家族に疎まれて、醜穢令嬢として名を馳せましたが、信用出来る執事がいるので大丈夫です

花野拓海

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二章  しかし、概して人々が運命と呼ぶものは、大半が自分の愚行にすぎない。

憎悪の重圧

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「なん、で………?、」

 レベッカがどれだけ身体を揺さぶっても、アイトの身体は起き上がらない。
 アイトは、反応しなかった。

「どうして………?」

 わけがわからなかった。
 なぜアイトが死んでいるのか。
 アイトの評判は知っている。
 とても人が良く、どんな人にも優しくしてくれるが敵には無慈悲な人。高威力の魔法の雨をその身に受けながらも怪我ひとつ負わなかった人物。

 そんなアイトが

「死んでる………」

 その一言を呟いた瞬間、レベッカは吐き気に襲われた。

「うっ………」

 当然だ。
 レベッカはステラのこともあり、死がどういうことかを知っている。そしてその対象が今度は自分の大切な友人から、恋人に変わったのだ。

 悲しみと、認めたくない気持ちが、レベッカの身体の中を駆け巡る。
 目を背けたい気持ちでいっぱいになる。

 何故、どうして。そんな疑問が頭の中を駆け巡る。
 アイトがなにをしたのか。なぜこのような仕打ちを受けたのか。
 アイトが殺される理由なんてあるはずがない。
 なのに、何故、こうなったのだろう。
 どうして、こうなったのだろう。

 答えのない疑問が頭の中を駆け巡り続ける。

(考えなきゃ、考えなきゃ、考えなきゃ)

 考えなくてはいけない。否、思考を止めては、レベッカは自分を保てない気がしたから。だから考える。

 先に進むためでなく、現状維持のために。
 レベッカが再度アイトに触れようとした瞬間、背後からガシャン!という、なにかが落ちた音がした。

 レベッカは慌てて背後を振り返ると、そこには食器を落とした使用人の姿があった。

「あっ………」

 使用人の目には、何が写っているのだろう。
 決まっている。死んだアイトの亡骸と、レベッカの姿だ。

「きゃぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁあぁぁぁあ!!」

 その叫び声が引き金となり、屋敷の人達は皆レベッカの部屋に集まる。

「何事だ!?」

 最初に来たのは、レベッカの父で、この屋敷の当主であるヴァインヒルトだった。

「旦那様!」

 やってきたヴァインヒルトに、使用人は話しかける。
 そうして、部屋の中を見たヴァインヒルトは固まった。
 当たり前だろう。最も信頼していた家臣が、死んでいるのだから。

「どけ」

 ヴァインヒルトは、レベッカにそれだけ言うと、アイトに手を翳して言った。

「ダメだな。死んでから時間が経過しすぎてる」

 それはつまり、どうやっても蘇生はできないということ。

「あっ………」

 レベッカはそれで理解した。もう、アイトは助からないと。

「旦那様、アイト様をどうにか蘇生出来ないのでしょうか?」

 使用人はヴァインヒルトに言うが、ヴァインヒルトは首を横に振るだけ。

 ダメなのだ。諦めたら。なのに、現実は非常で、レベッカの望みをことごとく潰してくる。

 そうして、屋敷の住人が全員レベッカの部屋の中と前に集まった。

「原因は、衰弱死かな?かなり衰弱してるね。病気や、毒の類じゃない。これは、呪術かな?」

 ルーズ家お抱えの医者の診断により、アイトの死因はそのように判断された。

「ねぇ」

 そんな中、いつまでも地面に座り込んで立ち上がらないレベッカに対して、ルルアリアは話しかける。

「………」

 レベッカは反応しない。ルルアリアはその様子を面白くなさそうに見ている。

「とんだ茶番ね。よくもまあそんなことができるわね。白々しい」

「ちゃ、ばん………?」

「そうよ。茶番じゃないの?あんたにとってはね」

 それは、レベッカへのこの上ない侮辱であった。
 何故、この悲劇を茶番などと判断できるのか。その神経を疑う。

「本気でわからないの?演技が上手ね。本当は、悲しんですらないくせに」

「………なにが、言いたいの?」

 ようやく返事をしたレベッカに、ルルアリアは言う。

「あんたじゃないの?アイトを殺したのは」

 部屋の空気が固まる。
 レベッカは、何を言われたのかわからなかった。

「なんで、私がアイトを………」

「さぁ?知らないわよそんなこと。でも、状況判断からして、あんた以外の誰を疑えばいいの?」

 キツく言いつけてくるルルアリアを睨むが、

「ルルアリア。悪いが、少し黙ってもらえないか?」

 ヴァインヒルトが、ルルアリアの言葉を止めた。

「なっ!?」

 ルルアリアも驚いている様子で、レベッカも驚愕している。
 不思議に思って見てみると、ヴァインヒルトの瞳には怒気が灯っていた。

「いつまでも座るな。立てレベッカ。さもなくば、冷静さを欠いている今の私では、なにをするのかわからない」

 声音こそ冷静だが、その顔には明確な怒気が浮かんでおり、レベッカを見下していた。
 ヴァインヒルトは再度アイトを見て言う。

「魔法よりも呪術よりの殺し方だな。うちには呪術を使えるものなどアイト以外誰もいない。そして、そのアイトから魔法を教えて貰っていたお前ならば、殺すことは可能だ」

「でも、私がアイトを殺す、理由が………」

「理由?そんなもの、お前が悪魔の子の後継者で、私たちを恨んでいる。それ以外の理由が必要か?」

 ヴァインヒルトはそう言って、トリスタンを見る。恩恵ギフトである【真理の扉】に問いかけているのだろう。

「そうですね。今回の件、レベッカは関与しているとみてもいいでしょう」

 トリスタンがそう判断した。ならば、レベッカに逃れる術はない。

「我ながら、数年前の私を呪い殺したい気分だな。あんななんの力もない少女に、私の可愛い従者が殺されるのだからな。そして、そんなお前にアイトを預けた愚行を、後悔している」

 屋敷中の憎悪が、レベッカに向くのがわかる。
 殺意の本流が渦巻いている。

「さて、話してもらうぞ。そして罪を償ってもらうぞ」

 ヴァインヒルトは、魔力を練り上げ、トリスタンは持ってきていた剣を抜き、ルルアリアや使用人達は殺意をレベッカにぶつける。

 その重圧に耐えられなくなり、レベッカは部屋から脱出する。

 その瞬間、部屋が爆発した。

「絶対に殺してやる!!」

 そんな、憎悪に溢れた声を背中に受けながら、レベッカは走り続けた。
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