彼を泣かせたい

タニマリ

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彼を泣かせたい 中編

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あっという間に喜瀬はレベル100になった。

他の竹内らはレベル50くらいでもたついている中、驚異的なスピードである。
要領良くやっているにしても早すぎる。
夜も寝ないでやっているのだろうか?


『 レアモンスってマップのどのへんにいますか?』
『 属性ってなんですか?』
『 強いモンスターが手に入りません。 』
『 好きな女の子に告白したいのですが(//∇//)』

竹内達からの質問メールが止まらない……
私とフレンドなのは竹内と喜瀬だけなのに。
フレンドじゃないやつらからもメッセージがバンバンくる。
てか、最後のメッセージはなんだよ。竹内のバカめ。


『初心者はレアでやすいからとにかく歩き回ること。』
『属性は火、水、土の3つ。それぞれ有利不利なのがある。 』
『ガチャるかイベントで手に入れるしかない。』
『あんたバカそうだから諦めなさい。』

いちいち疲れる……




もうすぐハンワール恒例のイベントが始まる。
一週間のモンスター討伐のポイントを競う、三ヶ月に一度行われるメインイベントだ。
上位にランクインすると武器や防具、レアモンスター等の豪華報酬が手に入る。
報酬には個人ランキングとギルドランキングがあるのだけど……


私は今ギルドには所属していない。
昔は入っていて仲間とワイワイやっていたけれど、強くなるにつれてギルド内で不満や争いが出てきて…空中分裂のような感じになって解散してしまったのだ。

それ以降はイベントの度に上位のプレイヤー同士で組んだり、強いギルドに助っ人として参加したりしていた。

昔、イベントの期間が試験と重なってあんまりポイントが稼げなかった時、寄生虫とか言われたことがあった。



みんなリアルでいろいろあるんだからそんなひどい言い方しなくてもいいのに。
なんでもっと楽しく出来ないかな~……

でもギルドランキングの報酬も魅力的だからな…
今回はどこに入ろうか……
ため息が出る。




『またうちのギルドに助っ人に来て下さい。』
『セルセレ~また組もうぜ~。』

イベント近くなってきたのでお誘いのメッセージがいっぱいくるようになってきた。


『セルセレさん。俺らのギルド入って下さい m(_ _)m』

これって…竹内からか……
相変わらず怖いもの知らずだな。










翌朝、教室に行くと竹内達は集まってハンワールをしていた。
朝練と称して早くに登校しているらしい。
喜瀬もみんなと離れた後ろの席に座ってはいるが、一応朝練に付き合っているようだ。
喜瀬のレベルは150にもなっていた。

ギルドの人数はMAX10人。
その朝練メンバーも全員で9人になっていた。



「セルセレさんからOKきた?」
「いやまだ返信ない。」
「イベント近いし他の人いれた方が良くない?」
「セルセレさんみたいな強い人来ないって~。」

みんながもう諦めるようにと竹内を説得しだした。
まあそれが普通よね……
私もそろそろどこにするか決めないといけない。


「うるせぇ!マスターは俺だ!ギリギリまで待つ!!」


いつもひょうきん者の竹内が珍しく怒った。
みんな一瞬静まり返ったあと、マスター格好良いっとか口々に言い出し盛り上がる。


「桜おはよー。男子達また朝からうるさいねー。」
登校してきたユウちゃんが話しかけてきた。
「そうだね…毎朝楽しそうだね。」

ほんと楽しそう……
私はスマホを取り出しメッセージを打った。


『今回のイベお世話になります。よろしくね。』


私のメッセージを見た男子達は蜂の巣をつついたかのような大騒ぎになり、セルセレさんコールをしだした。
セルセレ、私なんだけどね……

「もうなんなのあいつら。うるさすぎ。」
ユウちゃんが信じられないと言う感じで呆れていた。
「まあまあ、楽しそうだからいいじゃん。」

私がバカ騒ぎしている竹内達を笑いながら見ていると、後ろの席に座っていた喜瀬と目が合った。
私は慌てて目をそらした。

なんだろう……
口元がちょっと笑ってる感じに見えたんだけど……


まさかね。
あの無表情の喜瀬が笑うなんて…見間違いよね。










『イベント中はイベント用のマップがあります。』
『今回出てくるのは主に火属性のモンスターです。』
『なので武器や防具、手持ちのモンスターは火属性に強い水属性を装備して下さい。 』 

