どうやらこの物語、ヒロインが一度死ぬ仕様です

山口三

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19話 カトリーヌの奸計

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 絶対みんな見てるよね。

 とりあえず私は舞踏会の会場に入った。

 私が横を通ると一瞬おしゃべりが止む。そしてすぐまた始まる。「あらまあ!」とか「ふふっ、あれはどちらのご令嬢だったかしら?」と囁くのが聞こえた。

 皇子はどこなの? とりあえず『プレゼントはありがたく頂きました』と挨拶して、すぐ控室に戻って着替えよう。言い訳は後で考えたらいいわ。

 ああ~お兄様がこっち見てるな。そりゃびっくりするわよね、戻ってきたらこんなピエロみたいな恰好してるんだもの。私だったら他人のふりしちゃうかも。

 今日の主役シャルル様は最奥の席にいらっしゃる。ジェイミー皇子も隣に座っているのかと思ったが、隅の方でカトリーヌにカナッペを勧められている。また食べさせようとしてるのね……。

 皇子の方へ向かおうとすると、後ろから誰かが私を呼び止めた。

「ローズ様、こんばんは」

 ルイス・ブラウン副団長だった。彼はジェイミー皇子との稽古では見せない温和な笑顔を私に向けた。

「ブラウン副団長様」

 淑女のお辞儀をすると、ブラウン副団長も丁寧に返してくれた。

「今夜もとても……お、美しいですね」チラッと私のドレスに目をやったルイスの顔が心なしか引きつった。

 そこ! なぜ『お』でつまづくかな!……いえ、すみません。その通りです。このドレスを見て、この髪飾りを見て、美しいなんてお世辞にも言えません。

 気がつくと、カトリーヌが横に来ていて、扇で口元を隠しながら微笑んでいた。口元は隠れているが、目には侮蔑の色がにじんでいる。

「あらごきげんよう、ローズ嬢。今夜は一段と……滑稽なドレスですわね!」

 はっきり言ってくれるわね! 『これあんたが選んだんじゃないの?』私はそう言ってやりたいのを我慢して、無理やり笑顔の仮面をかぶった。

「カトリーヌ様にはご機嫌麗しゅうございます」

 平然と挨拶する私が予想外だったのか、カトリーヌの笑顔は一瞬消えた。だがすぐまた意地の悪い目つきで言った。

「ジェイミー様はあちらにいらっしゃいますわ。ご挨拶に行かれては?」

「そうさせて頂きます」

 私はカトリーヌに背を向けて一歩踏み出した。

 ビリイィィィィィ

 その不吉な音は私のドレスが発していた。

 ドレスを見下ろすと、三段スカートの下二段が大きく破けて床に落ちかかり、私の太ももから下が露わになっていた。

「あら……足元が見えなくて。ごめんなさぁ~い」

 カトリーヌはそう言って、ドレスを踏んだまま一歩下がった。
 
 かろうじてぶら下がっていた下二段のスカートは、また派手な音を立てて破け、床にパサリと落ちた。

 周囲から一斉に悲鳴が上がった。

 この堅苦しい貴族社会で、こんな風に生足を露わにするのは気絶するほど恥ずかしく、はしたない事だった。この世界では男性だってほとんど肌を露出しない。それをうら若き女性が、しかも未婚の……。

 私は一瞬の出来事に呆然と立ち尽くしてしまった。遠くに見えるお兄様が私の方へ駆け寄ろうとしている。だがお兄様より早く(いや近く)ルイス・ブラウンが動いた。

 自身が身に着けていたクロークをさっと私の腰に巻き付け、そのまま私を広間から連れ去ってくれたのだ。

 舞踏会の広間には私の派手なスカートの下二段と、カトリーヌの意地の悪い笑顔が取り残された。

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