男に間違えられる私は女嫌いの冷徹若社長に溺愛される

山口三

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クリスマスツリーのお届け物

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 あれから景子は沙耶のマンションに入り浸るようになった。しかも沙耶が仕事をしていないのをいい事に、以前と同じようにこき使いだした。
 
「まぁでも一人分の食事も二人分もそう変わらないし、掃除はどの部屋もするんだし・・何もする事がないのは退屈だしね」相変わらず沙耶はポジティブに捕らえている。


 今日は午後からの仕事でまだ景子がマンションにいる時だった。インターフォンが鳴り快活な声が響いて来た。

「沙耶さんいらっしゃいますか~? 今日はお届け物にあがりましたよ」

 部屋にやって来た涼は大きなクリスマスツリーを抱えていた。その後から結花がツリーに飾るオーナメントの箱を持って現れた。どうしても沙耶に会いたいと結花が同行を押し切ったのだ。

「こんにちは・・沙耶さん」
「あら、ええと五瀬さんの妹さんね。こんにちは、ようこそいらっしゃいました」

 頭の中では分かっていたが、こうやって自分を忘れている沙耶に接すると結花の心は痛んだ。

「私はツリーを一緒に飾りつけする担当で・・池田さんに連れて来て貰ったの」
「あらいいわね! とっても楽しそうだわ。どうぞ、入って」沙耶はいつもの様に快く結花を迎え入れた。

 来客の気配に景子もリビングにやって来た。「お客様なの? 誰が・・」

「おや、高野さんもおいででしたか」
「最近はここから仕事へ行ってるのよ」

 涼の眉がピクリと動いた。「同居しているのですか?」

「ち、違うわ。ほんとに時々泊まりに来ているだけよ。ひとりだと沙耶も寂しいでしょう。ね、沙耶?」
「そうね、部屋も余ってるんだしね」

「じゃあ、ツリーを飾りつけしようよ。沙耶さん、どこに置く?」
「そうねぇ、やっぱりこの大きな窓のそばがいいかしら」

 ツリーの置き場所が決まると早速飾りつけが始まった。景子は飾りつけには加わらず、ソファに座ってその様子を黙って見ていた。

「そういえばツリーにジンジャーブレッドマンを飾りつけするのもいいかもね」
「あ、ショウガクッキーだよね? いいね、一緒に作りたいな」

「五瀬さんの家の分も作ろうか?」
「沙耶さん、結花でいいよ」
「あ、そうね。ごめんね結花ちゃん。沢山作ろうね」

(そうだわ、私は結花ちゃんのお兄さんと契約結婚していたんだから『五瀬さん』なんて呼んでたはずがないわね)

 そのうち景子は仕事に出掛け、沙耶たちはクッキーの材料を調達しに出かけた。

「それじゃあ僕は仕事に戻りますね。後でクッキーの味見をさせてくださいね」一通り飾り付けが終わると、涼はひらひらと手を振りながら部屋を出た。

(こうして二人でお料理していると前と何も変わってないような気がしてくる・・本当に沙耶さんは何も覚えていないのかな)

「ねえ沙耶さん、その・・記憶はどうなの? 何か思い出した?」
「ううん、はっきりした事は何も思い出せないの。ただ池田さんのお母様がデザイナーさんだってことを無意識のうちに発言してたくらいかしら・・」

「響子叔母さまね」
「ええ。やっぱり池田さんの事だからかしら・・」

「ん? どういう事?」
「あっ、結花ちゃんは知ってたかと思ったんだけど‥池田さんと私の事」

「えええ、どういう事? まさか沙耶さん、池田さんと付き合ってるの? いつから? そんなの信じられない!」
「どうしよう、混乱させちゃって、ごめんなさいね結花ちゃん」

 結花はじっと何かを考えている。沙耶は結花が気分を害したと思って申し訳なさそうにしている。

「うん、大丈夫。知らなかったからびっくりしただけ。気にしないで沙耶さん」
「結花ちゃんって大人なのね。私なんかよりずっとしっかりしてるわ」

「アハハ、でもドーナツとか甘い物には目がないよ!」

「・・どーなつ・・」急に沙耶の視線は空中を漂い始めた。

「沙耶さん? ね、大丈夫? 沙耶さん」
「・・あっ、ぼうっとしちゃって。ドーナツもいいわね。今度ドーナツを作ってみようかしら」

「いいね! その時はまた遊びに来ていいかな?」
「もちろんよ。景子がオフの日がいいわね、未来のお姉さんだものね」
「え、う、うん。そうだね」


 山のように焼いたジンジャークッキーをお土産に結花は自宅へ帰って行った。

 

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