あの人は先生

タニマリ

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あの人は先生 後編

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結局終業式はお腹が痛くなったと言って行かなかった。

その日の夕方に先生が配られた手紙や書類を持って家まで来てくれたけれど、気分が悪いと布団に潜り込んだまま会わなかった。


今は会いたくない。

先生にも
ハマ君にも

ムッちゃんにも……




これ以上ないってくらい気分が落ち込んで、夏休みになってからも家から出ることが出来なかった。

ある日玄関でおばあちゃんがたくさんの野菜の入ったカゴを持って出かけようとしていた。
隣町に住む知り合いのとこまで届けると言うので重いだろうから私が代わりに行くと言った。


外に出たのは1週間ぶりだ。
暑い……今年の夏は特に暑い。
日差しが容赦なく私の肌を焦がす……

野菜を届け、川沿いを歩いていると崖の前まできた。
子供の頃川に飛び込んでいたあの崖だ。


なんか……

無性に飛び込みたくなってきた。



崖の上から助走をつけて川に向かって思いっきりジャンプした。
大きな音と共に派手な水しぶきが上がった。
川にぷかぷか浮きながら真っ青な空を見上げていると、子供の頃の思い出がよみがえってきた。


「ヒマリ飛べー!おまえなら出来るっ!」

あの頃はすごく高く感じて飛び込んだら死んじゃうとか思って怖くて震えた。
でもただ先生に認めて欲しくて……
目をつぶって川に飛び込んだら先生の頭の上に落ちた。


頑張ってたよな、あの頃の私は……
今の私はいったいなんなんだろうか。




崖の上から誰かが勢いよくジャンプをしてきて、私が落ちた場所より遠くに巨大な水しぶきを上げた。


今のって──────


「おまえなにやってんの?JKにもなって。」
水面に顔を出したのは先生だった。
服のまま川で泳いでいるところを見られてしまった。

「せ、先生こそ。いい大人のくせにっ。」
先生も服のままだから人のこと言えないっ。

「俺は魚釣りにきただけだ。ヒマリは?」
「……野菜を届けにきただけです。」

「意味、わかんねぇしっ。」

先生が堪えきれず笑い出したので私もつられて笑ってしまった。
先生の笑顔は昔のまんまだ。
無邪気な子供みたいで見る度にあの頃の思い出がよみがえる……





崖の上でのんびりと魚釣りをしながら服を乾かすことにした。
川の水の流れる音とセミの鳴き声しかしない中で、時折遠くから電車の音が聞こえてきた。
先生が何度も釣り糸を投げているが、全く釣れる気配がなかった。


先生は私から一緒に花火を見に行きたいのは先生だと言われてどう思ったんだろうか……

迷惑だと思ったのだろうか…


それとも……



「ヒマリさぁ、昔、夏休みの時にみんなと山登りに行ったのって覚えてる?」
何回目かの釣り糸を投げた時、先生が聞いてきた。

しっかりと覚えている。
先生と過ごした時間は全部私の宝物なんだ。
その日は先生がこの川の源流を見ようと言ってみんなで山登りをしたのだ。
途中からとても険しい山道になってきて、ほとんどの子が引き返して行った。
私はなんとかついて行ったのだけれど……

「私、横道にそれて迷子になりましたよね。」
「焦ったよあん時は。後ろ見たらさっきまでいたはずのおまえがいないんだもん。」

気付けば周りに誰もいなくて、叫んでみても返事がなくて……お腹も減るし暗くなってくるしで、子供ながらに私死ぬなと思ったんだ。

でも先生は見つけてくれた。

助かったと思って嬉しくて先生に飛びついたら、俺も帰り道わからねぇって絶望的なことを言われたんだ。


「あん時、花火大会の日じゃなかったら俺ら間違いなく遭難してたよな。」


そう……花火の音をたよりに無事に戻ってこれたのだ。

「そんなこともありましたね。」
今となっては笑い話だ。



「今年の花火大会……俺と行くか?」



えっ……

驚いて先生を見るとニッコリ笑っていた。

それって……私と2人きりでってこと?
先生がデートに誘ってくれるだなんて思ってもみなかった。
心臓がこれでもかってくらいドキドキしてきた。
きゃほーいと言いながらまた川に飛び込みたいくらい嬉しかった。嬉しすぎるっ!



