【完結】英雄が番になるって聞いたのになんか違う

久乃り

文字の大きさ
2 / 19

第2話 入寮しましたよ

しおりを挟む
上位貴族であるから、俺は一応荷造りをして国から指定された寮に向かった。
 平民なら着の身着のまま行くことが多いらしい。なにしろ、優秀なΩになるために、国が全て用意してくれるからな。

 ただ俺は、お気に入りの仕立て屋がいるため、着慣れた服を持ち込んだ。その仕立て屋は母上も利用しているので、今後も依頼はできるだろう。
 寮にはΩしか入れないため、俺は母上と来たのだけれど、母上にとっては懐かしい場所であることに変わりはなかった。

「何も変わっていないのねぇ」

 嬉しそうに廊下を歩く母上は、なんとも可愛らしく見える。

「ミュゼ様ではありませんか」

 受付にいた職員が母上を見て嬉しそうに微笑んだ。そりゃそうだ、優秀なΩであった母上、上位貴族に嫁いだのだ。そして、再びΩの息子を連れてやってきた。まさに絵に書いたようなΩとしての理想の生き方だ。

「リュートよ、私の息子です」

 母上は大変優雅な動きで俺を職員に紹介した。俺も母上のようにならねばならない。

「はじめまして、リュートです。これからお世話になります」

 そう言って頭を下げると、母上が俺の挨拶を訂正してきた。

「違うわリュート、Ωのお辞儀はそうじゃないの」

 母上は右手を胸に当て、左足を後ろに少し引いて膝を少し曲げた。いわゆるカーテシーだ。
 Ωは女性のポジションとなるから、挨拶の仕方もそちらになると言うことらしい。

「ミュゼ様、これからここで、学びますからご安心ください」

「私息子なのに、挨拶の仕方も教えていなかったなんてか恥ずかしいわ」

 母上はまるで、鈴の音のような笑い声を上げた。
 母上は本当に優秀なΩだ。俺は母上の名誉となるために頑張らなくてはならない。

 俺の部屋は2階の角部屋だった。
 一応、上位貴族の子息である俺は、それなりに上等な部屋をあてがわれたらしい。βの侍従は自宅から連れてきた。幼い頃からの侍従であるから、安心して任せられる。平民のΩは、ここに来て初めて侍従が着くのだが、ほとんどが監視とお目付け役を担っている。

 俺は侍従と一緒に荷物を解いた。母上の見立てで作った服は、Ωとして相応しいものばかりだった。

 品があって清楚なイメージ。

 本当は、俺なんて一人称も、使わない方がいいのだろうけど、直ぐに直せるものでは無い。直さなくてもいいらしいけどな。そっちの方がα‬の支配欲を満たす場合もあるらしいから。
 母上はお茶を飲んでゆっくりした後帰って行った。月に一度は様子を見に来るとやくそくをして。
 まぁ、ホームシックになるかもしれないけれど、それはそれだ。

 夕食はマナーレッスンも兼ねて食堂で全員揃って食べるらしい。全部で30人ほどしかいないのは驚いた。

 そして突然挨拶の訓練となった。
 上級生から順に自己紹介をするのだ。
 ゆっくりと席をたち、前に出てきてカーテシーをしてからのご挨拶。新入生はそれを見ながら挨拶の仕方を学ぶのだ。俺はたまたま母上に教わったばかりなので、知っていたが、平民のΩはだいぶ驚いた顔をしていた。

 そりゃそうだ、お辞儀じゃない挨拶なんて初めて見ただろうからな。
 なぜだか分からないけれど、挨拶は俺が最後にされてしまった。上位貴族の子息だからだろうか?なんて勘繰ってしまうが、案外そうなんだろう。

 俺は、母上に仕込まれたとおりに挨拶をした。
 おそらく、新入生の中では上出来だったと思う。先輩方の目線が痛かったけどな。
 食事のマナーは、貴族出身者にとっては日常であったが、平民のΩは大変そうだった。隣に座った貴族の子息が教えることになる。それも優秀なΩとして大切なことらしい。

 まだ、学校が始まっていないのに、Ωとしての教育は始まっているようだった。さすがは国の管理下なだけはある。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

殿下に婚約終了と言われたので城を出ようとしたら、何かおかしいんですが!?

krm
BL
「俺達の婚約は今日で終わりにする」 突然の婚約終了宣言。心がぐしゃぐしゃになった僕は、荷物を抱えて城を出る決意をした。 なのに、何故か殿下が追いかけてきて――いやいやいや、どういうこと!? 全力すれ違いラブコメファンタジーBL! 支部の企画投稿用に書いたショートショートです。前後編二話完結です。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

