男に間違えられる私は女嫌いの冷徹若社長に溺愛される

山口三

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その後の日常

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 沙耶が退院してから10日ほどしてやっと涼は馨と会って話をする時間が取れた。

「やっと顔を見て話をする時間が取れましたね」
「仕方ないさ、年末は毎年こうだ。特に今年は忙しいよ」

「仕事の事は随時連絡し合ってますから改まって報告はありません。業務は滞りなく行ってます。話があるのはプライベートな件です」
「どうした? 沙耶に何かあったか?」

「まだ記憶の方は戻りませんが・・本当に沙耶さんと契約結婚を解除するんですか? いくら彼女が望んでいるからって・・」

「彼女が望んでいる・・か。俺とのことを何も覚えていないんだから無理もない。彼女が望んでいるなら解除しよう。入籍しなかったのが幸いだったな」

「結花ちゃんががっかりしますよ・・」

「ああ。会長もまた新たな縁談を持ち込んでくるだろうな。こんな事になるなら初めからお見合いでもして、お飾りの妻でも貰っておけばよかったかもしれないな」

「でもそれじゃ女性恐怖症が良くなる事はなかったでしょうね」

「・・あのマンションは沙耶に報酬として渡そう。名義変更すると税金やら管理費が掛かるから名義は俺のままでいい。必要な物は用立ててやってくれ」

「もう沙耶さんに会わないつもりなんですか?」

 会えば辛くなる。手放したくなくなる。それを分かっていて俺に聞くのか・・? 思わず馨は涼をきつく見返した。だが涼の顔は悲しみを浮かべていた。

「会って・・何か変わると思うか?」
「ええ、思いますよ。言葉にはしなかったかもしれませんが、沙耶さんだってきっと馨君の事を・・」

 馨は涼に最後まで言わせなかった。

「今は・・しばらくは涼がそばにいてやってくれ・・」



___________



「沙耶と五瀬馨、別れるみたいよ」

「ほんと!? やったじゃない景子」リカはパチンと手を叩いて喜んだ! 色々手回しして苦労したかいがあったものだわと。

「でもねぇ肝心の五瀬馨が私になびかないんだもの・・徹底的に沙耶の事を嫌いにさせないとだめかもしれない」
「景子になびかないなんてどうかしてるわね」

「あんな誰の娘とも分からない沙耶が玉の輿なんて許せないと思ったけど、それは無くなったから少しは気が晴れたわ」

「沙耶は・・その、覚えていないのね?」
「ええ、大丈夫だわ」

「この家に帰ってくるのかしら?」
「それがね五瀬が用意したマンションで暮らしてるらしいのよ」

 リカは沙耶が帰ってこないと知ってがっかりした。「お手伝いさん・・雇おうかしら?」

「そうしたら? お母さんも若くないんだから」
「いやぁねえ、私はまだ若いわよ!」
「それより、沙耶が住んでるマンションに行ってみないとね。都内なら仕事に通うのに便利かもしれないわ」

「五瀬馨は景子の話を信じなかったんだっけ? 沙耶の盗癖とか男関係の話を」

「ええ、やけに沙耶の味方をしてたわ。この作戦はだめだったから私、あれからずっと調べてたのよ沙耶の父親の事。沙耶の父親はきっと殺人犯よ!」

「えええ?! 景子あんた、どこからそんな事調べてきたの?」
「色々よ。この記事見て」

 景子がスマホの画面に出したそれは24年前の記事だった。記事には幼児を連れ去り殺害、死体遺棄の容疑で逮捕された男の話が載っていた。

「ああ、確かにこんな事件があったわね。近所だったから大騒ぎだったわ。でもどうしてこれが沙耶の父親だって分かるの?」

「犯人の住所見てよ、沙耶がうちに来る前に住んでたアパートじゃない。調べたら部屋番号が同じだったのよ!」

「でもねぇ、沙耶の母親は未婚だったのよ。同居していたからってこの犯人が沙耶の父親とは限らないんじゃないの?」

「確証はないけど限りなく黒に近いグレーでしょ。大企業の社長にとっては致命的なスキャンダルじゃない? 絶対に悪い風評が立つわ。マスコミが食らいつくわよ」

「まぁそうねぇ。自分の元妻が幼児殺害の犯人の娘かもしれないなんて聞こえが悪すぎるわね」
「でしょ? もし沙耶が記憶を取り戻してもまた一緒に暮らそうなんて絶対に思わないはずよ」

 ほんとにこの子は負けず嫌いなんだわ・・。リカは我が子ながらちょっと恐ろしくなった。
 


____



「え、今から来るの? いえ、だめじゃないわ。ええ・・ええ。じゃあ何か食べるものを作っておくわね。山本さんと来るのね。分かったわ、待ってるわね」

 景子からの電話だった。もう21時を過ぎているけど少し食材を買いに行かないといけないと沙耶は慌てた。

 ちょうど軽食を作り終えたタイミングで景子と山本がやって来た。

「いらっしゃい、ちょうど食事が出来た所よ。どうぞ入って」
「初めまして、山本と言います。高野さんの臨時マネージャーやってます」

 山本は出迎えてくれた沙耶に向かってぺこぺこと頭を下げた。

「何言ってんのよ、沙耶の所に行くって言ったでしょ?」
「え? もしかして石井さん?」

「ええ、どうしたの山本さん」
「いやぁびっくりした! 見違えちゃったじゃないですか石井さん。眼鏡掛けてないし、髪は伸びてるし・・石井さんがこんなに美人だなんて知らなかったですよ~」

 沙耶に見とれて二ヤついている山本に気分を害した景子は無言でさっさと中に入って行った。
 山本も遅れてリビングに入った。

「うわぁ~なんかモデルルームみたいですね。広いなぁ、しかもここ30階でしたよね、家賃高いんだろうなあ」
「ほんとすごい部屋ね。景色もいいわ・・部屋数は幾つなの?」

「3LDKよ」
「ふうん。私が越してきても十分広いわね、バスルーム見てくるわ」

 景子はここに越してくる気満々で部屋の中を我が物顔で歩いていた。

「ここって例の五瀬さんが買ってくれたんですか? 景子さんとの仲を取り持ったお礼とかで?」景子がいなくなると山本がこっそり聞いて来た。

「私の物じゃないわ、借りてるだけ」

「マンションひとつぽんと貸してくれちゃうんだから凄いよなぁ。ところで・・景子さんと一緒に住むんですか? 断った方がいいですよ、全く図々しいんだから」

「二人で何こそこそ話してるのよ、お腹空いたから食べましょ」

 食事をしながら景子は案の定ここに越してきたいと言い出した。

「でもここは五瀬さんのマンションなのよ。だから一応許可を貰ってね」
「彼は私の恋人なのよ、許可をくれるに決まってるでしょ」

「それもそうね。だけど五瀬さんと結婚したら彼の家に住むんでしょ? ここに越して来たら二度手間になるんじゃない?」

「ま、まだ具体的な話はしてないのよ。とりあえず簡単な着替えを持って来ておくわ。ここからなら仕事に通いやすいから」

「景子さん、結婚の話が進んだらちゃんと事務所に報告して下さいよ。僕が社長に怒られるんですから。事後報告はやめて下さいよ」
 
「分かったわよ。とりあえず今日はもう遅いからここに泊まっていくわ。沙耶、パジャマ貸して」

「じゃあ僕は帰りますね。終電に間に合いそうだし」
「山本さん、気を付けて帰って下さいね」

 石井さんは相変わらず人がいいんだから‥山本は景子に利用されまくる沙耶が気の毒だった。
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