男に間違えられる私は女嫌いの冷徹若社長に溺愛される

山口三

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解雇

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「じゃあ誤解は解けたんですね?」
「ああ。俺と高野景子が結婚を約束してるなんていうのは嘘だと説明した。沙耶もお前に恋愛感情は抱いていないと言っていた」

「な、何ですかその得意そうな顔は!」
「さあな」

 馨は今にも口笛を吹きながらスキップでもしそうな顔をしていた。

「それにしても、また料亭に高野景子が現れたんですよね? こう何度も偶然が重なると・・」
「偶然ではないだろうな」

「ええ。それから馨君の言っていた園田さん、でしたっけ? 彼女の言う通りでした。沙耶さんは高野家ではひどい扱いを受けていた様です。

 沙耶さんがお母さんを亡くしたのも元はと言えば高野が経営する和菓子屋の工場の火災が原因です。火災自体は事故でしたが、被害の拡大は高野敦司の工場の管理がずさんだった為ですね。これに関しては書類送検されています」

「沙耶の父親に関してはどうだった?」

「当時の新聞記事によると逮捕された犯人に内縁の妻がいるとか同居している人間がいるとは報道されていません。戸籍も未婚ですが、住所が沙耶さんと同じになってます。職場近くの2階建てアパートで同じ1-Aと」

「ううむ・・同居してたって事か」

「当時の事件記録か裁判記録を見てみたいんですが、難しいですね・・もう3年なんてとっくに過ぎてしまってますから。事件記録の閲覧を申請したいんですが、申請者が何の縁もゆかりもない他人だとはねられますね」

「俺は沙耶が誰の娘であろうと気にしないが、本人がどう思うかがな」
「最終的にはDNA鑑定しかありませんね」

「それと現在の高野家の財政状態もあまりよくありません。景子にはそれなりの収入がありますが、和菓子屋の経営が不振な上に相当な借金を抱えています。和菓子屋にも良くない噂が立ってますね、それと・・」

 涼は馨がどんな反応を示すか馨から目を離さず付け加えた。

「会長が高野家に関して動いています。僕が調べた事と同じ内容を会長もご存じのようです。とてもお怒りになられていますね」

「それなら高野家の方は会長に任せよう」
「きっと徹底的に・・」
「ああ、やるだろうな」

 少し、ずるい顔が涼の目に飛び込んで来た。仕事でも思った以上の成果が見込める時は、馨はこんな顔をする。

 果たして馨の表情は涼の期待していた通りの物だった。


_________


 その三日後、景子は事務所の落合社長、沢本副社長に呼び出されていた。

「おはようございます。お話があるそうですけど」
「景子ちゃん、そこに掛けてくれる」

 社長室の来客用ソファを勧めた落合は自分も景子の向いに座り沢本は自分のデスクに座を取った。

「単刀直入に言いますけどね、景子ちゃん明日付でこの事務所を辞めてもらうわ」
「そ、そんなっ。どうしてですか?! こんな突然すぎます!」

「山本から話を聞いたわ、ユウミのドーランを交換したこと。異物が混入されたと思われるドーランはあなたが処分したようだけど、ユウミが使っていたドーランは山本が捨てずに取っておいてあったの」

「そんなの山本のデタラメです。私はドーランを交換しろなんて言ってません」

「私達も山本から話を聞いた時はにわかに信じられなかったんだけどね。あなたが山本に交換を指示した事はADさんが証言してくれたわ。景子ちゃんの楽屋の前を通った時に聞こえたんですって」

「だからって、すり替えたドーランの中に漂白剤を入れたのが私だって証拠にはならないじゃないですか?!」

 いつもは陽気なキャラで通している沢本がどすの利いた声できつく言った。

「景子ちゃん、すり替えられたドーランは見つかってないのよ。どうして異物が漂白剤だって知ってるの!」
「あっ・・それは・・」

 憐れむような視線を景子に投げた落合が言った。

「あなたは才能のある女優だと思っているわ。でもうちじゃもう無理よ。本当なら傷害事件として警察に持ち込む案件だけれど、ユウミちゃんもあなたがここを辞めるなら警察沙汰にはしないと言ってくれたの。だから黙って辞めた方があなたの為よ」

(警察沙汰ですって・・そんな事になったら女優生命は終わりだわ。子供の頃からの夢だった女優にやっとなれたのに・・)

「分かりました。でしたら別の事務所を紹介して下さい」
「それは無理ね。景子ちゃん、自分で事務所を立ち上げたらいいんじゃない? ご実家は有名なお菓子屋でしょ、経営はお手の物じゃないかしら」

「・・くっ」

 そのまま景子は立ち上がって大きな音を立ててドアを閉めると事務所から出て行った。

「お世話になりました、の一言もなかったわね」沢本がヤレヤレと首を振った。

「あの調子だと景子は遅かれ早かれ業界を干されてたでしょうね。ま、うちは五瀬社長のお陰で火の粉を被らずに済んだけれどね」

 景子が去ったドアをずっと見ながら落合はつぶやいた。




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