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第6話:前払いの再会
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プロスペル王国の王都は、ついに陥落した。
アリシアが維持していた結界という名の蓋が外れた王国は、飢えた魔物たちにとって格好の餌場に過ぎなかった。
かつて豪華絢爛を極めた王宮は炎に包まれ、悲鳴と怒号が渦巻く中、二人の影が帝国の国境検問所へと這いずり寄っていた。
一人は、泥だらけの法衣を引きずり、なりふり構わず泣き叫ぶセシリア。
そしてもう一人は、王冠を失い、自慢の金髪を振り乱して震えるギルバートだった。
「開けろ! 開けろと言っているだろう! 私はプロスペル王国の王太子、ギルバート・フォン・プロスペルだぞ!」
ギルバートは帝国の強固な鉄門を拳で叩くが、門番たちは一瞥もくれない。彼らが目にしているのは、王族の威厳など微塵も残っていない、ただの薄汚れた敗残兵の姿だった。
「殿下、もうやめてください……! 早く、早く中に入れてもらわないと、後ろから魔物が……!」
セシリアがギルバートの袖を掴んで縋り付くが、ギルバートはその手を乱暴に振り払った。
「うるさい! 貴様が無能だからこんなことになったんだ! アリシアさえ、アリシアさえいればこんな屈辱を味わわずに済んだのに!」
その時。
重厚な門が、音もなく左右に開いた。
逆光の中から現れたのは、銀色に輝く精鋭騎士たち。そしてその中心で、この世のものとは思えないほど神々しい輝きを放つ女性だった。
「……アリシア……?」
ギルバートの声が、期待に震える。
「ああ、アリシア! 助けに来てくれたのか! 悪かった、私たちが間違っていた! 貴様を公爵家に復帰させてやる。いや、今すぐ王妃として迎えてやろう! だから、その力で後ろの魔物を今すぐ消し去れ!」
泥だらけの男が差し出す、汚れた手。
私は、ラグナール陛下の腕に支えられながら、冷徹な瞳でその男を見つめた。
かつて愛した面影は、もうどこにもない。そこにいるのは、自分の保身のために他人を平気で踏みにじる、醜い生き物だった。
「ギルバート殿下。お聞き苦しいですよ」
私の声は、帝国の澄んだ空気に乗り、静かに、けれど鋭く響いた。
「復帰? 王妃? ……笑わせないでください。私は今、バルドル帝国の守護聖女として、この国と、私を愛してくれるラグナール陛下のためだけに祈っています。あなたのような、守る価値のない者のために振るう指先は、もう一本も残っていません」
「なっ……貴様、私を見捨てるというのか!? 聖女だろう! 慈悲はないのか!」
「慈悲なら、あの日、雨の中に捨てました」
私は一歩、彼らに近づいた。
私の周囲に渦巻く純白の魔力が、威圧感となってギルバートたちを地面に縫い付ける。
「私が魔力を使い果たし、髪が白くなるまで国を守った時、あなたは何と言いましたか? 『戦犯』『無能』『ゴミ』……そう呼んだのは、あなたです。今、魔物に追い詰められているのは、私が壁を壊したからではありません。あなたが、唯一の防波堤だった私を自ら壊した結果です」
隣で震えていたセシリアが、必死に声を絞り出す。
「アリシア……様……お願い、私は、私はただ殿下に言われただけで……」
「セシリア様。お祈りは済んだのですか? あなたが『真の聖女』なら、後ろに迫る魔物くらい、その自慢の祈りで消し去ってみせてはどうですか?」
私が冷たく告げると、セシリアは顔を真っ青にして絶句した。
その時、背後の地平線から、王都を飲み込んだ魔物の群れが、黒い波となって押し寄せてくるのが見えた。
「ひ、ひいぃぃっ! 来る! 来るわぁぁ!」
セシリアが絶叫し、ギルバートは腰を抜かして後退る。
「ラグナール陛下。門を閉めてください。汚らわしいものが、帝国の風を汚します」
ラグナール陛下は満足げに微笑み、私の腰を抱き寄せた。
「承知した、我が愛しき聖女よ」
陛下の合図と共に、巨大な鉄門がゆっくりと閉まり始める。
「待て! 待ってくれアリシア! 頼む、助けてくれぇぇ!」
ギルバートの惨めな叫びが門の隙間に吸い込まれていく。
完全に門が閉まる直前。
私は、帝国の強固な黄金の結界を、門の外側、わずか数メートルの位置に展開した。
それは彼らを守るためのものではない。
「帝国の大地を、あなたたちの血で汚させないため」の、拒絶の壁。
閉ざされた門の向こう側から、肉を引き裂く音と、二人の最後の悲鳴が聞こえてきたが、私は一度も眉を動かさなかった。
「……終わったのですね」
「ああ。これでお前の過去はすべて精算された」
