【完結】英雄が番になるって聞いたのになんか違う

久乃り

文字の大きさ
9 / 19

第9話 いざ実習です

しおりを挟む
Ωにしか使えない魔法とは、すなわち聖魔法だった。簡単に言えば癒し系、治癒とかそういう奴で、加護とか与えられるそうだ。

 神秘的な魔法は、男なのに妊娠できてしまう神秘的なΩにのみ与えられた特別な魔法なんだそうな。

 だからこそ、国がΩを保護するという訳だ。

 いざと言う時、国のお偉いさんを助けられるんだもんな。そりゃ、平民からでもきっちりと国に召し上げるわけだよ。

「とても大切なことを言いますから、心して聞いてください」
 教師の、顔つきが変わった。

「この聖魔法は、一度でもαを受け入れると、万人に使えなくなります」

 教室が静まり返った。
 どういうことだ?

「番を持ってしまうと、Ωの聖魔法は番にしか与えられなくなるのです。ですから、在学中に決して過ちを侵さないこと」

 それって、恐ろしいことだよね?在学中のΩに手を出したら即バレ?手を出したらαは処罰されるってことか?

「あとは、産まれてきた我が子にも与えられますから安心してくださいね」

 付け加えるように教師が言ってきた。
 ああ、そういえば、小さい頃母上がどんな傷も治してくれていたのはそういう事か。ガゼル以外の全員が納得していた。

 んで、今日の授業は、全員で聖魔法の操作の精度をあげることだった。
 最初は針で自分の指をつき、その小さな傷を治すことから始まった。徐々に傷を大きくしていった。最終段階は、ペアを組んだ相手の切り傷を治すことらしい。

 俺たちのテーブルは、奇数なんだよね。他は2人がけなんだけど、今年は平民出身がガゼルしかいないから、上位貴族の子弟である俺とオウリルが一緒になっている。まぁ、中途半端な階級の者よりは、飛び抜けた者が相手した方が吹っ切れるよな。

 午前中は自分の傷を治すだけで終わってしまった。午後はお互いの傷治すことにすすめるとは思うけど、緊張しいのガゼルは、オウリルの相手をすることに顔面蒼白になっていた。変わってやってもいいけど、どのみち上位貴族の子弟であることに変わりはないけどな。

 Ωにとって、この聖魔法の習得は必須で、今日中に覚えなくてはならないと、出来なければ居残りとまで言われてしまった。
 居残りになったのは言うまでもない。



 次の日、どうしてあんなに習得を急かされたのかが判明した。

「戦地に赴く騎士様方のために、御守りを作ります」

 教師に言われて合点がいった。
 俺がΩになって一番喜んだこと。それは戦地に赴かなくて済むことだ。つまり、それ。
 Ωの聖魔法を込めた御守りを、騎士に与えるということで、生徒が作るのだ。

 学園のΩの生徒が作るわけだから、そりゃ一年生でもやらなくてはならない。何せ騎士の数が多い。Ωの生徒の数から考えても、一人20個は作らないと間に合わないだろう。慣れていない一年生は、失敗も多いだろうから、必然的に三年生に負担がかかるということか。
 俺たちは、言われた通りに加護を与えるのだけれど、なかなか上手くいかない。

「ガゼル、そっとだよ」

 集中して加護を注ぐのだけれど、ガゼルが安定して注げないために失敗が増えていく。自分の作った御守りを、出陣式の際に騎士に渡すらしい。
 それはすなわち、未来の番候補との顔合わせでもあるのだ。

 いいものを作らなくては、理想の番を見つけられないというわけだ。
 まぁ、多分、俺たち一年生は、階級の低い騎士にあたるんだよな。なんて、思っていたのに。

「リュート様とオウリル様は、上位貴族であらせられますから、隊長クラスの方にお渡ししますからね」

 なんて、爆弾を落とされた。
 当然、俺とオウリルは顔を合わせて無言になった。そんな話は聞いていない。

「え、マジかよ」
「僕も、聞いてないよ」

 俺たちが驚きを隠せないでいると、何故かガゼルが緊張してしまい、やたらと失敗してくれた。
 仕方が無いので、まずはガゼルの分を終わらせることにした。

 ガゼルの分が終わって、俺とオウリルは手を繋いだ。緊張をほぐすためと、意識の共有。
 お互いの意識を共有して、聖魔法の精度を高める。手を繋いで見つめ合う姿はちょっとアレだけど、繋いだ手のひらがじんわりと温かくなるのが分かった。

 ゆっくりと息を吐いて、手のひらを御守りに向ける。柔らかい光が御守りに注がれるのが見えた。加護を吸収した御守りが、ちょっとだけ浮いて、カタンと小さな音をたてた。

 成功だ。

 俺とオウリルは、一つやる事に手のひらを合わせることにした。ガゼルの時は二人でガゼルの背中に手のひらを当てていたけれど、二人で集中するにはこの方がやりやすい。

 俺とオウリルは居残り組になってしまってけれど、何とか20個づつ御守りを作ることが出来た。
 籠に入れられた御守りは、見ただけで時分の魔法がかけられているのがハッキリと分かった。

