【完結】俺は何もしていないのに、どうしてこうなった?

久乃り

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だから、俺は俺なんですよ

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「俺を忘れるなんて、あんまりだよな?千尋」

 そいつは俺に当たり前のように近づいて来た。
 忘れるとかじゃなくて、中身が違うので元から知らないだけなんだ。

「しつこいな、お前なんか知らない」

 俺はもう一度キッパリと拒絶した。
 すると、そいつの目付きが変わった。

「青山、会長だぞ。マジでヤバいって」

 横山が小声で俺に教えるが、全くもって分からない。何がやばいんだ?
 会長と教えられた男が俺の側にやってきた。だが、あと一歩感覚としては離れている。まぁ、教室だから机が邪魔なんだよね。

「千尋、俺を本当に忘れたのか?」

 会長は俺を訝しんで見つめる。確実に疑っている。青山千尋が忘れて振りをしているのでは無いかと言う疑念。

「わりーけど、マジでお前のことわかんねーから」

 俺がそう言うと、会長は確実に目がまじになった。

「俺を忘れたって言うのなら、思い出させてやるまでだ」

 エロ小説で聞くようなエロいセリフを言って、会長が俺の腕を掴んだ。
 会長の、背後に焦った顔の陸が見えた。
 俺は陸の顔を確認した時、思わずニヤリと笑ってしまった。

「御遠慮願いたいね」

 俺は言うなり会長の懐に入り込んだ。そのまま袖釣込腰を会長に、決めてやった。
 体格差は十分にあったけど、柔道とはそういうものである。
 俺が確実に一本決めた時、陸が嬉しそうにそばに立っていた。

「その体でも技が出せるのかよ」

 陸の頬が紅潮していた。陸しか知らない俺の顔を見たからだろう。

「俺を護衛してくれるのに、ちょっと遅いんじゃないか?」

 俺はあえて陸に皮肉を言ってやった。

「まぁまぁ、無事なんだから」

 陸は俺の手を取って、倒れている会長に声をかけた。

「青山は記憶喪失中だから諦めてくれ。無理に手を出すって言うのなら、風紀の権限でお前を停学処分にする」

「なんで、お前がっ」

 会長が悔しそうな顔をしている。

「学園から直接頼まれた。たとえ生徒会でもこれは覆すことは出来ない」

 陸はそう言うと俺の手を引いて教室を後にした。
 俺は、教室に残した会長に向かって声をかけた。

「記憶が戻ったら、ちゃんと話あいしような」

 一応フォローはしておかないと、後々青山千尋が可哀想だからな。

「恋人」

「へ?」

「生徒会会長は、青山の恋人って認識されてる」

「へぇぇ」

 でも、青山はビッチ認定されてるんだろ?恋人がビッチでもいいのか?

「青山が会長の恋人認定されたのは、三年になってからなんだ」

 陸が意外なことを言ってきた。
 うーん、そうか、恋人になりたてほやほやじゃあ仕方がないよな。まだ1ヶ月も経ってないもんなぁ。悔しいだろうに。

「まぁ、同情はするけど…ちょっと強引だよな」

 俺がそう言うと、陸は頷きこう言った。

「青山を恋人にしたこと自体が割と強引だったからな」

 なるほど、特定の恋人を作らなかった青山を、強引に自分のものにしたということか。
 陸がこちらを見ないでぼそりと言った。

「ちなみに、まだ連絡は来ていない」

 俺にはまだ、朗報が来なかった。



 その日の夕飯も陸の部屋で食べた。
 陸がまた食堂から食事を運びこんだのだ。


「これって、やっていい事なのか?」

「禁止はされていない。食器を返すのが面倒だから誰もやらないだけだ」

 陸はそう言って、お盆をテーブルに置いた。

「考えるの面倒だから、中華のおかずを適当にとってきた。米食いたいよな?」

 さすがは我が弟。俺のことが分かっている。普段体を動かす俺は、夜はガッツリ食べたい派なんだよね。

「病院に電話したんだけど、まだ起きないって、言われたよ」

 陸が話しずらそうに言ってきた。わざわざ病院に電話をしてくれたのか。

「実家より、俺の方が病院に近いからな。ただ、退院の手続きは親が行かないと出来ないんだよなぁ」

 未成年のなんとも言えないところである。
 事故による入院なので、最終的には請求できるらしいが、一時支払いは自分ですることになるらしい。それの免除手続きも保護者にしてもらわないといけないのが未成年の、辛いところだ。

「誕生日までには戻りたいなぁ」

 俺がポツリと呟くと、陸がカレンダーを見た。

「ああ、そうだよな」

 五月生まれの俺の誕生日まであとわずかしかない。18を迎えるのに体が寝たきりなんて、祝えないよなぁ。

 俺はカレンダーを眺めてため息をついた。



 陸の部屋にいるからか、会長は青山に迫ることを諦めてくれたらしい。俺にとってはありがたいが、青山にとってはどうなんだろう?とか、余計なことを考えてしまう。
 本当は寝ている俺を起こしに行きたい。でも、青山は赤の他人のため面会は出来ない。行けるとしたら陸だ。

「なぁ、俺のお見舞いに行かないのか?」

 俺は陸に聞いてみた。
 俺は青山の中に入っているけれど、体は未だに入院しているのだ。家族である陸なら、病室に入ることができる。

「なんで?」

「ほら、弟である陸が呼びかけたらなんか反応するかもしれないじゃん」

 俺は自分体の状態を確認したくてたまらなかった。入院しているのでちゃんとケアはされているだろうけれど、不安でたまらない。

「明日、見に行ってみるか?」

「俺は病室に入れないだろ?」

「重病患者ではないから、ごねれば何とかなるかもしれないよな?」

 陸が笑った。


 そんなわけで、俺と陸はバスに乗って麓の病院に向かった。本当はそんなわけないのだけれど、退院後の検査と言うことにした。
 二人で出かけるのなんて何年ぶりだろう?
 俺がちょっと嬉しそうにしていると、何故か陸が俺の頭を撫でてきた。

「青山なんだけど、昴だと思うと可愛いな」

 陸はやっぱり、俺の事をそういう目で見ているのだと改めて思った。

 病院では、やっぱり身分証明書を見せる羽目になった。陸は俺の家族だから、問題ないようだけど、やっぱり青山が、問題らしい。
 陸がゴネて青山の説明をすると、看護士たちが何やらヒソヒソと話をしているのが見えた。
 どうやらあの学園の生徒というのがキーの様だ。
 うん、想像するとなん寒気がするよな、普通。俺は違う。と、もう言えないのが、辛い。



 寝ている俺を見るのはかなり奇妙な経験だった。

「うわ、俺寝てる。起きないかなぁ」

 そう言って、頬をツンツンしてみるが、なんの反応もない。

「青山千尋、起きてくれよ」

 耳元で呼びかけてみるが、まったく反応がなかった。

「点滴か」

 陸が俺の体に刺さるチューブの袋を眺めた。起きないから、栄養を入れられているわけだ。
 これじゃあ、筋肉が落ちる。

「頼む、早く起きてくれ」

 俺は寝ている俺の手を握って、病院を後にした。

「俺たちがなにかの刺激になるといいな」

 帰りのバスで、そんなことを話した。
 あの日みたいに、また、夢に出てきてくれるだろうか?どうして俺は起きたのに、青山は起きないのか?
 そんなに俺の体は強い衝撃を受けてしまっていたのだろうか?疑問だ。

 その日の夜、夢に青山千尋は現れなかった。

 俺は落胆して目が覚めた。
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