男に間違えられる私は女嫌いの冷徹若社長に溺愛される

山口三

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山本の憂鬱(閑話)

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 嫌だ。俺は絶対嫌だった。
 
 高野景子のマネージャーなんて死んでも嫌だ。

 彼女のわがままは事務所では有名だった。だけど恩ある落合社長に頼まれたらイヤとは言えなかった。大卒で務めた芸能事務所でアイドルに手を出して解雇された俺を拾ってここまで育ててくれた社長だ。

「沙耶ちゃんが出られない間だけ助けて貰えないかしら?」

 そう、少しの間だけだ・・。

 だがその少しが地獄の連続だった。高野景子のわがままは度を過ぎている。

 先日のドラマの撮影では新人のユウミが気に入らないと散々愚痴をこぼしていた。ユウミのせいで自分の出番まで削られたと。

 それが翌日には打って変わって優しい先輩面してユウミの面倒を見ていたから、気が変わったのかと思っていた。

「山本く~ん、これユウミちゃんに持って行ってくれる? ドーランの色が合わないって言ってたのよ。彼女のと取り換えてあげて」

 ただの親切心だと思って俺はユウミのドーランと景子が差し出したドーランを取り換えた。

「ユウミの持ってたやつはどうしますか?」
「いらないわ、捨ててしまって」

 俺はなぜかそのドーランを捨てなかった。高野景子のおかしな表情を見たからだ。なんとなく嫌な予感がしたんだ。

 案の定俺の予感は当たった。ドーランの容器は同じものだ、ユウミは何も知らないでメイクを始めた。

 そして異変は撮影中に起こった。

「す、すみません。具合が・・急に・・顔が・・」

 メイクの上からでもユウミの顔が赤く腫れているのがはっきり分かった。ユウミはそのまま病院に行き、撮影が中断されてしまった。ドラマの撮影は時間との勝負だ、ユウミの出番は削られ別のシーンがあてがわれた。

 ユウミの症状は2、3日で収まったが、本人は撮影に穴を開けてしまった事、顔にシミが残ってしまった事に随分ショックを受けていた。顔のあんな広範囲にシミができたら相当厚化粧しないと隠せないだろう。顔は女優の命だってのに、可愛そうに。

 あれは絶対に交換したドーランに何か入っていたに違いない。あんな事は紛れもなく犯罪行為だ。わがままなんて範疇を超えている。だけど高野景子にドーラン交換の件を否定されたら俺にはどうする事も出来ない。


 そして今日は博多から連絡があった。

 昼からの収録に間に合いそうにないから待ってもらってくれというのだ。今日はTVドラマの番宣収録で景子単独の収録だから、他の役者に迷惑は掛からないが待たされるスタッフは困るだろう。使用するスタジオの都合もあるだろうし、局も暇じゃない。

 俺は平謝りでスタッフやプロデューサーに頭を下げて歩いた。

 1時間遅れてきた景子は、さすがに女優魂を発揮して一発OKで時間通りに収録を終えたが今度は俺に爆弾発言を投げてきた。

「博多で五瀬社長との密会を撮られちゃったから」
「撮られちゃったって・・どこで会ってたんですか?」

「ホテルでよ」
「あああああ、それはやばいじゃないですか。落合社長には話しました?」

「まだよ、ここに直行したんだし新幹線の中からこんな話、電話出来ないじゃない」
「LINEとかなんか方法があるじゃないですか?!」

「いやよ、怒られるもの。あんたが話しておいてよね。あ、それからクリーニング取りに行っておいてね。あと、注文してたあったバッグが出来て来てるから明日までには取って来て頂戴。鎌倉の本店ね」

 これから鎌倉へ行けだと? クリーニングを取って、落合社長にパパラッチされた話をしてから鎌倉だと? 
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