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50 アロイス
しおりを挟む「舞踏会には特別なレディ達を招待しておいた。もしクレアの尻尾を掴むことが出来なくても、ジェリコの評判は落ちるだろう。それで婚約が破談になればいいし、そのまま結婚になってもジェリコが王太子になる道は遠ざかったと見ていい」
婚約記念舞踏会の直前の今日、最後の打ち合わせを俺とクリストファー、ヴィンセントで行っていた。
「殿下の伯母上、国王陛下の妹君のご令息はまだ生まれたばかりでしたか?」
「さすがクリストファーは事情通だ。もし俺の従弟が王太子に指名されたら、この国も後見人争いが勃発するかもしれないな」
「とりあえずクレア様が王妃になるのを防ぐだけでも、時間稼ぎにはなるでしょう」
そうだ、ヴィンセントの言う通り時間稼ぎにはなるだろう。王妃と王子妃では出来る事に天と地の差がある。クレアの復讐の障害になる事は間違いないだろう。
「ご自分は全く後継者の範疇に入れておられないのですね」
「俺は、きっと無理だ。陛下も俺を指名したりはしないだろう」
クリストファーは俺の横に座るヴィンセントの表情を見て、それ以上深追いはしなかった。そんなこの世の終わりみたいな顔をするな、ヴィンセント。いつかは呪いの解ける日が来るかもしれないんだから。
「では、と……そのレディ達の用心棒に化けたハーリン先生がジェリコ殿下に難癖をつけて殺傷沙汰になる、という形ですね」
「だな。頼むぞヴィンセント」
「はい、身命を賭して計画通りに」
俺はブリジットを馬車で迎えに行ってから王宮に到着した。今日の舞踏会の為に物凄い数の馬車が出入りしている。王宮は周囲の諸国に先駆けてガス燈を導入していた。今は王宮の前に延びる大通りにも設置され、徐々に数を増やしていっている。王宮周辺は昼の様に、とまではいかないが明るく照らし出されていた。
俺とブリジットが馬車から降りた時、ちょうど後に到着した立派なフェダック大公家の馬車からクリストファーとジーナが降り立った。
ジーナは深いエメラルド色のベルベットのドレスだった。ガス燈の淡い橙色の光に、浮かび上がるように現れたジーナは息を飲むほど綺麗だ。
「アロイス! 同時に到着しましたね!」
「あ、ああ」
「こんばんわ、アロイス、ブリジット」
「アロイス、見とれているんですか? 今夜のジーナは格別に美しいでしょう」
「ああ、本当に綺麗だ……」
「アロイスったら」
ジーナは恥ずかしそうにしながら、クリストファーが差し出した手を取って歩き出した。
「羨ましいと思ってます? 今回のパートナーに関しては僕の先手必勝でしたからね」
いや、今夜に限っては羨ましくないな。髪をアップにして、肩が露わになったドレス姿のジーナがパートナーでは、どきまぎして今日のミッションを確実にこなせる自信がない。
俺たち四人は並んで歩き出したが、ブリジットが不安げな表情をしている。
「実は私、失敗を犯しましたの」
「ん? どうかしました?」
質問したクリストファーに向かってブリジットは言う。
「家を出る直前にお兄様に会って。めかしこんで何処へ行くのか聞かれて、このドレスがカメリアのブティックで買ったことを自慢してしまいましたの! 私、あのブティックのドレスを着て舞踏会に行くことに興奮してたんですわ、だから思わず口を滑らせて……」
「それは別にレニーが知っても問題ないんじゃないか?」
今度は俺の方を向いてブリジットは泣きそうな顔をした。
「いえ、カメリアのブティックを利用出来たのはフェダック様のお陰だと言って……フェダック様はジーナさんをパートナーに、ご一緒すると話してしまいましたの!」
「レニーの反応は?」
「顔色がはっきり変わりました。何も言わなかったんですけど、それがまた余計に不安で」
「き、きっと大丈夫。レニーと私は別れたんだし、王宮には招待状がないと絶対に入れないものね?」
ジーナは虚勢を張って笑ったが、上手くいっていない。
「ジーナは僕が守りますから、安心してください」
クリストファーはジーナを安心させるように言った。そうだ、俺たちの計画にジーナやブリジットが巻き込まれない様に、クリストファーには護衛役を任せてある。
