どうやらこの物語、ヒロインが一度死ぬ仕様です

山口三

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45話 火の手

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 私はカトリーヌに続いて、パーテーションの後ろから出てきた男二人に捕まってしまった。

「何してるの、離してよ!」

「あなたを皇太子妃になんてさせないわ。ふふふ、この国はロベルトの物になるのよ。そして私はロベルトと結婚して皇后になるんだから!」

「何ですって! そんな事させない、私が……」

 言い終える前に、後ろから口を塞がれた。

 声が、出ない。

 腕を捻り上げられ、縄が食い込む。
 視界が暗くなり、足が床から離れた。

 私はなすすべもなくそのまま連れ去られてしまった。

 しばらく歩くとドアを開ける音がして、間もなく私は床にどさりと下ろされた。

「あんたには何の恨みもないが、こっちは金で雇われた身なんでね」
「おい、ぐずぐずするな。早く向こうと合流しないと金を貰い損ねるぞ」

 静かになると水音が聞こえた……それに、油の匂いもする。続いてきな臭い匂い……。これは何かを燃やしている匂いだわ。

「んんーーーんんー」猿ぐつわで声が出せない。男たちは出て行ったらしく、ドアに鍵をかける音が聞こえた。

  謀反が起きてしまったんだ! ドラマではジェイミー皇子の誕生日に謀反が起きていたのに、早まったんだ。

 そうだ、異世界物ではお話の流れが変わると大きな出来事も早まったり、起きなかったりするんだった! 当然ここでも私がジェイミー皇子を変えてしまったから、謀反が起きる日が変わってもおかしくないのに……肝心なところを見過ごしてしまっていたのだわ。

 どうしよう、早くここを出なくちゃ……皇子様は無事かしら。私の家族は? ミーガン叔母様は? お願い、どうか無事でいて。

 床に転がされていた体勢から起き上がり、立ち上がった。幸い手は前で縛られていたので、目隠しと猿ぐつわを外すことができた。

 でも目隠しを外したことを私は後悔した。

 私のいる場所は図書室だった。本に撒かれた油のせいで、火は轟々と音を立てて燃え盛っている。炎は天井にまで達し、梁が不気味な音を立てて軋んだ。こんな恐ろしい光景は見たくなかった。

 背筋に冷たいものが走る。後ずさりする足が震えていた。

 出口はひとつだけ、そのドアのほうから音がする! 誰かが気づいてくれたのかもしれない!

 ドアがわずかに開かれた「ローズ様ーーーっ」

 この声は、まさかシャルル皇子様?! ドアへ急いだものの、火柱と化した書架に囲まれて思うように進めない。そこへ、シャルル皇子が腕で火を払いながら中へ入ってきた。

「いけません、ここは危険です。早く外へお逃げください!」

 シャルル皇子は私の言葉に耳を貸さず、こちらへやって来た。

「何を言ってるんですか、一緒に逃げますよ!」

 縛られたままの私の手を引いて、シャルル皇子は出口へ向かった。

 腕を伸ばせばドアに手が届く距離まで来た時、私は咳き込んだ拍子に何かにつまずき、倒れ込んでしまった。

 その時、出口近くにあった大きな本棚がシャルル皇子めがけて倒れてきた!

「あっ!」

 私が声を上げたのと同時だった。

 メラメラと燃える炎がふっと動きを止め、シャルル皇子の頭上に落ちかけた本棚は、斜めに傾いたままピタリと静止した。

 CMだ! 

 ドアは少し開いたままだ。この人を失う未来だけは、選べない!

 私は咳き込みながら立ち上がり、思い切りシャルル皇子をドアの外へ突き飛ばした。

 シャルル皇子が廊下に吹き飛ばされると、間もなく本棚が倒れ込んできた。大きな本棚は目の前で出口をふさぐ障害物となり、炎がうねり始め、再び熱風が押し寄せてきた。

 息苦しい……かなり煙を吸い込んでしまったみたいだ。意識が朦朧としてきて立っていられなくなった。廊下からシャルル皇子の叫び声が聞こえるが、何を言っているのかはよくわからない。

 早く逃げてシャルル皇子様、そしてどうかジェイミー様が無事でいますように。あれ、私ったらさっきからずっとジェイミー様のことばかり考えているわね。そうか、私は彼のことが……今頃気づくなんて遅すぎたわ。

 この気持ちを伝えたい。嫌だな、死にたくないな……。
 
 私の目に最後に映ったのは、見慣れた視聴率の数字だった。

『只今の視聴率23.6%・おめでとうございます! 続編の制作が決定されました』

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