どうやらこの物語、ヒロインが一度死ぬ仕様です

山口三

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48話 事の顛末

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 案の定、本宮の方から、縛り上げられたローズを抱えた黒ずくめの男が二人、こちらへ向かってきた。

 僕は身をかがめて茂みに隠れ、男たちが中へ入るや否や本宮へ向かった。この後の展開は分かっている。だから今回は先に助けを呼びに行くんだ!

 本宮へ戻ると、ロデロ大公とロベルトが連行されているところだった。ロベルトが何か言いかけたが、僕の一言がそれをかき消した。

「兄上、ローズが連れて行かれました。南の宮です、早く!」

 僕の言葉を聞いたロベルトは驚きを隠せず、「もうバレたのか!」と言ったあと、はっとして口をつぐんだ。

ジェイミーとブラウンが先頭に立ち、南の宮へ急いだ。うっすらと煙が立ち上っている。どうか間に合ってくれ、間に合ってくれ……。

 宮へ入っていくジェイミーに、後ろから僕は声をかけた。「図書室です!」

____________


 猿ぐつわと目隠しを外した私は、すぐに図書室の出口へ向かった。容赦なく迫る炎をかいくぐり、ようやく出口のドアが見える場所までたどり着いた。

 もうすぐだ、早くここを出て謀反のことを知らせなくては! 

