御庭番君弐号

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二千二十七年四月。
春風に乗って桜の花びらの舞う季節。ご主人様の屋敷の中から弐号の記憶はスタートしました。
当時この地域は今のように高級住宅が並んでおらず、ごくごく普通の庶民的な街並みをしていました。防犯への意識も低く、まだ御庭番君のような存在は普及しておりませんでした。もちろん高価なものなので、それを所有しているご主人様は所謂お金持ちの部類に入っていました。
 弐号はご主人様がなんの仕事をしているのか詳しく知りません。スーツ姿で車に乗って出掛けて、夕方に帰ることもあれば次の日の夜にクタクタになって帰ってくることもあります。
 奥様も仕事をしているようで、ご主人様を弐号と見送った後、朝食の片づけを急いでし、お化粧をして八時半には家を出ます。そして夕方の五時過ぎに帰ってきます。奥様は弐号に関心があまりないようで、家に二人きりでも弐号と会話などせず、ひたすら家事と趣味の読書をしていましたが、ご主人様は忙しい中でもメンテナンスをしてくれたり、話しかけてくれたりします。
 弐号はそんなご主人様が好きでした。家の警備をすることが仕事とはいえ、ご主人様を想って、身を捧げる気持ちでこの家を守ってきました。しかし、ひと月が経っても、この家を脅かす者は現れません。来るのは新聞配達のお兄さんと郵便屋さんと宅配業の人だけ。弐号は暇を持て余していました。地面を見ては蟻を追い、空を見ては流れる雲の行く末を見ていました。
 そんな中の事です。その日は鉄格子の門扉の向こうを歩いていく人を数えていました。すると、他の猫よりも一回り大きく片耳が欠けた、修羅場を何度も潜り抜けてきたような凄みのある眼光をした猫が近づいて来ました。
 野良猫のブウです。奥様の大事にしている花壇を駆け回ったりフンをそこらに撒き散らしたり、ご主人様の愛車の上で遊んだりして悪戯をする猫がいると聞かされていました。どういうわけか今まで一度も目撃したことはなかったのですがとうとう弐号の前に現れたのです。「猫なんて簡単に追っ払ってやる」と思っていた弐号でしたがブウの雰囲気に臆してしまい、うまく動けません。弐号がもじもじしている間にブウは塀を飛び越え敷地に侵入してしまいました。
 それからというもの、ブウはいつも弐号には手出しのできない塀の上に現れ軽やかにジャンプして庭に降りると、堂々と物色するように練り歩き、まるで自分の特等席のように花壇の中に座りに来ます。このままではダメだ。そう思い弐号は勇気を出し立ち向かいましたが何度も何度も失敗しました。顔を引っかかれたり、すばしっこく動いて目を回されたり、まるで遊ばれているようです。
 そんな弐号に奥様は冷たかったのですが、ご主人様は優しく微笑んで見守ってくれていました。
 ある日、今日こそはと力を込めて、弐号唯一の武器である催涙スプレーを振り撒きました。するとブウは、スプレーが効いたのか弐号の気迫に負けたのかわかりませんが逃げ帰りました。初めてうまくいった大仕事です。
 このことをご主人様に報告すると、よくやったぞ、すごいじゃないかと満面の笑みで答えてくれました。そしてツルツル頭を撫でてくれました。  

 あの時が一番幸せだったなあ、と弐号は少し笑いました。しかしすぐにまた悲しみがやってきました。ご主人様は本当に新しい御庭番を買ってしまうのだろうか。僕がもっと強ければいいのにと嘆きました。
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