「俺もいる。不安ならなるべく近くにいるよ」
「ありがとうアロイス。ちょっと神経質になり過ぎよね、せっかくの舞踏会を楽しまないとだわ」
舞踏会会場の銀の間は、王妃好みの派手な飾りつけで目がくらむようだ。オーケストラの楽員の衣装もかなり凝っている。お酒も食べ物も超一流品ばかりがずらりと並んでいた。
「ここが勝負どころだと踏んだのだろうな」
「どれくらいのお金が動いたのか想像するのが怖いですよ」
クリストファーはカクテルを手にし、その高級なクリスタル製のグラスを光にかざしている。
ジェリコとクレアが始まりのダンスに入ると、長方形の銀の間に踊る人々が綺麗に列を作った。クリストファーは早速ジーナをダンスに誘っている。俺も礼儀正しくブリジットを誘った。
「スターク先輩はジーナさんに気持ちを打ち明けたんですね?」
「え……ああ。分かってしまうか」
「はい、お三方の会話を聞いていたら分かります。兄は気付いてないと思いますけど。それにしても豪華な舞踏会ですね」
「国王陛下は平素から質素倹約を心掛けていらっしゃるから、かなり王妃様が私財を投入しているんだろうな。キラキラも王妃様の好みだな」
「キラキラですか。スターク先輩は王室の事に詳しいんですね」
「いや、噂で聞いただけだよ」
詳しいと言われて、俺は何となくブリジットから目を逸らしてしまった。
三曲目のワルツが始まった頃、俺たちの計画が動き出した。ジェリコの馴染みの店の女性達がぞろぞろと銀の間に入って来たのだ。彼女たちはパートナー同伴ではなかったので、護衛という名目でヴィンセントが後ろから付いてきている。
近づくのはまだだ。遠巻きに様子を見る。やはりジェリコは狼狽え、王妃も癇癪を起し始めている。
そろそろ俺もヴィンセントの近くに移動しようとしたところだった。
「ジーナ!」
「レ、レニー、どうやってここに」
遠目からでも分かる、不穏な空気をまとったレニーが速足でジーナに近付いている。俺もすぐ向かったが、俺とジーナとの間には少し距離があった。ほんの五,六メートルくらいなのだが、人が多いせいですぐに辿り着けない。クリストファーはどこへ行ったんだ、ジーナを一人にするなんて!
「お兄様!」
俺がジーナの方へ向かうのと同時にブリジットもレニーに気づいた。
「俺がここに来たら何か困る事でもあるのか」
「こ、困る事なんてないわ、驚いただけで。招待状とかは……」
「ちょうど近衛騎士とゴタゴタやってる団体がいたから、それに紛れて入ったんだよ。俺はついてるんだ」
間の悪い事に俺とブリジットが行く前に、クリストファーが両手に飲み物を持ってレニーの後ろに近付いた。ジーナは彼を遠ざけようと、何とかして合図を送ろうとしているが、それは逆効果に終わった。振り返ったレニーはクリストファーに気付き、口元が歪んだ。
「やっぱりこいつと一緒だったのか。もう舞踏会のパートナーになるくらい親密になったんだな」
「違うわ、誤解なのよレニー」
「俺は別れるなんて認めてないからな、来るんだジーナ」
「ランディス君、ジーナを無理やり誘ったのは僕だ、ジーナは嫌がってたんだ」
「うるさい、そうやってお互いを庇い合うのがいい証拠だ」
レニーはジーナの腕を掴んで強引に引っ張っていく。クリストファーは持っていたグラスを、傍を通りかかった給仕のトレーに急ぎ乗せてジーナに手を伸
ばす。が、間に合わない。
「失礼、ちょっと通して下さい。失礼」
踊ったり歓談している人々を縫うようにして二人を追いかけるが、人にぶつかるのも気にしないで突き進むレニーの方が断然早い。
「痛っ、危ないじゃない、って今のランディスさんじゃない?」
「どこ? でも休学中よね。あらフェダック様だわ、ごきげんよう」
「やぁどうもレディたち。ところでランディス君とジーナを見なかった?」
「あちらのドア……」
その生徒の向いた方角からガラスの割れる派手な音がした。音の方へ急ぐと、給仕が床に散乱しているグラスの破片の後片付けをしている。レニーとぶつかったのだろう。
クリストファーのすぐ後ろに追いついていた俺とブリジットもドアの外へ出た。
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