でも────────……


「そうですねっ。クラスの子らも誘ってみんなで行きましょう!」
2人でいるところをもし誰かに見られたら、先生に迷惑がかかってしまう。

自分で言ってて泣きそうになってきた。
せっかく先生が誘ってくれたのに……
 


「……その日山から降りてきてこの崖の上で俺が言ったこと覚えてる?」
先生がぽつりと私に聞いてきた。

「あの日の記憶は鮮明に覚えてますよ?」
けど、俺が言ったこと………?
この崖にいた記憶さえ全くにないんだけど…先生の記憶違いじゃないだろうか……

「うわっやっべ。出荷の手伝いするように言われてたんだった。」


先生はみんなに連絡よろしくと言って去って行った。















花火大会当日。
私は先生と一緒にみんなとの待ち合わせ場所に行くことになっていた。

ちょっとの間だけ2人っきりだ。
浴衣を着て髪の毛もアップにして、ワクワクしながら先生のとこまで行こうと自分の家の玄関のドアを開けた。

「おーっヒマリ。可愛いなぁ。」

浴衣を粋に着こなした先生がもう迎えにきてくれていた。

「せ、先生もカッコイイです……」
「真っ赤になって言うな。俺まで照れるだろ。」

だって格好良すぎで見るだけでも恥ずかしいんだもん……


電車の中も花火会場もすごくごった返していて人だらけだった。
「コータロ~っ!こっちこっちー!」
「わぁ先生浴衣めっちゃ似合う~っ!」
待ち合わせ場所にはもうクラスメイトが大勢集まっていた。
先生は着いたとたんにクラスのイケイケ女子達に囲まれてしまった。
もう私が入る隙間なんてない。

「ヒマリ可愛い~髪の毛アップにしてるの初めて見た。」
「ミイちゃんこそ可愛いよー。これで全員集まった?」

「ううん。あとハマ君が来るらしいよ。」

えっ……ハマ君て。
ハマ君が遅れて悪ぃと言ってクラスの男子達の輪に入って来た。
なんで?ムッちゃんと一緒じゃないの?

まさか───────……



先生が出店行くぞーと言ってみんなを引き連れ移動する。
射的をしたり輪投げをしたり…先生は誰よりもはしゃいでいた。
女子が欲しいと言った景品を次々と取ってあげ、男子にはコツをレクチャーしていた。

ああいう親分肌なところは子供の頃から全然変わってない。すごく楽しそう……
あの頃は、先生の隣は私だけの定位置だったんだけどな……




「ヒマリ、ちょっといい?」


ハマ君が話かけてきた…聞きたくないけど聞かないわけにもいかない。
私達はみんなからちょっと離れたところまで移動した。

「……ムッちゃんとは別れたんだ。」

産まれた時から私達は3人ずっと一緒だった。

「俺……ヒマリのことが好きなんだ。」

それはずっと続くと思っていた。
大事な子供の頃の思い出がガラガラと崩れていく音が聞こえた。
先生と過ごしたあの宝物のような日々まで全部……

もう、戻れないのだと突きつけられたような気がした。


「私は…ハマ君のこと、嫌いっ。」


遠くで先生がクラスメイト達と盛り上がる声がとても虚しく聞こえた。

「……今日はもう帰るっ。」
「ヒマリっ!」

ハマ君が呼び止める声を無視して花火会場をあとにした。









ムッちゃんは家でひとりで泣いているのだろうか?
心配になってきて、静かなところまで来てからムッちゃんに電話をした。

「ヒマリぃ?どしたの?」
電話に出たムッちゃんは思っていたより明るい声だった。
電話口からはザワザワと騒がしい音が聞こえた。

「ハマ君と別れたって聞いたから……もしかして今花火会場に来てる?」
「来てるよー。鈴木と。」
えっ……鈴木?
鈴木ってあの野球部のエースの鈴木??

