どうやらこの物語、ヒロインが一度死ぬ仕様です

山口三

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28話 カトリーヌの誕生日

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 ジェイミーは憂鬱だった。こんな気分は久しぶりだ。

 ダイエットを開始して一年半ほど経った。この一年半は苦しくもあり、自分の変化を目の当たりにして、自信を取り戻した日々でもあった。

 自分は父親に愛されてもおらず、何の才能もなく、痩せる努力を続ける根性もない、とても皇帝の器ではないとずっと思っていた。

 だがミーガンから励まされ、ローズもずっと近くで一緒に頑張ってくれた。皇宮の人々に白い目で見られながらも、一緒に庭園を走り、運動をした。

 図書室で本の話をするのはさらに楽しかった。自分が薦めた本を喜んで読んでくれるし、聞いたことも無いような知識をローズは持っている。

 自分もやれば努力できるのだ。あんなに嫌だった剣術も今は楽しみになった。汗を流したあとに飲む、ローズが淹れてくれたお茶は格別だった。

 ローズが傍にいてくれたら何でもできる気がする。皇帝になっても上手くやれるかもしれない。ローズが傍に居てくれたら……。

 そうだ、僕の頭の中はローズで一杯だった。

 フィアンセはカトリーヌだが、彼女を好きになったことは一度もない。

 それなのに今日はカトリーヌの誕生日を祝いに、出向かなければいけなかった。

『大切なフィアンセの誕生日ですもの、お祝いに来てくださいますわね?』

 また新しいドレスの話や、外国の珍しい香水、どこぞの伯爵夫人が役者と浮気しただのと、ゴシップが待っているのだろう。おまけに今日は誕生日だ、何をねだられるか分かったものじゃない。

 ネイサンが上着を持って待機している。そろそろ時間なのだろう。

「お祝いの花束は馬車にご用意してございます」

「ありがとう、ネイサン。プレゼントは欲しい物を聞いてから贈るよ、どうせ欲しい物以外は喜ばないのだからな」

(ジェイミー様は行きたくないんだろうな。親同士が決めた相手だし、あのカトリーヌ様では無理もない。次期皇帝になられるお方だから、政略的な結婚は避けられないとしても……。同じ財務官の子女から選ぶならローズ様の方が何倍も良かっただろうに)

 ジェイミーの乗った馬車を、気の毒そうな眼差しで見送りながら、ネイサンはひとりごちた。

________



 その日のメッサ―伯爵家は大変な賑わいだった。

 財務長官であるメッサ―伯爵が目に入れても痛くないほど可愛がっている長女の誕生日。これ以上にはないほどの贅沢が尽くされていた。

「すごいわねぇ、まるで皇室の舞踏会なみよね。去年も凄かったけど、今年の豪華絢爛ぶりはまた……」

「一体どこからこんなお金が湧いてくるのかしらね? 財務長官って言ったってそれ以外の収入はないと思ったけど」

「そうねぇ、跡取りのご子息はまだ学生ですものね。カトリーヌ様とよく似て整った顔立ちの」

「奥様がお綺麗な方でいらっしゃるから。でもね、なんでもお金に困っていた奥様のご実家から半強制的に婚姻を取り付けたらしいですわ。お金の力って怖いですわねぇ」

 ご婦人が揃うと噂話に花が咲くものである。

「ほら、今日の主役がいらしたわ」
「まぁ、素晴らしいドレスね。あら? お隣でエスコートしている方はどなたかしら?」

「どなたってカトリーヌ様をエスコートするのはフィアンセの皇子様しか……ええっ?!」

 多くの招待客で賑わっているメッサ―家の広間が騒然となった。カトリーヌをエスコートしている、見た事もない美青年のせいだった。

 主役が登場するとメッサ―伯爵が挨拶した。

「ジェイミー皇子殿下、並びに皆さま。本日は娘の誕生日の祝いに駆けつけて頂きありがとうございます。今宵は娘の為に美酒佳肴をふんだんにご用意致しました。どうぞ存分にお楽しみください」

 伯爵の挨拶が終わると楽団が音楽を奏でた。先ほどにも増して広間は賑やかになった。

「ほ~ら、やっぱり皇子様じゃない……ってびっくりね!」
「まるで別人よ! 別人! 皇子様があんなにイケメンだったなんて気づかなかったわ」

「カトリーヌ様も見とれてらっしゃるじゃない。いえ、当然だわね。ブラウン副団長より素敵かも」

「あら、私はロベルト様の方がいいと思うわ」

「でもロベルト様って……傲慢な感じがして私は苦手だわ。今日から私の推しは皇子様に決まりだわ! さ、ご挨拶に行きましょうよ。近くであのご尊顔を拝見したいわ」

 カトリーヌと皇子の周りには人だかりができた。人々は次々と入れ替わりながら、まるで別人のようになった皇子を一目見ようと押し寄せた。

(みんな皇子、皇子って今日の主役は私なのに! だけど本当に惚れ惚れするようなイケメンだわ。ロベルトとはまた違う魅力が……)

 カトリーヌに強いられ仕方なく皇子がダンスを踊ると、広間には女性たちのうっとりしたため息が漏れた。

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