家族に疎まれて、醜穢令嬢として名を馳せましたが、信用出来る執事がいるので大丈夫です

3章 逆境は真実へと至る最初の道筋である。

悲しみを表現する雨

　走る走る。
　レベッカは、屋敷を出てから宛もなく走り続けている。

「はぁ、はぁ………」

　だけども、体力も無尽蔵では無い。
　レベッカの走力も、馬ほど速い訳では無い。
　だけど、逃げなくてはいけない。
　何故ならば………

「なんで、なんだろう」

　そこで、レベッカは足を止めた。

「なんで、逃げてるんだろう………」

　逃げても無駄だとわかっているのに。
　いや、そもそも

「私が、生きる意味って、なんだろう………」

　生きる意味。そこにまで疑問を持ち始めたレベッカは、空を見上げる。
　青い空が見えると思いきや、空は木々で覆われていた。

「………」

　木々をボンヤリと眺めながら思い出す。

（そうか、私。森に逃げたんだ………）

　アイトに、奥まで行くと危険だと教えてもらいながら来た森。
　空を見上げているレベッカの頬が濡れた。

「雨………」

　急に降り出した雨に不快感を感じながら、辺りを見渡す。
　少し探すと、雨宿りができそうな洞窟を見つけた。

「一先ず………」

　隠れるために。雨宿りをするためにレベッカは洞窟の中に入った。
　ザアザアと降り続ける雨を見ながらボンヤリと考える。

「なんでなんだろう………」

　昨日までは確かに楽しかったのだ。それが一瞬にして壊された。

「アイト………」

　レベッカが失ってしまった存在だ。

「アイト、アイト、アイトォ………」

　その名を呼びながらレベッカは静かに涙を流す。

「ダメ、私に………」

　泣く資格なんて無い。
　そう思っても、レベッカの両目からは涙が溢れ出してくる。

「うぅ………」

　今のレベッカを慰めてくれる人なんて、ここにはいない。

「うわぁぁぁぁぁん」

　レベッカは、雨が降り注ぐ森の中にある洞窟で大声で泣き始めた。

　ステラが死んだ日も、あの時もレベッカは泣いていた。
　だけど、あの時のレベッカにはアイトが傍にいてくれた。でも、今回はそんな人は居ない。
　レベッカの近くから失われてしまった。

「また会いたいよ！声を聞きたいよ！ギュッて抱きしめてほしいよォ！」

　どれだけ欲望を叫んでも、願望を叫んでもアイトは帰ってくることはもう無い。

「うわぁぁぁぁぁん」

　降り注ぐ雨の中、少女の泣き声だけが、虚しく響くだけだった。