どうやらこの物語、ヒロインが一度死ぬ仕様です

山口三

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21話 翌日

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 エリーを含め屋敷で働く者たちは、まず私たちの早い帰宅に驚いていた。
 次に私の姿を見て目を剥き、エリーは大きな毛布を持って来て私の体を包み込んだ。

 私は着替えた後、軽く食事をしてゆっくりお風呂に浸かり、早めに就寝した。視聴率のことは考えないようにしていた。考えると、気分が悪くなるから。家族は皆とても心配してくれたが、私自身は意外と平気だった。

 この世界では死ぬほど恥ずかしいことかもしれないけれど、前世の記憶がある私にとっては、あれくらいミニスカートを履いてるくらいの感覚だし。

 ドレスが破けて、生足を晒したっていう部分はちょっと恥ずかしいけど、もう二度と人前に出られないとか、お嫁に行けないなんて気持ちには全くならない。

 転生者でホント良かったわ。

 
 たくさん寝てスッキリした私は、元気よく朝食に降りて行った。
 平然としている私にみんなはびっくりしていたが、カラ元気でないことが分かるとほっとしているようだった。

「今日もいつも通り皇宮へ行くのか?」
「ええ、お兄様達と一緒に出勤するわ。皇子様にドレスの件も聞いてみたいし」

「今日くらいは休んだ方がいいわよ、ローズ」
「大丈夫よ、お母様。私を貶めた人へ、これ位ではへこたれませんって所を見せつけてあげないと」

「ローズはずいぶんと逞しくなったもんだ。ダイエットは心も強くしてくれるものなのか?」
「そういう効果もあるかもしれないわ。自分の努力で痩せられて、自信がついたもの」

 皇宮へ向かう馬車の中、お兄様はしきりに私を褒めた。お父様も全くその通りだと、うんうん頷く。なんだかくすぐったい気持ちにさせられたが、こんな風に家族から愛されるのっていいものだと、しみじみ感じた。

 最近、私が皇宮に着く時間には、皇子は朝食を済ませて執務室に居ることが多かった。自分が受け持っている政務の仕事を、かなりの正確さとスピードでこなしていると聞いている。少しずつ臣下からの評価も上がっているようだ。

 食事の時間以外の私は、皇子の監視ではなく、皇子の世話をする従者に近かった。

 私は今日も定刻に執務室のドアをノックした。「ローズでございます」

「入ってくれ」

 皇子もいつも通りの返事だった。だがドアを開けると皇子はデスクから離れてドアの近くまで来ていた。私にソファを勧めると自分も向かい側に腰かけた。

 昨日の件だな。皇子に挨拶もしないで帰ってしまったし、あれが本当に皇子のプレゼントだったとしたら、私は不注意にもそのプレゼントを破いて台無しにしてしまったのだから。

 ま、こういう時は自分から謝るのが得策ね。

「あの、昨日はご挨拶もせずにすぐ帰ってしまって、申し訳ありませんでした」

「何を言うか、あんなことがあったから今日は来ないと思っていたぞ」

「はぁ、少し……恥ずかしくはありましたが、一晩ぐっすり寝て嫌なことは忘れました!」

 皇子は目を丸くして驚いた。

「ローズ、あの場にいなかった侍従のネイサンでさえ事の次第を聞いて腰を抜かし、君はもう皇宮には来ないだろうと言っていたのに……。本当に、平気なのか?」

「はい。ご心配をお掛けしました」
「そう、か。なら良かったが」

「それで、皇子様。ひとつお聞きしたいことがあるのですが」
「ああ、なんだ?」

「昨日、舞踏会の広間に入る前に、侍女に呼び止められ控室に連れて行かれたのです。そこで皇子様からのプレゼントだというドレスに着替えさせられました」

「!……ローズ、僕は君にドレスをプレゼントした覚えはない」
「やはりそうでしたか」

 やっぱりドレスは皇子のプレゼントじゃなかった。

 カトリーヌの侍女、つまりはカトリーヌがやったことだと言いつけたい。でも、どうしてカトリーヌの侍女と分かったか問われたら、私には答えられない。

 それに、フィアンセの子供っぽい、ただの嫉妬心からかもしれないしね。同年代の女がいつも自分のフィアンセにべったりくっついていたら、いい気持ちはしないわ。

「ドレスを贈った者に心当たりがあるのか? あれは……すぐ破けるように細工されていたようだが」

 黙って考え込んでいた私を見た皇子が尋ねる。

「いえ。心当たりはありません。これからドレスを贈られたら用心することに致します!」

「ハハッ、君は強い上に、楽しい人だな」

 皇子は楽しそうに笑った。最近はよく笑う姿を見かける。剣術の稽古の後、ブラウン副団長と談笑している時や、私と二人で色んな話をしながら散歩している時など……。

 ジェイミー皇子はとても整った顔立ちをしている。個性が見当たらない程、完璧な美しい顔立ちだと思う。あまりにも完璧過ぎて黙っているととても冷たい印象を受けるのだが、笑うとこんなにも優しい顔になる事に、今日、私は気づいた。

「な、何をまじまじと僕の顔を見てるんだ? 僕の顔に何かついているのか?」

 あら、可愛らしい。皇子は少し頬を染めていた。

「あっ、すみません。皇子様の笑顔がとても優しくて……」

 こうは言ったが、自分の心の反応がおばさん丸出しで嫌になるわ。そうよね、死んだときの私は三十八歳、皇子の倍の年なんだもの。

 その時、和やかな空気の執務室に、ノックの音が響いた。

 
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