『イベントではモンスターに負けるとその分のポイントがマイナスになります。』
『強いモンスターに遭遇したら絶対逃げるように。 』


強いモンスターを倒す手順とか効率よくポイントを稼ぐ方法とかもっといっぱい教えてあげたいことはあるのだけど……
とりあえずは重要なことだけをギルドの掲示板に書いておいた。





イベントが始まった。

『水属性ってなにを見たらわかるんですか? 』
『イベント用のマップってどれですか? 』
『痩せたいんですけど良いダイエットないですかね?』
『おかんの料理がくそ不味いのですが…』
『可愛い生徒会長に告白したいのですが(//∇//) 』



ギルドの掲示板でみんなが私に質問してくる。
途中からゲームに関係なくなってね?
最後の竹内っ。
バカだから諦めろって言っただろ!


喜瀬以外みんなポイントがマイナスだ。
装備だって水属性にしてない。
竹内にいたっては火に弱い土をガン積みだ。

どいつもこいつもなんもわかってないっ。
失敗した…まさかここまでとは……



「おまえらスマホ寄越せ。」

喜瀬が珍しくみんなの輪の中に入っていった。
ひとりひとりのスマホを操作して水属性の装備に組み替えていった。

「セルセレさんが強いモンスターは逃げろって言ってただろ?バカかおまえらは。」
みんなに説教しだした。

「弱いモンスターでも一撃で倒せた場合はポイントが3倍もらえるから、おまえらは雑魚モン倒しとけ。あとしょうもない質問をセルセレさんにすんな。」

さすが喜瀬…よくわかっている。









イベント中盤。
みんな弱くてもヤル気はあるので、このまま頑張ればギルド報酬がもらえるギリギリの千位以内には入れるかもしれない。

それを言うとみんな盛り上がっていた。
やっぱり活気があって楽しいというのはいい。

私もみんなのために頑張ってポイントを稼ごう。
今日も睡眠時間を削ってベッドの中でスマホをいじっていた。


にしても喜瀬…
初めてのイベントとは思えないくらい着実にポイントを稼いでいる。
なにやらしても上手いんだけど、ゲームもか……


そろそろ寝ようと思ってた時に誰かからメッセージがきた。

『セルセレさん、今ちょっといいですか?』

喜瀬からだった。


『タク君どしたの?』
『セルセレさんて美人で頭が良くて仕事も出来て男性にもモテモテなんですよね? 』

竹内が勝手に想像したんだけど……
今やそのイメージで定着してしまっている。
なんて答えようか……
違うよ~とか言ってみんなの士気が下がっては困る。


『俺もそうなんです。イケメンで勉強もスポーツも出来て男子にも女子にも人気がある。』
自分でここまで言い切っちゃうやつも珍しい。

『俺、小さい頃から努力しなくてもなんでも上手に出来たんです。 』
『 そうなんだ。タク君すごいね。』

『久しぶりです。何かにこんなに夢中になったの。』
『ハンワール楽しいよね。 』

『ええ、楽しいです。今は…だから怖い。』
『怖い?』


『またもとの世界に戻ってしまうのが…… 』

もとの世界っていったいなんなんだろうか……
喜瀬から続いてメッセージが入る。




『俺、世の中が全部冷めて見えるんです。』




─────これって……



『心に何も響かない。本を読んでも、映画を見ても、綺麗な景色を見ても……』


こんな話…私なんかが聞いてもいいのだろうか……




『ある女の子から言われました。泣いたことはあるのかって。』




それって私からだ……
アンドロイドみたいなやつだと思っていた。
なにも感じないやつなんだと……





『どうしたら泣けますか? 』







喜瀬の心の中にある悲鳴を聞いたような気がした。



喜瀬は喜瀬で…

ずっと苦しんでいたんだ。




