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第11話
しおりを挟む安倍の意外な申し出に、直江は瞬きを繰り返した。そこは話の流れからいって、金の無心にいくところだろう。
「ダメですか?」
捨てられた子犬のような目をして安倍が訴えてくる。いや、見た目は大型犬の安倍であるが、上目遣いに眉根を下げて聞いてくるその顔は、まさに捨てられた子犬のような憐憫の情に訴えてくる。まさにそんな表情をしていた。
「だ、め、ではないが、娘たちが、万が一にも……」
直江は取り敢えず考える素振りをして見せた。すぐに結論を出すのは宜しくない。もっとも、断れるのか問われれば、断れないだろう。
「奥様が亡くなられた時、娘さんたち、まるで追い剥ぎみたいだったそうですね。課長が奥様にプレゼントしたブランドの品物を根こそぎ持って行ってしまったらしいじゃないですか」
「なぜそれを」
身内の恥のようだから、誰にも言わないでいたのだが、近所の目はあった。葬式の後、近所の人たちが独りなった直江を気遣って簡単な食事を届けてくれたりしたのだが、その時に見られてしまっていたのだ。娘たちが争うように亡き妻の部屋からブランド物の服やバッグを持ち出して行くところを、そして玄関先で罵りあっている姿を。娘たちが言い争った理由は簡単で、服の枚数と言う至極簡単な内容だった。悲しみのあまり呆然としている直江の手から、娘たちは形見の指輪まで奪い取ろうとしたものだから、流石にご近所さんが止めに入ったのだ。もちろん、直江だってその瞬間に娘の手を思いっきり払い除けたのは言うまでもなかった。「この指輪は愛する妻に贈ったもので、お前たちに譲るつもりなどない!」と直江も感情に任せて怒鳴りつけのだ。その後娘たちは何か文句を言いながら出ていって、それきり訪ねて来ることはなかった。そう、納骨にさえやってこなかったのだ。金の切れ目が縁の切れ目とは言ったもので、直江の妻、つまり母親が死んだところで何も相続する財産がないと知って、娘たちは目に付いた金目の物をありったけ奪い取って行ったのだ。おそらく次にやってくるのは直江が死んだ時だろう。妻の形見の指輪はダイヤである。給料の3ヶ月分をつぎ込んだ婚約指輪だ。不在時に娘たちに取られないよう、玄関の鍵を付け替えたのはいうまでもない。
「俺、課長のストーカーですから、なんでも知ってるんですよ」
安倍が直江を優しく抱きしめた。
「……そうか」
安倍の腕に包まれて、直江は不可思議な気持ちになった。
「例えば、今日の課長のブラの色は水色ですよね?それは履いているトランクスに合わせているからですよね?」
直江の心が飛び跳ねた。
着替えている時、安倍は部屋にはいなかった。妻の形見を身につけているところは見られてなどいなかったはずなのに。なのにどうして色がバレているのだろうか。
「答え合わせをしてみましょう」
安倍がそう言って直江のベルトに手をかけた。止めようと言う気持ちはなぜだか浮かんでなど来なかった。直江の頭の中にもなぜだか確認したいという欲求が湧き上がっていたのだ。多分そうだ。と思う。だが、本当にそうだったのかと言われれば、自身がないのだ。
「確認しましょう」
安倍の手は滑らかに動き安倍のズボンのベルトを外し、ズボンをおろしその下のトランクスを晒してきた。着ているシャツのすそに阻まれ、トランクス全体が直江には見えないが、水色というか青っぽい生地が見えた。
「これだと分かりにくいですよね」
安倍はそう言うと、直江の体を持ち上げた。少し腰が浮いたかと思うと、直江の尻にヒンヤリとした感触がやってきた。思わず体が硬くなったけれど、声には出さない。何しろここは会社の中の資料室だ。社内の誰かがいつやって来るか分からないのだから。
「ね?水色のトランクスですよね?で、ブラも水色です」
膝まで降ろされたトランクスに、シャツを捲られて出てきたのは宙に揺れる水色のブラだ。確かに色はあっている。何となく、若かりし頃の記憶にあったために下着の色を合わせてしまうのだ。
「そ、そうだな」
安倍に気づかれないように静かに喉を鳴らす。色々と驚きすぎて直江は何も動けないでいた。
「ちゃんとキレイになってますよね?あの後俺、蒸しタオルで拭いたんですよ」
そんなことを言いながら、安倍は直江の股間を覗き込んだ。そして指先で繁みの中に隠れている直江の愚息をそっと持ち上げて、丁寧に表と裏を確認してきた。ヒンヤリとした空気が局部に当たり、思わず直江の腰が動いた。
「ふ、拭いた」
2回目のあとの記憶が無いのは確かである。一人で処理をしたのなら、拭くのはティッシュが妥当である。だが、昨夜は安倍が何かを塗ってきたので、直江の愚息は全体的にねっとりとした状態になっていた。確かにそれをティッシュで拭き取ることは出来なかっただろう。だが、蒸しタオルとはどうやって用意したのだろうか。いや、考えるだけ無駄である。今朝の朝食の事を思えばわかる事だ。安倍は直江の家のことを把握しているのだ。
「今日も可愛いですね」
そう言って、安倍の顔がさらに直江の股間に近づいた。
「何を……」
直江が気がついた時には、既に直江の股間は安倍の頭で隠されてしまった。
「ぐぅう」
温かく、湿った柔らかな感触に包み込まれてしまい、直江の腰がほんの少し浮いた。
「ふぉおお」
安倍の口内で直江の愚息が立ち上がった。その弾みで上顎に当たったことがまたなんとも言えない刺激だった。
「あ、安倍くん」
思わず安倍の頭をつかみそうになって、慌ててその手を持ち上げた。こんな状態を誰かに見られたら大問題である。しかもとんでもなく気持ちがいいのだ。ギュンギュンと玉が浮き上がる感覚は、忘れ去っていた若かりし頃の思い出である。絶妙な舌の動きが直江の愚息を刺激して、時折強く吸われる度に腰が浮くのだ。先端を優しく舐められるのも、使い方を忘れてしまった鈴口を舌先でつつかれるのも、背徳感と併せて物凄く刺激的であった。
「課長、俺のお願い聞いてくれませんか?」
そんなことを口にして、安倍が顔を上げた。開いた口の中には直江の愚息が横たわっている。ピンクの舌の上に浅黒い肌の直江の愚息。その向こうに白い歯が見えた。直江の視界には資料室の棚とスーツ姿の部下、見慣れた社内の床、そして自分が座っているのはコピー機だ。
入社してから三十年あまり、真面目に仕事をしてきた。バブル世代の生き残りながら、出世の道を掴み取り課長に上り詰めた。ワイドショーやスポーツ新聞でしか目にしてこなかった社内不倫と言う状況に、今直江は陥ってしまっているらしい。いや、妻はもう居ない。だから不倫にはならない。安倍は独身である。一瞬にして直江の頭の中でこの状況に対する言い訳が溢れ出した。
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