どうやらこの物語、ヒロインが一度死ぬ仕様です

山口三

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32話 男爵の相談事

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 ジェイミーの執務室に現れたのは予想もしていなかった人物だった。

「サトリア男爵、珍しいな……」

 そこまで言いかけて、ジェイミーはドレス事件を思い出した。

「シャルルの誕生日の時は、ご令嬢に迷惑をかけてすまなかった。僕の名を出して令嬢を騙したそうだな」

 ジェームズ・サトリアは純粋に驚いた。あのドレス事件は言ってみれば皇子には全く関係のない話だ。皇子は自分の名をかたられただけなのだから。
 それなのに自分に謝罪するなんて、皇子の人柄は、これまで自分が聞いてきた話とは少し違うようだ。

 今日、自分がここに出向いたのは政務の件だった。

 かなり以前からおかしいと思うことがあったのだが、最近になってそれが頻繁に起こるようになった。要は帳簿が合わないのである。
 
 初めは上司で財務長官であるメッサ―伯爵に報告した。彼は単なる計算間違いだと受け流した。それが続いたあと、何人かでしっかり試算し、計算に間違いがないことを指摘すると、今度は帳簿自体がいつの間にか改変されるようになった。

 間違いない、誰かが……(おそらくはメッサ―伯爵が)不正を行っているに違いない。
 
 だが財務長官であるメッサ―伯爵が行っているであろう不正の証拠を掴み、告発するのは非常に難しい。財務関係のほとんどの権限は彼にある。しかも皇帝は彼をとても信頼しているのだ……。

 そこで信用できる何人かと秘密裏に相談をした。息子のリックを含めて協議した結果、メッサ―伯爵より権威があり、信用できる人物としてジェイミー皇子の名前が挙がったのだった。

 最近のジェイミー皇子の話は皇宮でも有名だった。ダイエットに成功してからはまるで別人のように生活が変わり、政務にも励むようになったと。しかもかなり能力も高いと臣下の間で評判になっていた。

 つい先日も、暗礁に乗り上げていた辺境地域の開発事業に有益なアイデアを出されて、自ら進んで開発事業に取り組んでおられるのだ。

 最大の懸念事項は、伯爵が皇子の婚約者の父親だということだけだ。 

 サトリア男爵は思い切って今までの経過を皇子に話した。
 重要な書類はメッサ―伯爵が管理しているため多くはなかったが、手元に持ってこれるだけの資料をジェイミー皇子の前に提示した。

 皇子は指で書類をなぞっていった。指は紙上を流れるように動く。四十枚以上はあった資料を、ものの数分で見終えてしまった。

 皇子はひとつ、大きくため息をついた。

「男爵の話はどうも本当のようだな」
「あの……失礼ですがもう読み終えたのでございますか?」

「ああ、僕は読むのが早いんだ。みんなびっくりするが」

 軽くそう言いながら、ジェイミーはどうすべきか深く考えていた。

「この資料からすると、隠し帳簿がどこかにあるはずだね」

「私もそう睨んでおります。ですが、財務省内部はくまなく探したのですが見当たりませんでした」

「僕が当人なら安全な場所に移すだろうな。例えば自宅の隠し部屋なんかに」
「確かに!」

「でも捜索する名分がないな」
「先方が何かミスでも犯してくれると助かるのですが……」

「とりあえずしばらくは信用できる人間だけで、帳簿のコピーを作っておいてくれ。コピーはネイサンから僕に渡るようにしてもらいたい……だが男爵からネイサンに直接というのもまずいかもしれないな」

「ローズから渡すように致しましょう」
「いや、僕としてはローズを巻き込みたくない」

(相手は財務長官だ。下手に動けば、ローズにも火の粉が及ぶ)

「ローズには中身を知らせません。何か……理由を考えておきます」
「そうか。だがくれぐれも気を付けてくれ」

 サトリア男爵はジェイミー皇子と今後の打ち合わせしてから部屋を辞した。

(ジェイミー皇子が頭のいい方で仕事が出来るというのはやはり本当だった。この一歩が、自分の立場を危うくするかもしれない。それでも、皇子に相談して正解だったな……)




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