わけがわからなくて言葉が出ない私にムッちゃんのクスっと笑う声が聞こえた。

「私さ、ハマ君がヒマリのこと好きなの知ってたんだ。知ってて告白したの。ハマ君優しいから断らないだろうなと思って。」
「えっえっ?えっ?」
えっしか出てこない。

「私がイヤな女だったってこと。でもさすがに花火大会は特別な日でしょ?なんか…不毛なことしてるなあって思って……私の方から振ってやったの。」
「ムッちゃん……」

「悪いのは全部私だから。ハマ君のこと、嫌いにならないでね。」

じゃあと言ってムッちゃんは電話を切った。
私……すでにハマ君に嫌いと言ってしまっている。
だってハマ君が自分勝手にムッちゃんを振ったと思っていたんだもん。

「ヒマリ……」

ハマ君が、携帯を握りしめて呆然とする私に話しかけてきた。
一人で帰ると言った私を心配して追って来てくれたようだった。

「ごめんハマ君……私なにも知らないで。」
「いいよ。悪いのは俺だし。」

それでも言いようはあっただろうに……
一切言い訳をしないハマ君は、私が小さい頃から知っている男らしくて友達思いの優しいハマ君だった。


会場のスピーカーから、今年参加の花火師さんの紹介が聞こえてきた。
もうすぐ花火の打ち上げ開始時間だ。

「ヒマリいいの?このままじゃ俺と2人で花火見ることになるけど……」
「ハマ君……」

「ヒマリが一緒に花火を見たいのは誰?」
ハマ君がまっすぐな目で私を見つめてくる。
その優しい視線に胸がじんとして涙がこぼれそうになった。

「……でも。」
「いいんじゃないの今日くらい。2人で花火見ても。」


今日くらい。今日だけ。
先生と生徒じゃなく……
自分の気持ちに素直になってもいいの……?



「昔はもっと2人ともめちゃくちゃだったじゃん?なに遠慮しあってるの?」
「えっ……めちゃくちゃだったのは先生だけで。私は別に……」

「はたから見てたら2人とも似たもの同士だったよ。先生の気持ち、ヒマリは全然気付いてなかったの?」
先生の気持ちって……?

オープニングの花火が上がり出した。
鮮やかで細やかな模様の花火が真っ黒な夜空にいくつも打ち上げられる。

「ほら、早く先生見つけないと終わっちゃうよ。」
ハマ君が私の背中を力強く押した。

「さっきはごめんっ。私、ハマ君のこと大好きだよ!」
「わかってる。友達としてだってこともね。」

ハマ君の笑顔に見送られ、私は広い会場内を先生がいないか探しまわった。












ダメだ…全然見つからない。
何度電話をかけても繋がらない。先生はよく携帯を家に置き忘れる……持ってきてないのかも知れない。
今年は特に人が多かった。広い会場、こんなに大勢の中で人ひとりを探すだなんて無謀なのかもしれない……

次々と花火師さんの花火が上がって行く……
すごく見たいけど、鑑賞している場合じゃない。
みんなの歓声が上がる中、諦めずに先生がいないか探し続けた。
人混みの中を浴衣で走り回っているので体力も限界になってきた。

「ヒマリっ。」
私を見つけ、手を振ってくれたのはミィちゃんだった。
クラスメイト達もいた。でも肝心の先生が見当たらない。

「ミィちゃん、先生は?」
「なんか花火は約束している人がいるからって行っちゃったの。彼女かな?あんだけ格好良いんだからいるよねー。」
彼女?約束してる人って……

「今年は久しぶりにトリが凄腕花火師の萬斎《まんさい》さんだから楽しみだよねーっ。」
「……萬斎?」

私が山で迷子になった時の年にトリを飾った花火師さんだ。
楽しみにしていたけど、結局見ることが出来なかった。


あれっ……

ちょっと待てよ。
最後のクライマックスの部分だけ。
その部分だけ先生の背中に抱っこされながら見たような気がする……



「……あの崖の上だ。」
「崖?どしたのヒマリ?」


「私、行かなきゃ……」


なんでこんな大事なことを忘れていたんだろう……
もう探し回って疲れきっていたけれど、最後の力を振り絞って崖へと急いだ。



萬斎さんの花火はとても壮大だ。
直径650mにもなる正三尺玉が複数の場所から何発も上がり、花火会場からではその全体像全部を見ることは不可能なほどだ。

でも少し離れたあの崖の上からだと、その圧巻なスケールを全て眺めることが出来た。

あの日、少ししか見れなかったー!とギャーギャー泣いて文句を言う私に先生は言った。

今度萬斎さんがする時はここから全部見ようなって。



私と……

私とそう約束したんだ───────……










「おっそいヒマリ。待ちくたびれた。」
「……先生。」

あの崖の上で、先生が私のことを待ってくれていた。

「ハマとどっか行ったって聞いたから来ないかと思っただろ。心配させんなよ。」
先生がプクっとほっぺをふくらませてそっぽを向いた。
あの先生がすねてる……
その可愛い姿にキュンときてしまった。