ラグナール陛下は私の真っ白な髪に口づけをした。
王国という鎖を断ち切った私は、今、帝国の太陽として、真の幸福の中にいた。
アリシアが維持していた結界という名の蓋が外れた王国は、飢えた魔物たちにとって格好の餌場に過ぎなかった。
かつて豪華絢爛を極めた王宮は炎に包まれ、悲鳴と怒号が渦巻く中、二人の影が帝国の国境検問所へと這いずり寄っていた。
一人は、泥だらけの法衣を引きずり、なりふり構わず泣き叫ぶセシリア。
そしてもう一人は、王冠を失い、自慢の金髪を振り乱して震えるギルバートだった。
「開けろ! 開けろと言っているだろう! 私はプロスペル王国の王太子、ギルバート・フォン・プロスペルだぞ!」
ギルバートは帝国の強固な鉄門を拳で叩くが、門番たちは一瞥もくれない。彼らが目にしているのは、王族の威厳など微塵も残っていない、ただの薄汚れた敗残兵の姿だった。
「殿下、もうやめてください……! 早く、早く中に入れてもらわないと、後ろから魔物が……!」
セシリアがギルバートの袖を掴んで縋り付くが、ギルバートはその手を乱暴に振り払った。
「うるさい! 貴様が無能だからこんなことになったんだ! アリシアさえ、アリシアさえいればこんな屈辱を味わわずに済んだのに!」
その時。
重厚な門が、音もなく左右に開いた。
逆光の中から現れたのは、銀色に輝く精鋭騎士たち。そしてその中心で、この世のものとは思えないほど神々しい輝きを放つ女性だった。
「……アリシア……?」
ギルバートの声が、期待に震える。
「ああ、アリシア! 助けに来てくれたのか! 悪かった、私たちが間違っていた! 貴様を公爵家に復帰させてやる。いや、今すぐ王妃として迎えてやろう! だから、その力で後ろの魔物を今すぐ消し去れ!」
泥だらけの男が差し出す、汚れた手。
私は、ラグナール陛下の腕に支えられながら、冷徹な瞳でその男を見つめた。
かつて愛した面影は、もうどこにもない。そこにいるのは、自分の保身のために他人を平気で踏みにじる、醜い生き物だった。
「ギルバート殿下。お聞き苦しいですよ」
私の声は、帝国の澄んだ空気に乗り、静かに、けれど鋭く響いた。
「復帰? 王妃? ……笑わせないでください。私は今、バルドル帝国の守護聖女として、この国と、私を愛してくれるラグナール陛下のためだけに祈っています。あなたのような、守る価値のない者のために振るう指先は、もう一本も残っていません」
「なっ……貴様、私を見捨てるというのか!? 聖女だろう! 慈悲はないのか!」
「慈悲なら、あの日、雨の中に捨てました」
私は一歩、彼らに近づいた。
私の周囲に渦巻く純白の魔力が、威圧感となってギルバートたちを地面に縫い付ける。
「私が魔力を使い果たし、髪が白くなるまで国を守った時、あなたは何と言いましたか? 『戦犯』『無能』『ゴミ』……そう呼んだのは、あなたです。今、魔物に追い詰められているのは、私が壁を壊したからではありません。あなたが、唯一の防波堤だった私を自ら壊した結果です」
隣で震えていたセシリアが、必死に声を絞り出す。
「アリシア……様……お願い、私は、私はただ殿下に言われただけで……」
「セシリア様。お祈りは済んだのですか? あなたが『真の聖女』なら、後ろに迫る魔物くらい、その自慢の祈りで消し去ってみせてはどうですか?」
私が冷たく告げると、セシリアは顔を真っ青にして絶句した。
その時、背後の地平線から、王都を飲み込んだ魔物の群れが、黒い波となって押し寄せてくるのが見えた。
「ひ、ひいぃぃっ! 来る! 来るわぁぁ!」
セシリアが絶叫し、ギルバートは腰を抜かして後退る。
「ラグナール陛下。門を閉めてください。汚らわしいものが、帝国の風を汚します」
ラグナール陛下は満足げに微笑み、私の腰を抱き寄せた。
「承知した、我が愛しき聖女よ」
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「待て! 待ってくれアリシア! 頼む、助けてくれぇぇ!」
ギルバートの惨めな叫びが門の隙間に吸い込まれていく。
完全に門が閉まる直前。
私は、帝国の強固な黄金の結界を、門の外側、わずか数メートルの位置に展開した。
それは彼らを守るためのものではない。
「帝国の大地を、あなたたちの血で汚させないため」の、拒絶の壁。
閉ざされた門の向こう側から、肉を引き裂く音と、二人の最後の悲鳴が聞こえてきたが、私は一度も眉を動かさなかった。
「……終わったのですね」
「ああ。これでお前の過去はすべて精算された」
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