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34話 CM入ります~
しおりを挟む朝目覚めると、いきなり目の前に『只今の視聴率5.1%』と数字が浮かび上がった。
え、5%とは随分上がったわね。私が知らないところで何か変化があったのかな。
考えてみると、皇子の帝国での評判も回復したし、シャルル皇子とも仲良くしている。ジェイミー皇子のことで大公側につく貴族たちの心配はなくなったと思うけど、それで大公が謀反を諦めるかどうかは分からない。
どうしたら大公側の考えを知ることが出来るだろう?
謀反を諦めたならそれでいい。続けるつもりなら、そろそろ誰かに相談して止める方法を考える時期だと思う。
そのためには確固たる証拠だって必要になるわ。うーん、どうしたらいいんだろう。もう私一人の力では限界があるかもしれない。相談できるような信頼のおける人は誰だろう?
ミーガン叔母様? ルイス副団長? それとも……ジェイミー皇子に直接話してみる?
ああ~ダメだ。どうして謀反を企てていることを知ったのか聞かれたらなんて言おう。偶然立ち聞きしました? どこで? 大公家に行ったことはないし、謀反を起こそうとしている皇宮の中でそんな話をするわけ無いし。あ~~詰んだ。
いくら考えてもいい案が思い浮かばない。こういう時は一旦忘れて全然違うことをしたほうがいいかもしれないわ。
「ローズ、皇宮に行く時間だぞ。父上はもう馬車の中だ。早くしないと遅れるぞ」
リック兄様の呼びかけで私は我に返り、慌てて馬車へ向かった。
_____
皇宮に到着するとお父様が私にピクニック用のバスケットを手渡してきた。
「これをネイサンに渡してくれ。以前借りたままだったのでな、中にお礼の菓子が入ってるからこのまま渡してくれればいい」
「バスケットをお借りしていたのですか?」
「そうだ。随分前だったからなあ、遅くなって申し訳ないと伝えてくれ」
私は籐で編まれたバスケットを腕に下げて皇宮入りした。どんなお菓子が入っているんだろう、結構重いわ。
ちょうど皇子の執務室からネイサンが出てきたので、声を掛けた。
「おはようございます、あの父からバスケットをお返しするように頼まれまして」
「おはようございますローズ様、ああ、そうでしたね。ありがとうございます」
「中にお礼のお菓子が入っています、長いことお借りしていてすみませんでした」
「はは、私も忘れていたくらいですから、お気になさらず。どうぞ、ジェイミー様は中においでです」
中に入って行くと皇子は私を待っていたようだった。
「ローズ、来て早々すまないが、礼服の仮縫いがあるんだ。ちょっと色を見て欲しいのだが」
皇子に連れられて、私は別の部屋へ案内された。
そこは大きな部屋丸ごとひとつ、衣裳部屋になっていて、仕立て屋が何人か待機していた。
そうか、皇子はスリムになったからたくさん服が必要なのね。以前の服はお直ししてるみたいだけど、礼服は新しくあつらえるのか。
仕立て屋は二人で皇子の採寸を始めた。私はソファに座らされ、その横にデザイナーらしき四十代くらいの派手な衣服をまとった男性が腰かけた。
「サトリア男爵令嬢様、お初にお目にかかります。デザイナーのヴィクター・ウエストウッドと申します」
彼は皇室御用達の有名なデザイナーだ。お金持ちの貴族はこぞって彼の洋服を買いたがるらしい。他にも舞台衣装などを手掛けていて、超のつく売れっ子だ。私みたいな男爵令嬢にはとても手の届かない世界ね。
「今日はローズ様に、皇子殿下の礼服の色と生地を見立てて頂きたく存じます」
デザイナーのヴィクターの指示で、次から次へと様々な布が皇子に当てられた。シルクのような光沢のあるもの、珍しい模様の織物、金糸で刺繍が施された布。確かにこんなにたくさんの物を見せられたら、一人では選びきれないわね。
採寸が終わった皇子は私の隣に来て、今度はデザイン画を一緒に見始めた。
「女性用のデザイン画もございます。よろしければご覧になりませんか?」
こういうのって、買えなくても見るだけで楽しいわよね。私も女ですからファッションには興味があります!
パラパラとデザイン画を見ていると、急に話し声が途絶えて室内がしーんと静まり返った。
顔を上げるとみんなの動作が止まっている。皇子は私と同じようにデザイン画を手にして、ページをめくろうとした手が宙で浮いている。ヴィクターはソファから立ち上がろうと、腰を浮かしたままだ。
ど、どどどどどーーーなってるの?!
キョロキョロと周りを見渡すと、カンペが出てきた。『CM中』
CMに入ったら動きが止まるの! なんだろう、視聴率が上がったから、スポンサーがついてCMが入るようになったとか? にしても、なんで止まっちゃうの?
と思っている間もなく『あと20秒』『19』『18』……カウントダウンが進んでいく。ええっと、どうしたらいいんだろう、わたしだけ動けるからって別の場所にいたりしたら瞬間移動したみたいに見えちゃうよね。じっとしてるしかないか。
あっという間にCMが終わった。皇子はデザイン画のページをめくり、ヴィクターは部下に指示を与えにソファを立った。
「女性のドレスはどうだ?」
デザイン画を熱心に見ている私に、皇子が話しかけてきた。
「はい、どれここれも素晴らしいのばかりです!」
「これか?」
皇子は私が今見ていたページを指さした。
「これも素敵ですけど、私はこちらのデザインが好きです」
そう言って私は前のページをめくった。お姫様ドレスの様なふわ~っとしたデザインではなく、すっきりとしたチュールが幾重にも重なっているシンプルなドレスだった。
「なるほど、ローズに似合いそうだな」
皇子は私を見て優しく微笑んだ。
ドキン!
動悸がするわ! それに……なんだか顔が熱い。四十歳前にしてもう更年期?! いやいやローズは二十歳前なんだからそんな訳ないわ。高鳴る胸の鼓動を静めようと、深呼吸する。
「そうそう、せっかくですからローズ様も採寸致しましょう! 自分のサイズを知っていると何かと便利ですよ!」
そう言ってヴィクターは部下に合図した。
さすが一流の仕事は違う。素早く私の採寸を済ませ、皇子の礼服の色と生地を決め、三週間後にお届けします、と告げたヴィクター・ウエストウッドは一陣の風のように去って行った。
結局CMは何秒あったんだろう? 1分以上3分未満ってところかしら。
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