甘い夜にわたしを食べないで

志藤みかづき

文字の大きさ
7 / 14

第6夜

しおりを挟む
 スケルトンの魔人種の男性がその性質を利用して女風呂に侵入して捕まり、銀と金の十字架がクロスした黒いローブを着た魔人種共存推進機関MCPOの人間に識別のため特別なインクで肌に数字を書かれたり。


 夜の公園を火の玉があちこち飛び回り、木に触れて軽いぼやが起きて消防が出動したり。
 魔を抑えきれなくなった淫魔の魔人種が路上で行為に及んで捕まったり。
 子どものゴーストの魔人種が夜に家から抜け出して浮遊しているのを補導されたり。


 だんだんと世間が魔人種で騒がしくなってきた。




「星宮君て本当にMCPOの人間なんだね。ハロウィンが近くなったら、ほとんど学校に来なくなったね」


 今日の授業がすべて終わり、緑川のホームルームも終わって、放課後を告げる鐘が鳴る。
 緋香梨は頬杖をついて、今週に入って欠席と早退を繰り返す聖の席を見つめる。
 隣の席のよしみで授業のノートを取って、登校した時に聖に見せていたが、最近ではやんわり断られる。十字高校にいる期間は短期で、追っている事件が解決すればまた転校するのでこれ以上ノートは不要とのことだった。


「来なくて、いい……。やっとひーちゃんにつきまとわなくなった」


「そうだけど。代わりに、黎夜やたらと餌付けされてない?お肉ばっかり」


「生ものは、いらない……」


 タイミングが合えばお昼を三人で一緒に摂るのだが、そのとき聖のタッパーにはたいてい生のお肉が入っていた。

 レバ刺しとか、レバ刺しとか、レバ刺しとか。

 草食の黎夜は聖から差し出されるタッパーをもう見ることもせず、フードを深くかぶって、緋香梨の背に隠れるようにして野菜を丸かじりするのが常だった。


「あ、もうすぐ4時半だよ。黎夜、美化委員の集まりじゃない?」


 時計を見て、自分の背中を椅子ごと抱きしめている黎夜の腕を叩いて急かす。

 今日は黎夜が所属する美化委員の月に一度の集まりの日だ。

 スーパーのタイムセールと重なっているので、頭数が減るのは痛いが、黎夜を置いて、緋香梨はひとりで下校する予定だった。


「……面倒。行きたくない。ひーちゃんが心配。……朝も後ろのうるさい女子たちが、このへん危ないって言ってた」


「若い女の人が襲われたっていう話だっけ。大丈夫よ。夜に出歩いてって話だし、スーパーで買ったらすぐ帰るから」


 近頃、夜道を歩く若い女性が襲われて、倒れているのが朝に発見されるらしい。
 発見された彼女たちのほとんどに目立った外傷はなく、襲われた記憶もないらしい。金品が盗られた気配もないため、悪戯好きの魔人種の仕業じゃないのかというのが楽観的なこの街の人間の意見だった。


 心配する黎夜に買う物買ったらすぐ帰るからと約束して、タイムセールに間に合うように、緋香梨は準備をしてサッと下校する。


「おや、珍しいこともあるもんです。宝条さんひとりで帰宅ですか?」


 途中、白衣を着てぼーっと下駄箱に立っている担任の緑川に遭遇する。
 自然と緋香梨の隣に視線を走らせ、いつも一緒にいる黎夜の姿が見えないことに首を傾げる。


「忘れちゃったんですか、先生。黎夜は美化委員なんで、その集まりに行ってるんですよ」


「ああ、そうでしたね。忘れていました。
黒崎君と一緒にいない宝条さんを見るのが新鮮で、先生うっかりしてました」


「わたし黎夜とはそんなにいつも一緒にいるわけじゃないですよ?
今月のわたしの誕生日は、ちさちゃんとふたりで買い物する予定だし」


「そうなんですか?それは、とても良いことですね。
黒崎君の監視は先生から見ても厳しいなと思ってましたから」


「そうですか……?でも、慣れたら大したことないですし。
黎夜は基本優しいから、買い物袋も積極的に持ってくれて助かることもあるんですよ?
それじゃ、先生。タイムセールに間に合わなくなるので、おつかれさまです」


「はい、おつかれさま」


 グリーンの瞳を優しく細めて、緑川は緋香梨にひらひらと手を振る。


 玄関から小走りで校門まで向かう緋香梨の後ろ姿をしばらく眺め、眼鏡のブリッジを押し上げて、白衣を翻してその場を後にした。




 黒崎家のエンゲル係数は高い。
 冬でも大量の野菜を食べる黎夜のせいで食費が嵩むのだ。
 緋香梨はスーパーに着くとここぞとばかりに安売りのキャベツや白菜といった葉物を買い占め、自分用のおかずも買う。
 エコバッグにはち切れんばかりにたくさんに買ってしまい、学校から直帰したせいで教科書の入ったリュックの重さと合わさって、ふらふらしながら帰宅の途についていると。


