。
「乗り換えの駅まで送る」
これはなかなかポイントの高い申し出だった。私鉄からJRに乗換えるのだけれど、階段を登って降りて改札を抜けてまた階段を降りるのが地味にしんどいのだ。しかも移動速度は自分の思った速度ではなく、次の電車に間に合う速度で、強制的にベルトコンベアの如く移動させられるのだ。
「それなら頼む」
くるりと体を反転させた貴文を、義隆はさっさと後部座席に座らせてシートベルトをかけた。流れるような手つきで背中からカバンを外されて、貴文はだいぶ驚いた。
「本当に体調はなんともないのだろうか?」
貴文より大きな体なのに、下から見上げるようにして聞いてくるその姿は、なんだか可愛く見えた。
「ええ、なんともないですよ」
義隆の手から自分のカバンを取り返し、膝の上に乗せながら答える。実際、車で乗り換えのJRの駅まで送って貰えるのはとても楽だ。時間にも余裕ができるというものだ。なぜなら私鉄は近隣の中心部に駅を作っているから随分と迂回して線路が走っているのに対して、乗り換えのJRの駅まで車で行くと、真っ直ぐ向かうことができるため、10分以上早く着く。ついでに言えば階段の昇り降りを2回分しなくて済むし、確実に座れる。
「そうか、なんともないのか……いや、でも、何かこう、体に違和感とか」
「いや、何も無い」
貴文は即答した。おかしい、普通ならこちらが何かしらの不調を訴えて慰謝料やらなんやらを要求するところなのではないのだろうか?それなのに、先方から何も無いのか?としつこく問いただされるとは、全くもって予想外だ。
「でも、心配だから明日も送らせてくれ」
そう言って貴文の手を握ってきたものだから、驚いて体が一瞬反応してしまった。貴文はちょっと視線をさ迷わせて、バックミラーに映る田中の顔を見た。
バックミラー越しに田中と目が合った気がしたのに、田中は何も言わず頷くでも首を振るでも、なんの反応もしてはくれなかった。
「明日?いや、でも、あなただって仕事があるでしょう?」
どこに住んでいるのかは知らないけれど、一之瀬の屋敷と呼ばれるのものが、都内の一等地にあることぐらい社会科の授業で習った気がする。詳しい場所は忘れたが、少なくとも一之瀬と名乗ったのだから、自宅は都内だろう。
「仕事……いや、俺はまだ学生で」
耳を疑う単語を聞いて、貴文は義隆の顔を見た。しっかりと覗き込むように。
「学生?」
体の大きさや、しっかりとした顔立ちからみても、学生には到底見えない。言動がアレなのは、初めてやらかしたことに対して対処の仕方が分からないだけなのだと思っていた。
「18で、まだ高校生です」
「はぁ?」
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