答えられない。
私なんかじゃ無理だ───────


みんなが思っているセルセレならなんと答えるのだろうか……?
わからない。わかるわけがない。



返事が出来ないまま、時間だけが過ぎていく……



『俺、多分セルセレさんすぐ抜かすと思います。』


そうかもしれない……
私の方が何年もやっているのに、否定出来ないのが悔しかった。


『そうなると一気に冷めそうで怖い。』




どうせなら一位を目指してやってみればいいのに。
私よりもっと強いプレイヤーはいっぱいいる。
イベントだってたくさんある……
そう思ってはみてもメッセージが打てない。
どれもこれも、的はずれな答えだと思うからだ。



『……もしこのイベントで俺が勝ったら



付き合ってもらえませんか?』





えっ……


ちょっと待ってどういうこと?
私に勝って抜かしちゃったら冷めるかもで、それが怖いから私と付き合う?

私が美人で頭が良くて仕事も出来て男性にもモテモテだから?
そりゃそんな年上女性と付き合えるなら嬉しいだろうよっ。

でも実際は違うからねっ!


『長々と話してすいません。おやすみなさい。』


まま、待ってっ!
まだ寝ないで!!

喜瀬はそのままログアウトしてしまった。
まずい…まずいぞ。


でも冷静に考えたら今回のイベントで喜瀬に抜かされることなんてないよね……

有り得ないよね………

















今日は朝から体育の授業だった。

「男子はサッカーか……いいなぁ。」

女子の方はグランド8周のマラソンだった。
1周走っただけで寝不足気味の体に堪えてきた。
苦しい…吐いたらどうしよう……

後半組の女子達から黄色い悲鳴が上がった。
どうやら喜瀬がシュートを打って華麗にゴールを決めたらしい。
相変わらず何をやらしても上手い。
同じチームメイトが嬉しそうにハイタッチする中で、喜瀬だけは冷めた表情だった。


─────世の中が全部冷めて見えるんです。


昨日の喜瀬の言葉がよみがえる。
女子達はあのクールさがたまらないとか言っていた。

何も力になれない自分がもどかしかった。









お昼休みにトイレで吐いた。
体育の授業からずっと体調が悪い……
でもイベントは明日の夜0時までだ。
喜瀬もどんどん追い上げてきてるから倒れてる場合じゃない。

「顔色かなり悪いよ。」

声のした方を振り向くと、喜瀬が壁にもたれかかるようにして立っていた。

「今日はお互い休戦にしとく?」
「………なんの話?」
休戦て…まさか……鼓動が早くなる。
喜瀬はとぼける私を見ながらため息をついた。

「スペイン語で森はselva。桜はcerezo。」

私のハンワールでのプレイヤー名……
自分の名前の森 桜をスペイン語に変換して考えた。

「セルバ・セレッソ。略してセルセレ、単純すぎ。」

……単純……
喜瀬の家で下の名前を聞かれた時にも言われた。
あの時にもう気付いたってことか……
普通スペイン語なんてすぐ気付かないと思うんだけど。

えっ……てことは………
昨日のアレは私だってわかってて言ってきたってこと?
あんな胸の内の苦しい悩みとか、俺が勝ったら付き合ってとか……?

「私とわかっててなんで?」
わけがわからない。
また、私をバカにしてるのだろうか?


「君に興味がある。」


喜瀬は相変わらずの冷めた表情なのだが、私を見つめる目にどこか熱っぽいものを感じた。

「有名なゲームの中で上位プレイヤーだったり、俺に泣いたことはあるのかと聞いてきたり……」

喜瀬はそう言って私に近寄り、頬にそっと触れた。


「興味のある子といろいろ試してみたい。」



試すって……
あれか……いろいろエロいことか?


冗談じゃないっ!



