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46話 トム・キャスパー
しおりを挟むブラウンがフランス窓から中庭へ出ると、確かに南の宮から煙が立ち上っていた。奥の窓からは炎のような色がちらついて見える。あそこはジェイミー皇子が暮らす宮で、ローズの執務室もある場所だ……。
皇子がブラウンの横を駆け抜けた。ブラウンもすぐにその後を追い、モーブ団長の命令で数人の騎士団員が彼に続いた。
皇子が南の宮に着くと、煤だらけのシャルルが宮から飛び出してきた。
「兄上ーーっ、兄上ーーー! ローズ様が、ローズ様がまだ中に……」
「なんだと! ローズはどこにいるんだ?」
「図書室に、扉の前に……本棚が倒れて……」シャルルは泣きながら、途切れ途切れに言葉を紡いでいた。
皇子はすぐに中へ入ろうとしたが、ブラウンと騎士たちは一斉にその腕を掴んで引き止めた。
「離せ! ローズが中にいるんだ!」
「皇子様、私が行きます。どうかここでお待ちください」
ブラウンが中へ入ろうとした瞬間、激しい音とともに建物が二階から崩れ落ちた。入口はふさがれ、あらゆる窓から炎が噴き出してきた。
ブラウンは落ちてくる瓦礫をかわして一歩下がり、別の入り口を探そうと建物の裏へ回った。
すると、別の団員が背後を見てきたらしく、首を横に振りながらブラウンの方へ歩み寄った。彼の表情は暗い。「だめです……あちらも炎の勢いが激しくてとても近寄れません」
「消火班はまだか! 水の魔法を使える者は!」ジェイミー皇子は大声で叫んだ。
消火班はすぐ到着して消火にかかったが、建物はすでに半壊していた。窓枠は大きく歪み、どす黒い煙がそこかしこから吹き出していた。中に取り残されたローズが無事でいるとは到底思えない状況だった。
「わあーーっ、僕が、僕がすぐ誰かを呼びに行っていれば……兄上、ローズが取り残されたのは僕のせいです」
シャルルは号泣しながらペタンと地面に座り込んだ。
「シャルルのせいではない……間に合わなかったのだ。僕もブラウンも、ローズを守れなかったんだ……」
ジェイミーはシャルルの隣に腰を下ろし、泣きじゃくる彼の背中を何度も優しくさすった。
「ブラウン副団長、裏手から逃げようとしていた怪しい人物を二人拘束しました」
騎士団員が連れてきた二人組を見て、シャルルは勢いよく立ち上がり、彼らを指さした。
「あいつらだ! あの二人がローズを殺したんだ! 縛られたローズを運ぶのを見たんだから」
皇子もすぐ立ち上がり、二人に近づこうとしたが、先に動いたのはブラウンだった。鬼のような形相で、彼は前に立つ男に掴みかかり、そのまま殴りつけた。
「お前たちが……お前たちが!」
ブラウンの拳は血に染まり、男は立っていられずに地面へ崩れ落ちた。それでも殴る手を止めないブラウンの前に、騎士たちが立ちはだかった。
「副団長、お止め下さい! 死んでしまいます。こいつらには皇帝が極刑を下すでしょう! あなたが殺してはいけません!」
ブラウンの肩にそっと手を置く者がいた。振り返った彼の視線の先には、ジェイミー皇子が立っていた。皇子の頬にも涙が静かに伝っていた。
_________
シャルルは自室のベッドから天井を眺めていた。
ドアの前と窓の前に一人ずつ護衛の騎士が立っている。
謀反の首謀者、協力者たち、金で雇われた傭兵や残党も全て捕えられた。それでも念のために護衛が付けられたのだ。
(やっと……やっとこのループ地獄から抜け出せた。でもローズが死んでしまうなんて……ドラマの流れが変わったのは絶対にローズのおかげだ。彼女がいたから僕はこのループから抜け出せたのに)
そう、僕は憑依者だ。本当の名前はトム・キャスパー、俳優だ。
史上最年少でアカデミー助演男優賞を受賞した天才子役と呼ばれている。
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