どうやらこの物語、ヒロインが一度死ぬ仕様です

山口三

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50話 僕の世界

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「トム! トム! 起きて、もうすぐ出番よ!」
「うぅ~~~ん。だるいなぁ」

「何言ってるのよ! 髪に寝ぐせが付いちゃってるわ。早く起きて直さないと間に合わないわよ」

 なんか懐かしい声だな。

 誰かに似てる声……ああ~マネージャーやってた姉さんの声に似てるんだな。それはいいとして、起きたらローズのお見舞いに行こう。手に火傷を負ったと聞いたしな。軽い火傷と言っていたけど心配だ。

 僕はやけに重い頭をもたげて体を起こした。何日も眠り続けたような感覚だ。起き上がると姉さんがブラシを持って立っていた。

「えっ!!!」

「えっ、じゃないわよ。あと十分もないわよ、急いで!」

「ね、姉さん?!」

「そうよ、確かに私はあなたの姉で、マネージャーよ。ほらほら後ろ向いて、髪を直すから」

 どうなってるんだ? 僕は……僕は昨日あの騒動のあと、自分の部屋に行って護衛の騎士に囲まれながらベッドに入って、それから……。

「姉さん、今日は……今は何年? 何月、何日?」

「ちょっと嫌だ、どうしたのよトムったら」
「いいから! ね、早く教えてよ」

「今日は〇〇年〇月〇日よ。今度はタイムトラベラーの練習でもしてるわけ?」

 僕がうたた寝してドラマの世界に入り込んでしまったあの日だ。

 僕はトレーラーの中に据えてあるドレッサーに向かって自分の姿を確認してみた。
 間違いない、あの日のままの自分が鏡の中にいた。ドラマの中で過ごした歳月はどこへ行っちゃったんだ……。
 
 コンコン。トレーラーの扉がノックされ、出番がきたことが告げられた。

 この状況に頭が付いて行かず、混乱したまま僕は姉と現場に向かった。

「よーし、揃ったな。レディ?」監督が合図を送る。カメラを回す指示が出された。

 続いて「マーク」と声がかかり、カチンコ係りが「シーン7・テイク1・ナンバー3」とカチンコに書かれた内容を読み上げた。
一呼吸置いてカメラがカチンコの内容を撮影した後、監督が「アクション!」と威勢のいい声を張り上げた。

 ケニス・トールスが僕の前に跪いた。

「シャルル様、ご安心ください。必ずドラゴンを倒すと予言された魔法使いを探し出してみせます。その者と第一皇子様の剣があれば、きっと帝国に再び平和が訪れるでしょう!」

 ええ? ドラゴンだって。魔法使いを探す? このドラマってこんな話だったっけ?

「カーーーットォォ!」
「トム! どうしたぁ?」

 やばい、次は僕のセリフだったのか。って台本読んでないから分かんないよ。僕が知ってる台本の内容じゃないもの!

「あっ、あの、すみません。ちょっと頭痛が酷くて……。十分貰えませんか?」

 僕は慌ててトレーラーに駆け込んだ。驚いた姉が僕を追いかけて中に入る。

「あんた、頭が痛いなら、早くそう言いなさいよ。びっくりしたじゃない」
「姉さん、台本! 早く台本を読まないと」
「なあにぃ~セリフを忘れただけなの?」

 姉は呆れながら、台本をテーブルの上にバサッと放り投げた。

 これはシーズン2の台本だ。僕が帰って来る前はシーズン1の14話あたりだったのに……。

 ストーリーも全然違う。こんな魔法とドラゴンなんてファンタジーじゃなかった。

「あ、あのさ、姉さん。シーズン1はどういう内容だったっけ?」

 姉は時計を見ながら、しぶしぶシーズン1の内容を話してくれた。

 シーズン1は僕が向こうで体験した通りの内容に変化していた。謀反は失敗に終わっている。ローズも登場して、カトリーヌは投獄されてローズが皇太子妃になったらしい。
 
 シーズン2は、1の最後でロデロ大公が悪魔を崇拝する魔女に頼んで呼び寄せたドラゴンが、帝都を襲うシーンの続きから始まったらしい。

 僕が向こうから去ったときと戻った時の時間軸がずれている……。向こうの世界にはあの後、ドラゴンが襲来するのか! 兄さま……ジェイミーたちは無事なんだろうか?

 とにかく今は目の前の台本を暗記するしかない。

______


 あの後、なんとか自分の出番をこなした僕は家に帰り、シーズン1の放送を見直した。前作ではケニスの視点で物語が進んでいたのに、今回はほとんど出番がなかった。

 時間が巻き戻る直前に出てきた視聴率の数字。

 僕の知らない所で視聴率が取られていて、そのおかげで僕もこっちの世界に戻ってこれたのだろうか? 視聴率が上がらなかったから、ずっとループしていたのか? 視聴率が高い方のストーリーが現実でも採用されたのか?

 ……分からない事だらけだ。

 シーズン2の半分くらいまではストーリーが決定している。視聴率によっては変更されることもあるだろうから、未来は分からない。

 僕はドラマの世界に戻りたいとは思わないし、もし現実のドラマとあちらのドラマの世界がリンクしているなら、ローズやジェイミーのその後も知ることができるだろう。

 ドラマの流れが彼らに幸せをもたらすものでありますように、今はただ祈るしかない。

 僕は台本を閉じ、深く息を吸った。
 ここが、今の僕の世界だ。

 

 
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