どうやらこの物語、ヒロインが一度死ぬ仕様です

山口三

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29話 小さなトゲ

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 このところ、皇宮に出入りする人が増えた気がする。それも若い女性が多いのは気のせいかしら?

 皇宮の庭園の一部は一般市民にも開放されている。さらに奥の緑の庭園と呼ばれる場所と図書室の一部は、貴族に限り出入りが許されている。

 緑の庭園には、皇室関係者しか入れない庭園に隣接したエリアがあるので、私と皇子が散歩したりランニングをしていると、知らない貴族と顔を合わせることがある。

 最近、緑の庭園には若い貴族の女性を見かけることが多くなった。

「今日も若い女性が大勢、庭園を訪れていますね」

 私は窓の外を眺めながらネイサンに話しかけた。

「ええ、どうやら皇子様がお目当てのようで」ネイサンは、楽しそうに笑っている。

「先日もカトリーヌ様の誕生日で、大勢に取り囲まれて大変だったとおっしゃっていました」

 そうか……フィアンセの誕生日に駆けつけるのは当たり前だよね。でもなぜか私は、心に小さなトゲが刺さったような感触を覚えた。心臓の鼓動の度にチクチクと、小さいけれど不快な痛みをもたらすトゲ。

 私は無意識に胸の辺りで拳を握り締めていた。

 と、ノックがして、声変わりもまだの少年の声がした。

「兄上はおられますか?」

 ドアから顔を覗かせたのはシャルル第二皇子だった。シャルル様は最近よくジェイミー様を訪ねて来られる。お茶を共にしたり、剣術の稽古に参加することもあった。

「皇子様は執務室におられます。もうすぐお茶の時間ですし、シャルル様がいらっしゃればきっと喜ばれますよ」

「お茶の時間か、じゃあローズも一緒に行こうよ。僕もローズが淹れたお茶を飲みたい!」

 シャルル皇子は私の手を引っ張って執務室へ行こうとした。

「お待ちください、シャルル様。お茶の用意が出来ておりませんわ」

 私が笑いながら声を掛けると「あ、そうか!」とシャルルは立ち止まった。

「お茶のご希望はありますか?」
「僕は以前に飲んだ、甘いミルクティーがいい!」

 シャルルは即答した。本当にこの第二皇子は可愛らしい。見た目だけでなく素直な性格が皆に愛される理由だった。

 そして、このシャルル役の子供! アカデミー賞で史上最年少で助演男優賞を取った天才子役なのよね! トム、なんとかって言ったかしら。

 なんだか不思議な気分だわ。この可愛らしい態度も実は演技だったりして……なんて考えてしまうもの。でも違う、この子はシャルルとしてここで確かに生きているんだわ。そしてこの子の未来を私が守らなきゃ!

 さて、シャルル皇子がご希望の甘いミルクティーとは、私お手製の練乳を入れたミルクティーだ。

 練乳を作るのは簡単。ただ目を離せないので時間がある時がいいわ。だから今日の練乳は以前に作り置きしておいたもの。

 皇子の執務室に行くと、シャルル皇子はソファに座ってお茶を待ちかねていた。

「お待たせしました。シャルル様ご希望のミルクティーです」

 ジェイミー皇子もデスクから離れ、弟の隣に座った。

「美味しいですね! 兄上」
「ああ、ミルクティーに砂糖を加えたものとはまた違った味わいがあるな」

「兄上、明日もまた来ていいですか?」
「うん、いいぞ。でも明日のお茶は、剣術の稽古のあとだな」

「アカデミーから帰ったらすぐ向かいます。間に合ったら参加させてください」

 以前のジェイミー皇子はシャルル皇子をそばに寄せつけなかった。シャルルだけでなく、ネイサンと何人かのメイド以外は自室にも入れなかった。

 だが今はこうして弟とも仲良く過ごす時間が増えた。二人の仲睦まじい姿を見ると感無量だわ。諦めないで皇子と頑張った甲斐があったってものね。

 私は両手を腰に当てて、満足そうにうんうんと頷いた。

 まばらな拍手が聞こえてきた。反応が薄いなぁ。

『只今の視聴率4・0%』

 でも確実に視聴率は上がってる! 

 ルイス様の言葉が聞き取れなくなったときはかなり焦った。でもあれ以降はないし、視聴率が上がればきっといいこともあるでしょう!
 
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