「萬斎さんの花火は?」
「もうすぐ、これの次だ。」

私は先生とちょっとだけ離れて座った。




「俺さぁ、この田舎が大っ嫌いだったんだよ。」


私は先生と離れた位置に座った。
夢みにまで見た先生との花火……
この幸せな時間が、ずっと続けばいいのに……



「俺さぁ、この田舎が大っ嫌いだったんだよ。」



先生の言葉にドクンと胸が脈打ち、浮かれていた気分が一気に沈んだ。

「……嫌いって……?」

まさかまた出ていくとか言うんじゃないだろうか……


「狭いんだよ。やりたいことも全部やり尽くしたし。」
確かに……先生の性格からしたらこんな小さな田舎町、退屈極まりないのかもしれない。

「だから東京の大学に行ったらそこで就職もして二度と帰ってくるつもりなんてなかったんだ。」
先生は大学にいる間、一度も田舎には帰ってこなかった。
どれだけ寂しくて会いたかったか……


「でも東京にいると田舎の良さが見えてきてさ…あんだけ嫌いだった田舎が恋しく思えてくるんだから不思議だよな。結局、帰ってきちまった……」


そう言って先生は立ち上がり、空いていた隙間を詰めるようにして私のすぐ横に座った。


「……ヒマリのこともずっと気になってた。」



先生の体から感じる体温が熱い……
ダメだ私……全身が沸騰して今にも打ち上がりそうだ。






萬斎さんの花火が始まった。
音楽に合わせ、花火が打ち上がる。
その曲は、いつも先生を待ちながらホームで聞いていた私が好きなあの曲だった。



「ヒマリ……あと7ヶ月なんだから大人しく待てよ。」


私が高校を卒業するのは7ヶ月後、来年の3月だ。

「てか待て。フライングはもうナシな。俺の教師としての理性がぶっ飛ぶだろ。」

7ヶ月後には私達は先生と生徒の関係じゃなくなる。
曲がサビの部分に入り、何発もの正三尺玉が打ち上がり始めた。



「……今日も、ですか?」



驚いた顔をしている先生と目が合う……
先生の顔が赤くなり出した。

「……ヒマリっ…おまっ……!」
「花火が終わったあと、私に1分だけ時間を下さいっ。」

それだけ言って、私は夜空に鮮やかに舞う花火を見上げた。
花火の音をかき消すほどに心臓の音がうるさい。


言ってしまった……ワガママなこと。
フライングはナシと言われた直後に。
でもどうしよう……
言ってはみたものの、何をどうすればいいんだか全然わからないっ。




一瞬の真っ暗な静寂のあと、複数の場所から同時に花火が舞い上がった。
あの空気を切り裂くような独特の音が空高く打ち上がり、大玉が一斉に開花する。
今までの色鮮やかだった色とは違い、眩いほどに輝く白一色が次々と夜空に咲き誇り、尾を引いて垂れ下がっていく……

「すげぇ……」

先生が感嘆のため息をもらす……
本当に…こっちに降ってくるんじゃないかと思うほどのしだれ柳が夜空を埋めつくし、川の水面にもキラキラと反射していた。


昼間じゃないかと思うくらい辺りが明るくなったあと、再び夜の闇に包まれる。
遠くで大歓声と拍手が聞こえてきた。
すごかった……
感情が高ぶっちゃって…今日寝れるだろうか……


「……ヒマリぃ。興奮してるとこ悪いんだけど、1分過ぎるぞ。」
そうだった!
花火が終わったあと1分下さいって言ってたんだった。

「え、えっと、では……」
先生の方を向いて背中をまっすぐ伸ばして座り直す。

月あかりに照らされた浴衣を着た先生が目の前にいる。
浴衣ってなんで鎖骨がこんなに色っぽく見えるんだろう……
こんな状況、緊張しないわけがない。


これ……
チュウとかしてもいいかな?
いや、さすがにダメか……
おでことかほっぺとかならアリ?