 皇子様どうか無事でいてください! 私ったら自分がこんな状況なのに頭に浮かぶのは皇子のことばかり。そうか、そうだったんだ、私は……。

 出口はすぐそこなのに、咳き込んだ拍子に何かにつまずいて倒れてしまった。ああ、煙を吸い過ぎたせいだ。視界がかすんできた……。

 その時、図書室のドアが開き、誰かが私の腕を掴んだ。体を支えられ、そのまま外へ連れ出される。  

 外に出た瞬間、間髪入れず背後で大きな音がして、何かが倒れた。

「危なかった。一瞬でも遅れていたら、あれの下敷きになっていた……」

 振り返ると、大きな本棚が出口を塞ぐように倒れ、激しい炎に包まれていた。

 私を連れ出してくれた人は、その腕にしっかりと私を抱きかかえて言った。

「間に合ってよかった、ローズ。怪我はないか? 痛むところは?」
「ゴホッ、大丈夫で、ゴホッ、す」

 顔を上げると、そこには心配そうな表情を浮かべたジェイミー皇子がいた。

「立てるか? さあ掴まって、急いで出よう」

 少し遅れて、ルイスが皇子の反対側から私を支えてくれた。外で待っていたシャルル皇子が駆け寄ってきた。

「ローズ! ローズ! 良かった、今回は間に合って本当に良かった!」

 私にしがみつくシャルルの頭を、ジェイミー皇子は優しく撫でながら言った。

「シャルルが知らせてくれたのだ、ローズがここに連れて来られたと」
「あっ、そうだ! 謀反が、ロデロ大公が!」

「大丈夫だ、もうあいつらは捕まえてある。それより君を殺そうとしたのは……」

 皇子が言いかけると騎士団員達が、黒ずくめの男二人を捕らえて連れてきた。

「ローズ様をさらったのはこの二人で間違いないですか?」
「ええ、そうだと思います。覆面はしていましたが、声を聞けば分かります」

 すると男の片方が、もう片方に向かって毒づいた。

「だから、ぐずぐずしゃべってないで急げって言っただろ! 声でバレちまったじゃないか!」

 私はその声を聞いて「そう、この人です」と言い、さらに「でも首謀者は別にいます」ときっぱり告げた。


_______


「じゃあ、謀反が起こることは前もって分かっていたんですか!?」

 私はあまりにも驚いて、手にしたカップのお茶をこぼしそうになった。

 建国記念舞踏会から六日後、過保護な家族のせいで私はまだベッドから出られないでいた。

 お見舞いに来てくれたルイスが、これまでの経緯を話してくれたのだ。

 ルイスによると、ロデロ大公の謀反にはメッサー伯爵も加担しており、それを密告したのはなんとメッサ―伯爵夫人だったらしい。

 本来なら、反皇帝派の貴族を大勢味方につけたロデロ大公の謀反は、圧倒的な勝利を収めるはずだった。

 でもジェイミー皇子は見事に変貌を遂げ、状況が一変した。貴族たちを引き込むために多額の賄賂が必要になったのだろう。そのため、メッサー伯爵を巻き込み、資金集めに奔走させたのではないだろうか。

「でもなぜ、メッサ―伯爵夫人は夫を裏切るような真似をしたんでしょう?」

「夫人が話を持って行ったのはケニス・トールス様なんです。昔のことで私も詳しくは知らないのですが……」

 メッサー伯爵夫人……マデリンはメッサ―伯爵と結婚する前はなんとケニスと結婚の約束まで交わした仲だったそうだ! 
 ところが、実家が借金で苦しんでいるところをメッサー伯爵に付け込まれ、まるでお金で買われたような形で伯爵家に嫁いだらしい。

「もしかしたらマデリン夫人は伯爵の事をずっと恨んでいたのかもしれませんね」
「そうですね、夫人はまだトールス様の事を想っていらっしゃるのかもしれません……」

 ふと、ルイスの表情に切なさがにじんだ。ああ、そうだ。私も自分の気持ちをはっきり伝えなくちゃ。それに、もしかしたらルイス様はもう気づいているかもしれない……。
 
「あの、ルイス様。実は、わたし、謝らなければならないことがあるんです。ルイス様とのお付き合いを承諾しましたけど……」

「ローズ様、あなたのお気持ちがジェイミー様にあることは少し前から気づいていました。それでも多少の望みはあると思っていたんです……ジェイミー様より先にあなたに出会っていたら、結果は違っていたでしょうか?」

 そうルイスは言ったが、すぐ首を振った。
 
「いえ、こんなことを言ったらローズ様を困らせるだけですね。私は黙って身を引きましょう」

「本当に……ごめんなさい」

「そんな顔をしないで、ローズ様。私はこれからも帝国の盾として、ジェイミー様やローズ様をお守りして行きます」

 ルイス様はこれまで以上に優しい笑みを残して去って行った。


__________


 それから二週間後、まず帝国議会が招集されロデロ大公とメッサー伯爵、この両家に加担した貴族が裁判にかけられることが認可された。

 裁判ではメッサー伯爵が、国有財産を何年も前から横領していた証拠が明るみに出された。ロデロ大公の謀反に加担した後、その金を使って有力な貴族を自分たちの側に引き込んでいたことも明らかになった。

 さらに、第一皇子ジェイミーの婚約者だったメッサー伯爵令嬢カトリーヌが、ロデロ大公の息子ロベルトと密かに関係を持っていたことが判明した。

 当然のように帝都ではこの騒動が町の話題を独占していた。

「貴族ってのはどうしようもないほど腐ってるな」
「俺たちが必死に働いて収めた税金で贅沢してやがったんだ、この伯爵は」
「だから最後は奥方に裏切られて……いい気味だ」

 謀反が起きたことも衝撃だったが、貴族たちの間ではカトリーヌとロベルトの不義の方がよく話題にのぼった。

「かなり前からロベルト様と関係があったみたいよ。ずっと皇子様を裏切っていたってことになるわね」
「それなのにローズ様を逆恨みして、焼き殺そうとしたんでしょう?」
「気の毒なのは夫人と幼い息子だわ」

 謀反に関して、カトリーヌはロベルトに利用されていただけだった。それでも世間はカトリーヌに同情はしなかった。私以外にもカトリーヌに嫌な思いをさせられた人は多かったみたいね。
 

 裁判の結果はそれから二ヵ月も経たないうちに出された。

 
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