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35貴族裁判
しおりを挟むジュリエットの裁判は王立裁判院で行われた。
お茶会の日から裁判当日まで王宮内で拘束されていたジュリエットは、少しやつれた様子で裁判院に現れた。王立裁判院は平民、貴族両方の裁判を開くが被告が貴族のケースは少ない。ましてやそれが高位の公爵家の令嬢とあって、傍聴席は好奇心に満ちた傍聴人で満席になっていた。
裁判長は侯爵家の貴族で、4人の裁判官の内2人は貴族だが、もう2人は平民だ。この国の主要なポストには高位貴族しか就くことが出来ないが、裁判所だけは公正を期すために平民も採用されていた。
ジュリエットは弁護人と入廷したが、弁護人を見て廷内がにわかにざわついた。
「あれはライオネル殿下ではありませんか?!」
「クレイ公爵家の令嬢と婚姻の話が出ているというのは、本当だったのですわね」
「いやいや、ご婚約はされていないですよ。こんな事件に起訴されれば婚姻の話だって白紙になりますよ」
「では一体なぜライオネル殿下が弁護などなさるのでしょう・・」
カンカン、と木製のガベルが打ち鳴らされた。派手な音ではないが廷内を静めるには十分だった。
「開廷致します」
ジュリエットが被告人席に立たされ罪状認否が始まった。ジュリエットは一貫して無実を訴えたが、アカデミーでのリンに対するジュリエットの嫌がらせなどが証言され、ジュリエットには動機がある事が印象付けられてしまった。
ロザリンとアノンが召喚されジュリエットに命令されてリンに様々な嫌がらせを行ったと証言したのだ。これを受けて原告側は、リンへの嫉妬と王太子妃という立場に固執したために行った犯行だと決めつけた。
その後ミナが証人として喚問された。
「この小瓶に見覚えはありますか?」
「はい。ジュリエット様から渡された小瓶です」
「中身は何か知っていますか?」
「滋養強壮剤だと聞きました」
「それをリン・パラディ嬢のお茶に入れるように、ジュリエット・クレイ被告から頼まれたのですね?」
「そうです」
「では次に雑貨屋を営む、アル・グリーク氏を証人として喚問致します」
原告側に喚問されたのは50代後半くらいの小柄な男だった。少し猫背で人を上目使いに見る癖があるようだ。
「アル・グリークさん、あなたは北区8番街で雑貨屋を営んでいますね?」
「はい」
「この小瓶に見覚えはありますか?」
「それはうちで取り扱っている物でございます」
「中身は何ですか?」
「それは毒物です。主に殺鼠剤に使用します」
ここでまた廷内がどよめいた。さらに原告側の検事が続けた。
「この小瓶の毒物を購入した人物を覚えていますか?」
「はい、被告席に居る女性です」
騒然となった廷内を静める為、裁判長はもう1度ガベルを強く叩いた。
その後、ジュリエットにはリン・パラディを私怨から殺害しようとしたとして、15年の地下牢への幽閉が求刑された。
ジュリエットに求刑された刑の重さに、またどよめきが走った。
リンは命に別条は無かったものの、ミナに薬を盛らせて罪をなすり付けようとする行為は非道である事。またリンは未来の王妃である事などが求刑の重さの主な理由だった。
_____________
「この雑貨屋はなんでこんな嘘をつきやがるんだ!」
康兄さまが暴言と共に放り投げた本は、和華の部屋のドアに当たって床に落ちた。デスクの前の椅子から立ち上がった藤本先輩がそれを拾い上げ、もう一度内容を確認している。
いつもは穏やかで笑みの絶えない藤本先輩も、今日は沈んだ表情で口数も少ない。康兄さまに至っては裁判の様子が新しく書き込まれた本を憎々し気に投げつける有様だった。
「もうこうなったら俺があっちの世界に行って和華を連れて帰ってくる!」
康兄さまは藤本先輩から本をひったくり豪語した。
「何か妙案が浮かびましたのですか?!」
「岸田君!」
わたくしと先輩の期待の眼差しを受けた康兄さまは、力なくベッドに腰を下ろした。
「・・・・何も、何も浮かばねぇ。毎日小説の事ばかり考えて、寝る時は枕の下に置いて寝て‥でもそんな事をしても和華と同じ現象が起きるはずないって分かってんのに」
「岸田君・・まだ裁判は終わってない。これから弁護人の弁論が始まるはずだ。投獄さえ免れれば、こっちに帰ってくる方法をまだ探せるよ」
「そうですわ。半月になれば今度は和華が帰ってくる番ですもの」
そこへいきなりドアが開いて智兄さまが顔を覗かせた。相変わらずこの方はノックをせずに妹の部屋に入って来るようですわ。
「おっ! お前ら3人、最近よくつるんでるな。うまいもの食わせる店でも探してるのか?」
「智兄ぃ、なんか用かよ?」
「いや、夕飯が出来たから呼んで来いって言われただけだ。俺腹減ってんだからよ、すぐ来いよ」
去り際に「今日はトンカツだってよ。肉なんて珍しいぜ~」と上機嫌な智兄さまの声がしていた。
「ちぇっ、あいつは能天気で羨ましいぜ」
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