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第7話:白雪の聖女、帝国の戴冠
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王国の滅亡から数日が経った。
かつて私を縛り付けていたプロスペル王国の悲鳴は、帝国の強固な国境を越えることはなく、今はただ穏やかな風が吹いている。
今日、私は帝国の守護聖女として、そしてラグナール陛下の伴侶として、民の前で戴冠の儀式を迎えていた。
鏡の中に映る自分を見て、私は一瞬、息を呑む。
纏っているのは、帝国の最高級の絹に、魔力を通す白金の糸で刺繍が施されたドレス。そして何より、以前は「不吉」と蔑まれた私の白髪が、今は内側から溢れる神聖な魔力によって、真珠のような光沢を放ち、周囲を優しく照らしていた。
「……本当に、私で良いのでしょうか」
呟いた言葉に、後ろから力強い腕が回される。
ラグナール陛下だ。彼は黒を基調とした威厳ある正装に身を包み、私の肩に顔を寄せた。
「アリシア。まだそんなことを言っているのか。貴様以外の誰が、我が帝国の隣に立つというのだ」
陛下の手が、私の頬を優しく撫でる。
「王国は、貴様という太陽を捨てて闇に落ちた。ならば、帝国はその光を全身で受け止め、世界で最も輝く国になる。……行くぞ。皆、貴様を待っている」
大きな扉が開かれ、私たちはバルコニーへと進み出た。
その瞬間、地を揺るがすような大歓声が沸き起こった。
「アリシア様!」「白雪の聖女様、万歳!」「帝国に奇跡を!」
広場を埋め尽くす民たちの顔に、王国の時のような「期待という名の強制」はなかった。そこにあるのは、純粋な敬意と、自分たちの国を救ってくれる存在への心からの感謝。
私が軽く手を振ると、指先から溢れた光の粒子が雪のように舞い落ち、民たちの疲れを癒やしていく。
「――バルドル帝国の臣民たちよ!」
ラグナール陛下の雷鳴のような声が響き渡る。
「今日、我らは真の宝を得た。救国の功績を泥に塗られ、王国に捨てられたこの至宝を、我らが帝国の守護聖女、そして我の后として迎えることをここに宣言する!」
再び沸き起こる喝采。
その光景を見ながら、私はふと、あの日、雨の中で泥を啜っていた自分を思い出した。
「戦犯」と罵られ、髪を不吉だと言われ、すべてを諦めかけた私。
もしあの日、陛下が手を差し伸べてくれなかったら、私は今頃、王国の崩壊と共に虚しく消えていただろう。
(……ああ。私は、幸せになってもいいんだ)
そう思った瞬間、私の胸の奥に眠っていた「真の力」が完全に解放された。
それは、国を維持するための無理な結界ではなく、そこに生きる人々を慈しみ、育むための「生命の魔力」。
私の背後から、光り輝く翼のような魔力が広がり、帝都全体を包み込む。
帝都の街路樹には季節外れの花が咲き誇り、病に伏せっていた者たちが顔を上げ、街全体が多幸感に包まれていく。
ラグナール陛下は、驚きと共に私の腰を引き寄せ、人々の前で私の額に誓いの口づけを落とした。
「アリシア……。貴様はどこまで我を驚かせるつもりだ。これでは、我の方が貴様に跪かねばならんな」
「ふふ……。陛下が私を拾ってくださったからです。私の力は、陛下が愛するこの国を守るためにあります」
私たちは見つめ合い、確かな絆を確かめ合う。
一方、帝国の遥か彼方、地図から消えようとしている王国。
そこでは、生き残ったわずかな貴族たちが「アリシアがいれば、こんなことには……」と、終わりのない後悔の中で魔物の影に怯えているだろう。
けれど、その声が私の耳に届くことは二度とない。
私は今、愛する人の隣で、新しい歴史を歩み始めたのだから。
かつて私を縛り付けていたプロスペル王国の悲鳴は、帝国の強固な国境を越えることはなく、今はただ穏やかな風が吹いている。
今日、私は帝国の守護聖女として、そしてラグナール陛下の伴侶として、民の前で戴冠の儀式を迎えていた。
鏡の中に映る自分を見て、私は一瞬、息を呑む。
纏っているのは、帝国の最高級の絹に、魔力を通す白金の糸で刺繍が施されたドレス。そして何より、以前は「不吉」と蔑まれた私の白髪が、今は内側から溢れる神聖な魔力によって、真珠のような光沢を放ち、周囲を優しく照らしていた。
「……本当に、私で良いのでしょうか」
呟いた言葉に、後ろから力強い腕が回される。
ラグナール陛下だ。彼は黒を基調とした威厳ある正装に身を包み、私の肩に顔を寄せた。
「アリシア。まだそんなことを言っているのか。貴様以外の誰が、我が帝国の隣に立つというのだ」
陛下の手が、私の頬を優しく撫でる。
「王国は、貴様という太陽を捨てて闇に落ちた。ならば、帝国はその光を全身で受け止め、世界で最も輝く国になる。……行くぞ。皆、貴様を待っている」
大きな扉が開かれ、私たちはバルコニーへと進み出た。
その瞬間、地を揺るがすような大歓声が沸き起こった。
「アリシア様!」「白雪の聖女様、万歳!」「帝国に奇跡を!」
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私が軽く手を振ると、指先から溢れた光の粒子が雪のように舞い落ち、民たちの疲れを癒やしていく。
「――バルドル帝国の臣民たちよ!」
ラグナール陛下の雷鳴のような声が響き渡る。
「今日、我らは真の宝を得た。救国の功績を泥に塗られ、王国に捨てられたこの至宝を、我らが帝国の守護聖女、そして我の后として迎えることをここに宣言する!」
再び沸き起こる喝采。
その光景を見ながら、私はふと、あの日、雨の中で泥を啜っていた自分を思い出した。
「戦犯」と罵られ、髪を不吉だと言われ、すべてを諦めかけた私。
もしあの日、陛下が手を差し伸べてくれなかったら、私は今頃、王国の崩壊と共に虚しく消えていただろう。
(……ああ。私は、幸せになってもいいんだ)
そう思った瞬間、私の胸の奥に眠っていた「真の力」が完全に解放された。
それは、国を維持するための無理な結界ではなく、そこに生きる人々を慈しみ、育むための「生命の魔力」。
私の背後から、光り輝く翼のような魔力が広がり、帝都全体を包み込む。
帝都の街路樹には季節外れの花が咲き誇り、病に伏せっていた者たちが顔を上げ、街全体が多幸感に包まれていく。
ラグナール陛下は、驚きと共に私の腰を引き寄せ、人々の前で私の額に誓いの口づけを落とした。
「アリシア……。貴様はどこまで我を驚かせるつもりだ。これでは、我の方が貴様に跪かねばならんな」
「ふふ……。陛下が私を拾ってくださったからです。私の力は、陛下が愛するこの国を守るためにあります」
私たちは見つめ合い、確かな絆を確かめ合う。
一方、帝国の遥か彼方、地図から消えようとしている王国。
そこでは、生き残ったわずかな貴族たちが「アリシアがいれば、こんなことには……」と、終わりのない後悔の中で魔物の影に怯えているだろう。
けれど、その声が私の耳に届くことは二度とない。
私は今、愛する人の隣で、新しい歴史を歩み始めたのだから。
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