百合カップルを眺めるモブになりたかっただけなのに。

蒼風

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Ⅲ-Ⅱ.そうだ京都、行こう。

105.二人、並んで。

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「一杯回ったね~」

「そうだね……疲れた……」

 その後。参拝を済ませた俺たちは無事ホテルにチェックインし、大きな荷物を置いたのち、京都の町を縦横無尽に動き回ったのだった。

 計画を立てたのは夢野ゆめのだ。最初は一緒に立てる予定だったのだが、あまりにも夢野の「ここに行きたい」という選択肢が多すぎて、最終的には全てお任せしてしまったのだ。

 正直、少し意外だった。

 夢野のことだ。俺の行きたいところを優先して、それを全て聞き入れた計画を練ってくるかと思っていたし、実際その方が今までの夢野を考えると自然な行動と言っていい。

 だけど、現実に彼女が立ててきた計画は全く違うものだった。そこに俺の意思は介在していない。あるのは夢野自身の「こうしたい」という願望だけだ。参拝する寺社仏閣も、見て回る観光スポットも、全てそこには「どうしてここに来たかったのか」という理由がちゃんとあった。

 そして、

「ねえ、夢野」

「ん、なあに?はなちゃん」

 俺は改めて夢野の顔を見る。その瞳も、表情も、昼間に見せたものとは全く違うものだ。

 彼女が参拝をするときに見せた真剣な表情は、俺がこれまで見たことのないものだった。

いや、本当はあるのかもしれない。なにせ、俺と夢野の関係性は、俺の方からしたらほんの一か月近く前に始まったものだ。幼馴染という関係性だって、その時に「作られた」ものだ。

 だから、彼女が今までどんな表情を見せてきたのかを俺は知らない。俺が知っている夢野陽子という人間は、ちょっと過保護でヤンデレ気味の幼馴染だ。そして、その情報と、昼間見せた表情はうまくかみ合ってくれない。

 聞きたい。

 一体君は何を考えているのか、

 だけど、突然そんなことを聞いたって、ぽかんとなるだけのはずだ。もし、俺の意図を理解してくれたとしても、正しく答えてくれるとは限らない。はぐらかされる可能性のほうがよっぽど高いだろう。

 なので、

「昼間、さ。真剣にお祈りしてたけど、そんなにかなえたいお願いでもあるの?」

 これは日常会話だ。ただのちょっとした、場をつなぐ言葉でしかない。俺にどんな意図があったとしても、表面上は、ただの形式的な問いに過ぎない。これが今の俺にできる限界点だと思う。

 その問いに対して夢野は少し戸惑い、

「えーっと……ないしょ?」

「えー……教えてよー」

 その言葉に夢野はむきになり、

「じゃあ、華ちゃんは私に何をお願いしたのか言える?」

「……ごめんなさい」

 うん。そうだね。それは無理だね。だって考えてもごらんよ。俺が「周りの百合恋愛がはかどってほしいってお願いしたんだ」なんて言おうものなら、「それは私と華ちゃんじゃダメなのかな?」なんていう、実に断りにくい質問をされてしまうかもしれない。そんな事態はさすがにまずい。

 俺の反応を見た夢野は「ね?秘密にしておきたいことってのは誰にでもあるもんなんだよ?」と言って笑う。俺もまた、つられて笑ってしまう。

 思えば、俺はずっと、色んなことに追われていたような気がする。

 学院に来てすぐは、その生活に慣れるのに必死だった。

 それとほぼ同時に、碧と育巳の関係性に深くかかわった。

 彼女たちの関係性を無事に修復したと思ったら、今度は虎子と美咲の間に入った亀裂を直すのに奔走した。

 ずっと走り続けていた。そんな気がする。

 俺はホテルのベッドにごろんと横になる。それを見た夢野は微笑みながら、

「ごめんね、連れまわしちゃって。疲れた?」

「ううん。大丈夫。だけど、なんかこう、横になりたくって」

「そう?それじゃ、私も」

 夢野はそう言って、俺のすぐ隣に横になる。二人部屋だからベッドも二つ並んでいるのに、今俺たちは一つのベッドで体を寄せ合って並んでいる。

 俺が横を向くと、そこには夢野の顔があった。

「楽しいね」

「ん?」

「楽しい。華ちゃんとこうやって旅行出来るのが。華ちゃんは、楽しくない?」

「そんなことないよ。私だって楽しいよ」

「ふふ、良かった」

 夢野はそう言って、じっと俺のことを眺めてくる。その視線は実に優しいものだ。だけど、じっと見つめられ続けてると流石に恥ずかしい。俺は視線を逸らして、

「……そうだ、明日の天気とかってどうなってるんだろうね」

 わざとらしく宣言して、リモコンを取って、テレビの電源を付ける。ボタン操作を行って、トップ画面から、地上派のテレビ番組に切り替える。

『……となっています。この地震による津波の心配はないということです』

「地震?」

 夢野が起き上がる。

「みたい。気づいた?」

「ううん。全然」

「だよね」

 なんとなしにつけた地上波のニュース番組は、今日、関西地方で地震があったことを伝えていた。画面に出ている情報を見る限り、そこまで大きなものではないようだ。

 もしかしたら道を歩いている時だったのかもしれない。人間、建物の中にいると、割と敏感に地震を感じ取ったりするけれど、外だと意外に気が付かなかったりする。

 電線やなんやらが揺れているのを見て漸く認識する、なんてこともあるくらいだ。震度もそこまでではなかったようだし、気が付かなくても不思議はなさそうだ。

「なんでもないと良いね」

 夢野がぽつりとこぼす。その不安げな眼差しに、俺は、

「大丈夫だよ。ほら、私も一緒に居るし」

 と、何とも無責任な言葉を投げかける。

「華ちゃんが……?」

 それを聞いた夢野は俺の方をじっと見て、

「……そう、だね。華ちゃんが一緒だもんね」

 と、柔らかく微笑んだ。
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