甘い夜にわたしを食べないで

志藤みかづき

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第4夜

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 朝のホームルームが終わり、一限目までの短い休憩にて。


「君が黒崎黎夜なんですね。迷惑かけるけどよろしくね」


 黎夜の後ろの席に座った聖はさっと無駄の少ない動きで立ち上がり、机に伏せっていた黎夜に声を掛けて改めて挨拶をする。


「……ふつうに、断る」


 黎夜はフードのすそから琥珀色の混じった黒目をちらりと見せ、聖に対して素っ気なくする。
 緑川に話を振られた段階で嫌そうだったが、もはや聖に対して関心を失っているように見えた。
 低い声で短く断ると、またフードを被り直し、聖のいない方向に顔を向けるようにして眠ってしまう。


「すごい塩対応だね。色々と転校してきたけど、こんなすげなくされるのは初めてだよ」


 長めのさらさらとした金髪をいじり、聖は肩を竦める。


「―――宝条さんは黒崎君のいとこなんだっけ」


 それから聖がふっと顔を上げる。
 意思の強そうな真っ青な瞳に、射貫かれる。


「……っ」


 はっとして目を逸らしたが遅かった。

 聖は黎夜の反対側の席にいる緋香梨のほうに移動してきた。
 わざわざ膝を折り曲げて、しゃがんで。
 緋香梨の机の上に手を置き、その上に顎を乗せて青い瞳で上目遣いに見つめて。


「君にも迷惑かけて、いいかな?」


 海外映画に出てきそうな顔をぐっと至近距離まで緋香梨に近づけて、一般的な男子高校生には出さないような甘ったるい声で囁いた。


「「「キャーーーーー」」」


 聖のパーソナルスペースの取り方に、やり取りを注目していたクラスメイトの女子たちが悲鳴をあげる。


「ちっ」
「なんだあれ」
「イケメン死ね」


 男子たちは悪態をついて、呪詛を吐く。


 聖とのやり取りを盗み聞きしていたクラスメイトたちの反応に緋香梨は小さく笑う。


「やっぱりこうなるんだ。いいよ、この世に黎夜以上に手のかかる男子高生がいると思えないし」


 近づけられた聖の顔から逃れるように、緋香梨は小柄な体をすっと後ろに反らしてから緋香梨は顔色ひとつ変えずに頷く。
 
 見慣れぬ美形に女子が騒ぐのも分かる。
 だが緋香梨にしてみれば、無気力で緋香梨のことにしか興味を持たないような黎夜だって、聖に負けず劣らずの整った容姿をしていると思うのだった。
 といっても聖が光なら、黎夜が闇と例えてもいいくらい、正反対の雰囲気ではある。


「これで不安はなくなった?それじゃ、わたし授業始まる前にトイレに行っておきたいから」


 美形にある程度の免疫を持つ緋香梨は全く物怖じせず、それどころかむしろ煩わしそうに聖の申し出を受けると、授業前にと席を立ってさっさとトイレに行ってしまう。


「ひーちゃん、待って。俺もトイレ」


「うん、黎夜は隣の男子トイレにね」


 微かな寝息を立てていたはずの黎夜が、俊敏に立ち上がり、トイレに立って緋香梨の後をついて行く。


「クールだね。にしても。
―――そんなにあの女子生徒に執心するか、黒崎黎夜」


 結果、黎夜と緋香梨に全く興味を持たれなかった聖は、その場に取り残される。

  転校生としての物珍しさにクラスメイトたちは浮かれていて、悲鳴を上げていた女子たちが声をかけたそうに固まっている。短い休憩時間とはいえを話せるチャンスを逃したくないのか、もじもじして互いに背中を押し合っている。


「またあとで、ね?」


 そんな女子たちにふわっとした愛想笑いを向け、聖は時計を指で示す。
 長針は授業開始まで残り3分だと示していた。
 3分では雑談どころか満足に自己紹介も出来ないと判断した女子たちは、聖の笑みに頬を赤く染めながら素直に頷いて各自席に戻っていった。


 女子たちのお喋りを牽制した聖も大人しく席に着く。


 真新しい教科書を鞄から取り出し、筆箱からシャープペンシルを取り出し、考え混むようにくるくるとペン回しをする。


「黒崎黎夜のいとこの宝条緋香梨、か。いとこねえ」


 ふと顔を廊下のほうに向ければ、開け放たれた教室の窓の向こうを緋香梨と黎夜が肩を並べて歩いている。黎夜が何かを言ったのか、緋香梨の口元が緩む。次の瞬間、人目を憚らずに黎夜が背中を曲げて緋香梨の頭に頬を寄せる。緋香梨はすぐフードを掴んで、引き剥がし、やめなさいと叱る。


 そんなふたりのやり取りを聖はじっと見つめて。


「女のほうから攻めてみるかな?」


 呟き、回していたペンを止める。
 ペンを机に転がし、ネックレスに手を伸ばす。


「御しやすい階級なら、僕の仕事もすぐ終わって楽でいいのだけど」


 聖は首から下げた十字架を握り締め、青い目を光らせた。
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