「――――宝条さん?」


「あ、星宮君。うわぁ、MCPOの服だ」


 都会の洗練された発音で話しかけられる。
 振り向けば、見知った同級生が、物珍しい服装で立っていた。


「まあね。……”うわぁ”てどういうリアクション?荷物重そうだね、持つよ」


「いいのに。でもありがとう」


「いえいえ、レディには当然だから。聞いるよね、この辺で女性の一人歩きは危ない。家まで送るよ」


 メディアでよく見かける金と銀の十字架の刺繍が印象的な黒のローブを身にまとった聖が立っていて、緋香梨のエコバッグを流れるような仕草で持ってくれた。
 襟元から見えるのは制服のシャツで、聞けば今朝早退してローブを羽織っただけでそのままMCPOとして活動していたらしい。


「守秘義務があるからあまり言ってはダメなんだけど。宝条さんには言ってもいいかな」


 肩を並べて歩くも、たいして会話は弾まず。
 最近は落ち着いたとはいえ聖にはうんざりしていたので、緋香梨からもほとんど話題を振らなかった。
 とりとめのない話に相づちを打っていると、隣を歩いていた聖が不意に足を止める。


「聖君?」


 夕日に反射して、聖の少し長い金髪がきらきらと光り輝く。


「女性ばかりが狙われている事件だけど、近頃は10代の―――もっと言うと、女子高生が狙われてるんだ」


 逆光で、聖の表情がよく見えない。


「ちょうど君くらいの背丈で、君みたいに髪をひとつに結んだ女子高生ばかり。
ねえ、君の周りに危ないヤツはいない?」


 真っ青な瞳も暗く陰り、その瞳にどんな感情を浮かべているのかも定かではなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

私は5歳で4人の許嫁になりました【完結】

Lynx🐈‍⬛
恋愛
 ナターシャは公爵家の令嬢として産まれ、5歳の誕生日に、顔も名前も知らない、爵位も不明な男の許嫁にさせられた。  それからというものの、公爵令嬢として恥ずかしくないように育てられる。  14歳になった頃、お行儀見習いと称し、王宮に上がる事になったナターシャは、そこで4人の皇子と出会う。 皇太子リュカリオン【リュカ】、第二皇子トーマス、第三皇子タイタス、第四皇子コリン。 この4人の誰かと結婚をする事になったナターシャは誰と結婚するのか………。 ※Hシーンは終盤しかありません。 ※この話は4部作で予定しています。 【私が欲しいのはこの皇子】 【誰が叔父様の側室になんてなるもんか!】 【放浪の花嫁】 本編は99話迄です。 番外編1話アリ。 ※全ての話を公開後、【私を奪いに来るんじゃない!】を一気公開する予定です。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

幼馴染の勇者に「魔王を倒して帰ってきたら何でもしてあげる」と言った結果

景華
恋愛
平和な村で毎日を過ごす村娘ステラ。 ある日ステラの長年の想い人である幼馴染であるリードが勇者として選ばれ、聖女、女剣士、女魔術師と共に魔王討伐に向かうことになる。 「俺……ステラと離れたくない」 そんなリードに、ステラは思わずこう告げる。 「そうだ‼ リードが帰ってきたら、私がリードのお願い、一つだけなんでも叶えてあげる‼」 そんなとっさにステラから飛び出た約束を胸に、リードは村を旅立つ。 それから半年、毎日リードの無事を祈り続けるステラのもとに、リードの史上最速での魔王城攻略の知らせが届く。 勇者一行はこれからたくさんの祝勝パーティに参加した後、故郷に凱旋するというが、それと同時に、パーティメンバーである聖女と女剣士、そして女魔術師の話も耳にすることになる。 戦いの昂りを鎮める役割も担うという三人は、戦いの後全員が重婚の認められた勇者の嫁になるということを知ったステラは思いを諦めようとするが、突然現れたリードは彼女に『ステラの身体《約束のお願い》』を迫って来て──? 誰がどう見ても両片思いな二人がお願いをきっかけに結ばれるまで──。

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

身を引いたのに、皇帝からの溺愛が止まりません ~秘された珠の還る場所~

ささゆき細雪
恋愛
五年前、内乱の混乱のなかで姿を消した最愛の妃・白瑤華(はくようか)。 彼女を失った皇帝・景玄耀(けいげんよう)は、その後ただ一人を想い続けながら執務に追われていた。そんなある日、書類に彼女の名前を発見し、居ても立っても居られなくなる。 ――死んだはずの彼女が、生きている? 同姓同名かもしれないが確かめずにいられなくなった彼は地方巡察を決行。そこで、彼によく似た幼子とともに彼女と再会、地方官吏として働く瑤華と、珠児(しゅじ)を見て、皇帝は決意する――もう二度と、逃がさないと。 「今さら、逃げ道があると思うなよ」 瑤華を玄耀は責めずに、待ちの姿勢で包み込み、囲い込んでいく。 秘された皇子と、選び直した愛。 三人で食卓を囲む幸福が、国をも動かすことになるなんて――?    * * * 後宮から逃げ出して身を引いたのに、皇帝の溺愛は止まらない――これはそんな、中華風異世界ロマンス。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...