「勝つ自信ない?」

喜瀬が挑発的なことを言ってきた。
なんなの…初心者のくせに生意気すぎる。

「負ける気がしない。今日も全力で行かせてもらうから!」
「いいね。そうこないと面白くない。」

喜瀬が口元だけを緩め、クスっと笑った。
こいつだけには絶対負けない。












イベント最終日。

朝起きると私と喜瀬のポイント差は25万になっていた。
夜中に寝る時は50万はあったはずなのに……
いったいどんな裏技を使ったんだか検討がつかない。


喜瀬はまだ初心者扱いなのでレアなモンスターが出やすい……
レアモン一匹につき500ポイント。
一撃で倒したとしても1500ポイント。
一晩寝ずにやったとしても25万ポイントなんて……



「桜もう学校行く時間だよー。」

姉が一向に起きてこない私を心配して部屋に入ってきた。
まだなにも用意出来ていない。
慌てて制服に着替えた。





学校に着くと差は24万に縮まっていた。
この短時間に1万ポイントも?

こんな速度でポイント稼がれたら負ける。
負けたら喜瀬と付き合って実験動物みたいなことをされる。

どうすんだ、私っ!










昼休み、信じられないことに差は8万ポイントになっていた。
明らかにおかしいっ。
だって喜瀬も私と同じ授業を受けているのにハンワールが出来るわけがない!

「喜瀬っ、ちょっと話があるから来て!」
私は机で寝ていた喜瀬の腕を引っ張り、人気のない非常階段まで連れていった。


「スマホを触ってもないのにポイントが増えてるなんてどういうこと?!」
「自宅のパソコンで起動させてるから。」

やっぱり……

エミュレータというものを使ってスマホのアプリをパソコン上で起動させることが出来る。
パソコンの方が大容量なのでスマホでするよりずっと動きが早い。
でもこのやり方は非公式な方法なので見つかればアカウントが停止になる可能性がある。

それに……

「なんで喜瀬がここにいるのにパソコンが動いてるの?」
「プログラミングしたから勝手に動いてる。」

────プログラミング……
プログラムを作成し、人間の意図した処理を行うようにコンピュータに指示を与える行為である。
つまり、喜瀬はコンピュータにモンスターを狩ってもらいポイントを稼いでたのだ。

それは完全にアウトだろっ!


「もしかしてレベルアップもそれでした?」
「したよ。コツコツやるなんてバカらしい。」

バカらしいだって?
私のこの5年間の努力を……
喜瀬のレベルはもう180になっていて、もう十分私とやり合えるレベルだった。

「俺がなんの勝算も無しに勝負に挑むとでも思った?」

こんなやつに負けない、負けたくないっ。


「私が勝ったら喜瀬にはハンワールを引退してもらう!あんたにこのゲームをやる資格なんてない!!」


私の気迫に喜瀬は一瞬驚いた表情をした。


「まだ俺に勝つつもりなんだ…」
「今日の0時までは諦めるつもりないからっ。」

「放課後にはポイント追い抜いてると思うけど?」
「放課後からは私もフル参戦出来るし、すぐまたぶっちぎりで追い抜いてやる!」


「へー……ぶっちぎりねぇ。」


喜瀬はそう言ってからなにかを少し考えたあと、スマホを取り出し操作した。

「今パソコンの電源切った。ここからは俺も正々堂々と勝負するよ。」
「喜瀬……?」


「俺もぶっちぎりで勝つから。」


そう言って喜瀬は楽しそうに笑った。
いつもの冷めた表情からは想像出来ないくらい可愛い笑顔で……
そのギャップに不覚にもちょっとクラっとしてしまった。












放課後になった。
早く家に帰ってイベントやりまくらないと……
でも携帯会社からきていたメールを見て私は愕然とした。
今月のギガを使い切ったので低速制限になったらしい……

「へー……それでどうやって戦うの?」

スマホを握りしめる私の後ろから喜瀬がのぞき込んできた。

「……ネットカフェ行く。」
「未成年なんだから夜はダメでしょ?」

確かに。22時以降は18歳未満は入店禁止だ。
0時までWiFiが使えるとこなんて……


「俺んちのWiFi、強い電波のルーターに変えたんだけど……今日は親もいないし、来る?」



いろいろ危険な匂いがしてならないのだけど…
背に腹は変えられなかった。

















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