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49話 サファイアの指輪
しおりを挟む素晴らしいお天気だった。
空は澄み渡り、心地よい風が優しく肌を撫でていた。庭園に咲く真っ白な百合の花からは強い香りが漂い、遠くにミツバチの羽音が聞こえている。
「メッサー伯爵夫人と子息は罪に問われないんですね?」
ジェイミー皇子と私は皇宮の庭園を歩いていた。この先で新しく建築中の南の宮を見に行くためだった。
「伯爵夫人は今回の謀反を未然に防いだという功労がある。子息は伯爵や姉の愚行を全く知らなかったからな。彼らには褒美が与えられても罪に問われる事はない」
「良かったですわ。それにマデリン様がいつかトールス様と結ばれるといいのですけど」
「ローズもその話を聞いたのだな。時が経てばきっと良い方向に向かうだろう。今は当人たちも、それを望んでいないだろうしな」
裁判の結果、大公家は取り潰され、ロデロ大公とロベルトは死刑。他の家族で謀反を知らなかった者は平民へと格下げされた。謀反に関わった貴族たちは、死刑に処された者や財産・領地を没収された者などさまざまだったが、ほぼ全員が厳しい刑罰を受けた。
メッサー伯爵は死刑、カトリーヌは投獄され、実に三十五年という長い歳月を牢で過ごすことになった。罪状は皇子への不敬と殺人教唆。殺されかけた私が言うのもなんだけれど、ずいぶん厳しい判決だと思う。
「ローズ、気にかかることがあるのか?」
「いえ、マデリン夫人と子息のことを聞いて安心しましたから」
「相変わらず君は優しいな」
先方から工事の音が聞こえてきた。皇子はふと歩みを止めた。
「ローズ、やっと騒動が落ち着いたばかりだが……その……君の心が誰に向いているのか、分かったのだろうか?」
……どうしよう。いつかはお返事しなければと思っていたけど、いざとなるとすごく恥ずかしいわ。
「ええと……それが。何と申し上げたらいいのか……」
「そうか、やはりブラウンのことを……」
皇子は私から顔を逸らした。あああ、勘違いされている。
「あっ、いえ、違います! 私は……あの時、図書室で焼き殺されそうだった時、頭の中に浮かんできたのは皇子様のお顔でした。ずっと皇子様の無事だけを考えていたんです」
「それは……つまり!」皇子の目は期待に輝いていた。
「そうです、つまり、私は皇子様が好きです!」
言っちゃった……。はっきり言っちゃったわ!
「ローズ、良かった……これを渡してから断られたら、どうしようかと思っていたのだ」
皇子は上着のポケットから無造作に小さな指輪を取り出した。皇子は一瞬、言葉を探すように指輪を見つめ、それから私の薬指を取った。
「ローズ、私と結婚してほしい。そして一緒にこの国を治めて行って欲しい」
「……はい。私はこれからもずっと皇子様のお傍におりますわ」
ふと自分の指にはまった指輪に目をやった。サファイアだろうか、深い青色の宝石が陽の光を受けてキラキラと輝いている。
「君の名前にちなんでルビーにしようと思ったんだ。でも今は高品質のルビーの在庫がないからとサファイアに押し切られた」
皇子様ったら押し負けたのね。宝石商に言い包められる皇子様を想像すると、ちょっと可笑しい。でもルビーでもなんでもいいわ。私のために選んでくれたんだもの。
「私のためを考えて下さったのが嬉しいですわ」
私の笑顔に、皇子は口づけで応えた。しかも今度は、軽いキスでは終わらなかった……。
「これからは、名前で呼んで欲しい」
「……ジェイミー様」
「うん、行こう。私達が住むことになる宮を見に」
満足げに頷いた皇子は、私の手を取ってまた宮の方へ向かった。
まだまだ建築途中の宮だったが、以前より大きく作っているらしい。
「図書室が全焼してしまったのは残念でしたね。貴重な蔵書が沢山あったのに」
「火元だったからな……本はまた集めればいい。ローズが無事であれば何も惜しくない」
「仲睦まじい二人を見るのはいいものね」
そう言って歩いてきたのは、ミーガン叔母様とシャルル皇子だった。
「仲睦まじいと言うよりは、熱々と言った感じですよ、ミーガン様」
うっ、シャルル皇子にそんな事を言われるなんて……。ジェイミー様を見上げると、彼も少し照れくさそうに笑みを浮かべていた。
シャルル皇子は目ざとく私の指輪を発見した。「あっ、求婚も成功したのですね! おめでとうございます。兄上!」
「あ、ああ。ありがとうシャルル」
あれれ、シャルル様ってこんな感じだったっけ? なんだかジェイミー様が押され気味のような。
そういえば謀反のあと、シャルル皇子に会うのは久しぶりだった。色々な騒動がシャルル皇子を成長させたのかしら?
「おめでとう、ローズ。お兄様が聞いたら腰を抜かすわね。ふふふっ」
ミーガン叔母様もいたずらっぽい笑顔をこぼした。
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