ワンチャンあるかな、って転生先で推しにアタックしてるのがこちらの令嬢です

山口三

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5 パートナーくじと嫌味

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 あれから数日、アロイスは私がお願いしたようにレニーに積極的に関わるよう行動してくれていた。元々レニーは社交的で面倒見がいいので、クラスでもあまり目立たなかったアロイスとも自然に打ち解けているようだ。

 私の教室からよく見える校門の所で、レニーがアロイスに声を掛けている。二人して空を見上げて、天気の話でもしているのかしら。と、砂埃を巻き上げながら1台の馬車が校門に入ってきた。御者台に人はおらず、馬が首を振りながら大暴れしている。暴走しているのだ!

 門前は騒然となった。近くにいた生徒は悲鳴を上げて逃げまどい、馬車を追いかけて来た御者らしき人物が、馬を止めようと必死になっている。御者は手綱を掴もうと腕を伸ばしたが、馬は後ろ足で立ち、前足をばたつかせた。ああ、危ない、御者が前足で蹴られてしまう!

 だが一人の生徒が疾風のように飛び出した。すんでのところで御者を助け出し、御者台を足掛かりに馬へ飛び乗った。片手で手綱を強く引き、もう片方の手で馬の首筋を撫でながら、声を掛けて落ち着かせる。

「もう大丈夫です」そう爽やかに白い歯を見せたのはレニーだった!

 凄いわ、凄いわ! ゲームの中でレニーの運動神経が抜群な事は触れられていたけど、目の前で繰り広げられた彼の活躍は、まるで映画のワンシーンのようだった。レニーはさながらアクションスターね、惚れ惚れしちゃう!

 気づけば教室にいた生徒はみんな窓に貼り付いて見ていた。御者はレニーから手綱を受け取り、何度も頭を下げて礼を言っている。

「あんなに暴れてる馬に飛び乗るとか、凄いわね」
「簡単そうにやってたけど、普通の人はあんな芸当出来ないよ」

 生徒たちがそれぞれ感想を口にしている所へレニーが入って来た。

「おはようレニー、朝から凄かったな!」

「見ていたよ、レニー。見事だった」

 そう言いながら前に進み出たジェリコが拍手すると、他の生徒も彼に倣った。もちろん私も!

 レニーは少し照れくさそうにしながら、「うまくなだめられて良かったよ。何が原因であんなに暴れてたんだか……」と頭を掻いている。マロンクリームのような髪が、大きなレニーの手で更にクルクルになった。

 


 さて、今日はダンスのレッスン時のパートナー表が配布される前日だ。パートナーは月毎に変更される。厳密にはダンスの講師がくじで適当に組み合わせるので、同じ人とペアになる事もある。

 ゲーム内ではここでクエストが発生する。ダンスの講師がくじで組み合わせを決める際、生徒一人に手伝いを頼むことになる。手伝いを頼まれるためには、配布の前日の『お昼休み』『ダンスのレッスンのすぐ後』『放課後、職員室』のどれかのタイミングで講師に会いに行く必要がある。

 正解のタイミングで講師に会うと手伝いを頼まれて、くじで自分が攻略したいキャラを引き当てられる、というクエストだ。

 私はこれを利用することにした。
 
 ダンス講師のお手伝いクエストの正解は『ダンスレッスンのすぐ後』だ。ここはゲームの世界ではあるけれど、プレイヤーがいるわけじゃないから聖女クレアはダンス講師の手伝いを買って出たりしないだろう……たぶん。

 ただ聖女が主人公というゲームの法則に則って、ダンス講師が自らクレアに手伝いを頼まないとも限らない。だから私はレッスンが終わるや否や、ダンス講師に突進した。

「先生、最後のステップなんですが、もう一度だけお手本を見せていただきたいのですが」
「最後のステップはこうですよ」

 私の希望に応えて、ダンスの講師は優雅なステップを披露してくれた。

「ありがとうございます! 近くで見られたのでよく分かりました。あの、お礼に何か、お手伝いする事はありませんか?」

「そうですね……ああ、来月のパートナーを決めるくじを作らないといけませんから、それを手伝って下さい」

 やった! うまく行ったわ。さて、くじと言っても仕組みは簡単。1枚の用紙が縦半分に折られており、左半分には男子生徒の名前が書いてある。私は右半分の白紙部分に女子生徒の名前をランダムに記入していくだけ。開けばペアの出来上がり! 

 私はダンス講師の目を盗んで男子生徒の名前をチェックする。アロイスの名前の隣に聖女クレアの名を、私の名はレニーの隣に書いた。これでよし!