 なるほど、これは確かに未来の番を得るためにばら撒くエサかもしれない。そりゃ、家柄を考慮して渡す相手が決められるわけだ。

 明日の授業は午後からで、式典のリハーサルらしい。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

殿下に婚約終了と言われたので城を出ようとしたら、何かおかしいんですが!?

krm
BL
「俺達の婚約は今日で終わりにする」 突然の婚約終了宣言。心がぐしゃぐしゃになった僕は、荷物を抱えて城を出る決意をした。 なのに、何故か殿下が追いかけてきて――いやいやいや、どういうこと!? 全力すれ違いラブコメファンタジーBL! 支部の企画投稿用に書いたショートショートです。前後編二話完結です。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

俺がこんなにモテるのはおかしいだろ!? 〜魔法と弟を愛でたいだけなのに、なぜそんなに執着してくるんだ!!!〜

小屋瀬
BL
「兄さんは僕に守られてればいい。ずっと、僕の側にいたらいい。」 魔法高等学校入学式。自覚ありのブラコン、レイ−クレシスは、今日入学してくる大好きな弟との再会に心を踊らせていた。“これからは毎日弟を愛でながら、大好きな魔法制作に明け暮れる日々を過ごせる”そう思っていたレイに待ち受けていたのは、波乱万丈な毎日で――― 義弟からの激しい束縛、王子からの謎の執着、親友からの重い愛⋯俺はただ、普通に過ごしたいだけなのにーーー!!!

妹を救うためにヒロインを口説いたら、王子に求愛されました。

藤原遊
BL
乙女ゲームの悪役令息に転生したアラン。 妹リリィが「悪役令嬢として断罪される」未来を変えるため、 彼は決意する――ヒロインを先に口説けば、妹は破滅しない、と。 だがその“奇行”を見ていた王太子シリウスが、 なぜかアラン本人に興味を持ち始める。 「君は、なぜそこまで必死なんだ?」 「妹のためです!」 ……噛み合わないはずの会話が、少しずつ心を動かしていく。 妹は完璧令嬢、でも内心は隠れ腐女子。 ヒロインは巻き込まれて腐女子覚醒。 そして王子と悪役令息は、誰も知らない“仮面の恋”へ――。 断罪回避から始まる勘違い転生BL×宮廷ラブストーリー。 誰も不幸にならない、偽りと真実のハッピーエンド。

転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした

リリーブルー
BL
「しごとより、いのち」厚労省の過労死等防止対策のスローガンです。過労死をゼロにし、健康で充実して働き続けることのできる社会へ。この小説の主人公は、仕事依存で過労死し異世界転生します。  仕事依存だった主人公(20代社畜)は、過労で倒れた拍子に異世界へ転生。目を覚ますと、そこは剣と魔法の世界——。愛読していた小説のラスボス貴族、すなわち原作主人公の宿敵(ライバル)レオナルト公爵に仕える側近の美青年貴族・シリル(20代)になっていた!  原作小説では悪役のレオナルト公爵。でも主人公はレオナルトに感情移入して読んでおり彼が推しだった! なので嬉しい!  だが問題は、そのラスボス貴族・レオナルト公爵(30代)が、物語の中では原作主人公にとっての宿敵ゆえに、原作小説では彼の冷酷な策略によって国家間の戦争へと突き進み、最終的にレオナルトと側近のシリルは処刑される運命だったことだ。 「俺、このままだと死ぬやつじゃん……」  死を回避するために、主人公、すなわち転生先の新しいシリルは、レオナルト公爵の信頼を得て歴史を変えようと決意。しかし、レオナルトは原作とは違い、どこか寂しげで孤独を抱えている様子。さらに、主人公が意外な才覚を発揮するたびに、公爵の態度が甘くなり、なぜか距離が近くなっていく。主人公は気づく。レオナルト公爵が悪に染まる原因は、彼の孤独と裏切られ続けた過去にあるのではないかと。そして彼を救おうと奔走するが、それは同時に、公爵からの執着を招くことになり——!?  原作主人公ラセル王太子も出てきて話は複雑に! 見どころ ・転生 ・主従  ・推しである原作悪役に溺愛される ・前世の経験と知識を活かす ・政治的な駆け引きとバトル要素(少し) ・ダークヒーロー(攻め)の変化(冷酷な公爵が愛を知り、主人公に執着・溺愛する過程) ・黒猫もふもふ 番外編では。 ・もふもふ獣人化 ・切ない裏側 ・少年時代 などなど 最初は、推しの信頼を得るために、ほのぼの日常スローライフ、かわいい黒猫が出てきます。中盤にバトルがあって、解決、という流れ。後日譚は、ほのぼのに戻るかも。本編は完結しましたが、後日譚や番外編、ifルートなど、続々更新中。

偽物勇者は愛を乞う

きっせつ
BL
ある日。異世界から本物の勇者が召喚された。 六年間、左目を失いながらも勇者として戦い続けたニルは偽物の烙印を押され、勇者パーティから追い出されてしまう。 偽物勇者として逃げるように人里離れた森の奥の小屋で隠遁生活をし始めたニル。悲嘆に暮れる…事はなく、勇者の重圧から解放された彼は没落人生を楽しもうとして居た矢先、何故か勇者パーティとして今も戦っている筈の騎士が彼の前に現れて……。

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

処理中です...