俺がこんなにモテるのはおかしいだろ!? 〜魔法と弟を愛でたいだけなのに、なぜそんなに執着してくるんだ!!!〜

小屋瀬
BL
「兄さんは僕に守られてればいい。ずっと、僕の側にいたらいい。」 魔法高等学校入学式。自覚ありのブラコン、レイ−クレシスは、今日入学してくる大好きな弟との再会に心を踊らせていた。“これからは毎日弟を愛でながら、大好きな魔法制作に明け暮れる日々を過ごせる”そう思っていたレイに待ち受けていたのは、波乱万丈な毎日で――― 義弟からの激しい束縛、王子からの謎の執着、親友からの重い愛⋯俺はただ、普通に過ごしたいだけなのにーーー!!!

妹を救うためにヒロインを口説いたら、王子に求愛されました。

藤原遊
BL
乙女ゲームの悪役令息に転生したアラン。 妹リリィが「悪役令嬢として断罪される」未来を変えるため、 彼は決意する――ヒロインを先に口説けば、妹は破滅しない、と。 だがその“奇行”を見ていた王太子シリウスが、 なぜかアラン本人に興味を持ち始める。 「君は、なぜそこまで必死なんだ?」 「妹のためです!」 ……噛み合わないはずの会話が、少しずつ心を動かしていく。 妹は完璧令嬢、でも内心は隠れ腐女子。 ヒロインは巻き込まれて腐女子覚醒。 そして王子と悪役令息は、誰も知らない“仮面の恋”へ――。 断罪回避から始まる勘違い転生BL×宮廷ラブストーリー。 誰も不幸にならない、偽りと真実のハッピーエンド。

転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした

リリーブルー
BL
「しごとより、いのち」厚労省の過労死等防止対策のスローガンです。過労死をゼロにし、健康で充実して働き続けることのできる社会へ。この小説の主人公は、仕事依存で過労死し異世界転生します。  仕事依存だった主人公(20代社畜)は、過労で倒れた拍子に異世界へ転生。目を覚ますと、そこは剣と魔法の世界——。愛読していた小説のラスボス貴族、すなわち原作主人公の宿敵(ライバル)レオナルト公爵に仕える側近の美青年貴族・シリル(20代)になっていた!  原作小説では悪役のレオナルト公爵。でも主人公はレオナルトに感情移入して読んでおり彼が推しだった! なので嬉しい!  だが問題は、そのラスボス貴族・レオナルト公爵(30代)が、物語の中では原作主人公にとっての宿敵ゆえに、原作小説では彼の冷酷な策略によって国家間の戦争へと突き進み、最終的にレオナルトと側近のシリルは処刑される運命だったことだ。 「俺、このままだと死ぬやつじゃん……」  死を回避するために、主人公、すなわち転生先の新しいシリルは、レオナルト公爵の信頼を得て歴史を変えようと決意。しかし、レオナルトは原作とは違い、どこか寂しげで孤独を抱えている様子。さらに、主人公が意外な才覚を発揮するたびに、公爵の態度が甘くなり、なぜか距離が近くなっていく。主人公は気づく。レオナルト公爵が悪に染まる原因は、彼の孤独と裏切られ続けた過去にあるのではないかと。そして彼を救おうと奔走するが、それは同時に、公爵からの執着を招くことになり——!?  原作主人公ラセル王太子も出てきて話は複雑に! 見どころ ・転生 ・主従  ・推しである原作悪役に溺愛される ・前世の経験と知識を活かす ・政治的な駆け引きとバトル要素(少し) ・ダークヒーロー(攻め)の変化(冷酷な公爵が愛を知り、主人公に執着・溺愛する過程) ・黒猫もふもふ 番外編では。 ・もふもふ獣人化 ・切ない裏側 ・少年時代 などなど 最初は、推しの信頼を得るために、ほのぼの日常スローライフ、かわいい黒猫が出てきます。中盤にバトルがあって、解決、という流れ。後日譚は、ほのぼのに戻るかも。本編は完結しましたが、後日譚や番外編、ifルートなど、続々更新中。

偽物勇者は愛を乞う

きっせつ
BL
ある日。異世界から本物の勇者が召喚された。 六年間、左目を失いながらも勇者として戦い続けたニルは偽物の烙印を押され、勇者パーティから追い出されてしまう。 偽物勇者として逃げるように人里離れた森の奥の小屋で隠遁生活をし始めたニル。悲嘆に暮れる…事はなく、勇者の重圧から解放された彼は没落人生を楽しもうとして居た矢先、何故か勇者パーティとして今も戦っている筈の騎士が彼の前に現れて……。

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

処理中です...