 この世界のアカデミーで『体育』は存在しない。男子生徒は騎士科を専攻する生徒のみ、心身を鍛える授業がある。女子生徒はほとんどが家政科を専攻。稀に一人っ子の女性が家督を継ぐために、領地経営、政治経済を専攻する生徒がいるくらい。

 レニーは騎士科。どうでもいいけどジェリコも。アロイスは政治経済だ。そしてここ家政科の教室からは中庭が良く見える。中庭では騎士科の生徒が剣術の稽古をしていた。

 遠目からでもレニーの長身はよく目立つ。さすが私の推し様! レニーの剣捌きは群を抜いてシャープで美しい。ランディス家は現当主のレニーの父親ランディス子爵も、その前の当主(レニーのおじい様)も軍人の家系だ。レニーも同じ道を進むのだろう。なんと言っても彼はそれに相応しい立派な体格と高い運動能力を持っている。

「ほら、またジェリコ様が1本お取りになったわ! さすがお強いわねぇ。普段の大らかな表情とは打って変わって、剣を握っている時の鋭い目つきも素敵だわ~」

「ジェリコ様に勝てるのはレニー・ランディスくらいかしら?」

 家政科の先生が席を外しているのをいい事に、多くの女子生徒が窓外の光景に釘付けになっていた。かくいう私も時々、刺繍する手を止めてレニーの勇姿に見とれていた。


「そんなにジェリコ様を見つめたってジェリコ様の心はもうクレア様の物なのに…諦めが悪い人がいるみたいですわ」

 私の妄想に水を差す声と視線。私が見ている相手をジェリコと勘違いしたのね。

「誰が見てもそうですわね。聖人は清貧を心がけているそうですわ。強欲で見栄っ張りなどなたかとは違って、クレア様とジェリコ様はお似合いですわよね」

 私の隣に座っている生徒もその嫌味に相槌を打つ。私が第二王子の婚約者じゃなくなった途端にこれなのね。まあ、ジェリコにたかってたのは本当だから仕方ないけど。でも間違いは訂正させてもらうわ。

「私が見ていたのはランディスさんの方よ。確かにあなたがおっしゃる通り、ジェリコ殿下に勝てるのは彼くらいね」

 なぞに自慢げに言う私に隣の生徒は何か言いかけたが、家政科の先生が戻ってきた。

「そろそろお時間ですよ。来週からは房飾りの制作に入ります。材料は各自で用意して下さい」

 アカデミーが終わると、私は猛ダッシュでバートレットベーカリーへ駆けつけた。

「おはようございます! すぐに着替えてまいります」

 私が貴族令嬢だと知ると、ベーカリーの店員も客も初めのうちは私が使い物にならないだろうと侮っていた。でも数日が経った今では働きぶりを認められ、打ち解けてきている。

「ミーゲルさんこんにちは。いつものバゲットが五本ですね。今日はレーズンクリームをサンドしたクッキーがおすすめです。ティータイムにいかがですか?」

「ジーナちゃんこんにちは。相変わらず商売が上手だねぇ。じゃあ、おすすめのクッキーをひと箱追加しておくれ」

「はい、ありがとうございます!」

「おや、そのエプロンとヘッドドレスはここのオリジナルかい?」

 今日の刺しゅうの授業で、ベーカリーで着用する白いエプロンとヘッドドレスにクロワッサンとバゲットの刺しゅうを入れたのを、ミーゲルさんは気付いた。

「これは私が自分で入れた刺しゅうなんです」

「へぇ~。パン屋にピッタリだね、いいセンスしてるよ!」

 このやり取りを見ていたバートレットさんが、他の店員と自分の作業着やエプロンに同じ刺しゅうを入れてくれないかと私に頼んだ。

「もちろん工賃は払うよ。急がないからやってくれないだろうか?」

「はい、やらせていただきます。それと絵柄の下にバートレットベーカリーと入れるのはどうでしょうか?」

「いいねぇ! じゃあ頼むよ」

 ラッキーだわ。これで臨時収入が見込める。他の仕立物は納期があるけれど、これはその合間にでも少しずつこなせばいいから精神的にも楽だわ。



 さて今日からは月が変わり、いよいよレニーとダンスのレッスンで一緒に踊ることが出来る。広いレッスン用のホールで、私はレニーと向かい合わせになった。夢にまで見た推し様がこんな近くにいる! 感激で泣いてしまいそうだわ。声が震えないように気を付けないと。

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