「ちょっと先生っ目をつぶってて下さいっ!」
先生があまりにも見つめてくるので思わず言ってしまった。
言われた通り目をつぶる先生。
なんか余計恥ずかしい状況になってしまった……

あぁやっぱダメだ。
私からとかムリすぎる。
どうしよう。どうしていいんだかわかんないっ。

「ヒマリこれなにプレイ?放置プレイ?」

先生が目をつぶったまま、ちょっとイラっとした口調で聞いてきた。
髪の毛触るぐらいなら私にも出来るよね……

そっと手を差し伸べ、柔らかそうなこげ茶色の髪に触れようとした時、手首をつかまれた。


「はい、時間切れ~。」
目を開けた先生にあっかんべーされてしまった。
1分て意外と短い。
ガックリとうなだれる私に先生が言った。


「次は俺のターンね。」


えっ……



先生はつかんだ私の手を引き寄せ

手の甲にそっと口付けをした。



それはまるでおとぎ話の王子様がお姫様にするような、誠実で愛情に満ちあふれたキスだった。

「今はこれが限界。」

先生が私の頭を優しくポンと叩いた。



「……じゅ、充分です……」


私が思ってたどんなキスよりも軽めのものだったけど、先生の私に対する思いがくすぐったいくらいに伝わってきた。


「帰るぞ。」


気恥しそうに歩き出す先生のあとをついて行った。




ずっとずっと……

私は先生のあとをくっついて行くぞって…思った。



















長かった夏休みも終わり二学期が始まった。
また先生と毎日電車で会える。

ホームで電車が来るのを、いつものようにお気に入りの音楽を聞きながら待っていた。
私が人の少ない朝のホームでノリノリになっていると、耳に付けていたヘッドホンを取られた。

「だから声がでかいっつーてんだろっ。」
「勝手に人の物取らないでよコータローっ。」

「先生って呼べ!」


電車がゆっくりとホームに到着し扉が開く……
先生と乗り込み並んで椅子に座った。


「おまえら3人仲直り出来たの?」
先生が心配そうに私の顔をのぞき込んできた。

「ムッちゃんが鈴木君落としたいからってダブルデートに付き合わされてました……」
「はあ?ムツミのやつハマじゃねえの?」

「ハマ君のことはキッパリ諦めたって言ってました。」
「ムツミは切り替え早いな。あいつらしい。」

ホントに……
私が思ってる以上にムッちゃんはたくましかった。
でもそのおかげで私達3人は元のようになんでも協力し合える仲の良い幼馴染に戻れた。
ハマ君の私に対する思いは変わらずなのだけれど、友達のままでいいし先生のことも応援すると言ってくれた……



「先生は夏休みなにしてたんですか?」
「おまえらと違って教師は夏休みも学校があんだよ。」

「電車ひとりで寂しくなかったですか?」
「俺、子供じゃないからね?」

「私がいなくて寂しくなかったですかっ?」
「顔が近いっ。あぁもうっ……寂しかったよ。」

「……そ、そうですか。」
「赤くなるんだったら聞くな!俺まで照れるだろっ。」




もうすぐ渓谷にかかる橋を渡る。そこからだと遥か真下にあの崖を見ることが出来るのだ。
生い茂る木々の間から、ほんの一瞬だけだけど……


「あっ……」

崖の上で女の子がこちらに向かって手を振ってる姿が見えた。
子供の頃の私にそっくりな女の子……


「ヒマリどうした?」
「いえっ…別に……」


見間違えだろうか…
少年の背中に抱っこされてるように見えた……



「そうだ先生。あの時もうひとつ約束してくれたの覚えてます?」
「……覚えてない。」

「私にハッキリ言ってくれましたよ?」
「だから覚えてないって。」

「私と将来、けっ……」
「わ───っ!言うなそれを!!」








毎年ある花火大会。

歴史が古く、全国の花火師達が腕を競う有名な花火大会でテレビ中継をされたりもする。

この時ばかりはこの田舎の町に県外からも多くの観光客が押し寄せ、露店なども立ち並んですごく盛り上がるのだ。


地元の若い子達にとってはカップルでこの花火を見ることが憧れとなっている。




そう、彼女達は夢見ているのだ。


満開に咲き誇る花火を




大好きな彼とこの先も

ずーっと一緒に見れますようにって───────








    
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