甘い夜にわたしを食べないで

志藤みかづき

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第11夜

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 現代において、人類は大きくふたつに分けられる。


 ―――というのは、あくまで、、でしかない。



 空想上の生き物のうち純人種の姿を取れるものが魔人種。

 魔人種はそれぞれ己と同種の下位の存在を操ることが知られていて、それらは魔人種とは呼ばれない。



 対して、純人種。
 いわゆるただの人間である純人種は、ふたつに分けられる。


 <黄金血>か、そうでないか。


 現代における人類のとして分類される。


 純人種同士から生まれる突然変異。


 世界中で公表されている<黄金血>の数は両手で足りるかどうか。


 その名の通り、<黄金血>の血は大輪の薔薇の如く芳醇な香りを放ち、血を好む魔人種を惹きつける。血に興味すらない魔人種ですら酩酊するかの如く魅了され、理性を妖しく乱す。
 味は極上。効能も極上。
 一滴を舌先に乗せるだけで現在・過去とあらゆる傷が癒え、摂取する量に比例して魔人種としての力が一時的にパワーアップし。
 その肉を喰らえばすべてが満たされた心地になり、万能感とともに現在の自分の力が限界まで上昇し。
 血と肉を生み出し、生かす心臓を口にすれば、魔人種の階位が上がる。広く知られてはいないが、魔人種は各のポテンシャルに応じて最上級、上級、中級、下級に分類されている。下級の魔人種が<黄金血>の心臓を運良く口に出来たならば、上級まで階位が駆け上がる可能性が限りなく高いと言われている。


 公にはされていないが、MCPOの保持する非公開の記録では、とある幻想の存在が<黄金血>をまるごと喰らったことにより、世界中に魔人種が現れたとされている。


 <黄金血>は魔人種にとって垂涎の的であるためまともに生きていることのほうが難しい。
 非公式の活動として魔人種共存推進機関MCPOは魔人種から<黄金血>を保護する活動も行っている。
 運良くMCPOに保護されたならば、最低限の純人種として生きることは保証される。
 しかしたいていの<黄金血>は、生きたままその血と肉を搾り取られ、最後に心臓を喰われて殺されるか。生を受けた瞬間に周囲に魔人種が一人でもいれば、容易く理性を失い、喰われる。


 日本では十数年前―――から、海外に遅れをとる形で魔人種が爆発的に増えたと言われていたが………。



(何が黒崎黎夜と仲間だ!宝条さんは魔人種よりももっとレアな<黄金血>…!)



 MCPOから与えられた銀の精霊・アルギュロスを使役するための十字架を、実は魔人種でヴァンパイアだった担任の緑川に武装解除された。聖は情けなくもアルギュロスだった水銀の上に両手をつく。


 魔人種を断罪するよりも優先される任務が、<黄金血>の保護だった。
 その希少性、そして純人種にとっての脅威である魔人種の階位を容易く押し上げてしまう危険性。
 通報があれば、MCPOの人間数名でチームを組んであたるほどの任務だった。


 聖は己の判断の甘さを悔いる。
 みらい総合病院惨殺事件及び一連の女性が襲われる事件は、せいぜいが中級の魔人種の仕業だろうというのが聖とMCPOの見方だった。どんな種類であれ、中級までなら聖とアルギュロスならば問題ないはずだった。
 そして現場に転校し、聖が捜査上の犯人として目星をつけたのが黒崎黎夜だった。無気力で、宝条緋香梨に執着していて。明らかに血のつながりがないのに家族ごっこをしているふたりに、二人組の魔人種としてつるんでいるのだろうと思った。
 それが、外れた。外れたというのも生温い。致命的なミスだった。


 魔人種の緑川と対峙した感覚と経験から、その階位を中級と聖は判じる。


 その腕に抱かれた裸の同級生―――<黄金血>宝条緋香梨の血を一舐めしただけで、爆発的に緑川の力が高まり、アルギュロスが再起不能となった。


(なら、その血を完全に取り込み、あまつさえ心臓を喰らわれたら……っ。クソ、すまない、宝条さん……!)


 苦渋の決断だった。
 アルギュロスという武器を失った聖に戦う術はない。
 聖は動くわけにいかない。緋香梨が存在する以上、無駄に血を流すわけにはいかない。
 緑川が緋香梨に気を取られる隙をついて、弾き飛ばされた十字架を手にアルギュロスを再度使役するしかない。


 だから、聖は、その心臓さえ守られればと、緋香梨の生を見捨てた。



「星宮君、これで終わりですか?MCPOの犬らしい見事な負け犬っぷりですねえ。
それでは星宮君、君はそこの特等席で、ボクの階位が上がる瞬間を間近で観賞していてくださいよ。
君は特別に生きてお家に帰してあげますから、MCPOに帰ってカノジョに報告してください、ボクの素晴らしい姿を」


 それではいただきますとお行儀良く口にし、緑川は大きく口を開け、今度こそ緋香梨の首筋に牙を突き立てようとし。


「……血を吸うのに、このチョーカー邪魔ですね。教師のフリをしていたときも思い出しましたが、アクセサリーは校則違反ですよ?」


 緑川はふと今気づいたかのように動きを止める。
 チョーカーと肌の隙間に細い指を差し込み、ぶんっと勢いよく手前に引っ張て引きちぎる。


「これは」


 黒のチョーカーを取り払い、緋香梨の首筋から出てきたものに緑川のグリーンの瞳が大きく見開かれる。


 チョーカーの下には、文字が隠されていた。
 もちろん日本語ではない。アルファベットではない。
 ペルシア語と梵字を混ぜたような奇妙な文字。


 遠目から見ていた聖には文字のようなものとしか思えなかった。
 チョーカーを奪い取られた緋香梨は身動きが取れないので何があるのかもわからず。


 魔人種である緑川は、文字を見た瞬間に意味を理解した。



「あー……あ。
乱暴な、魔人種やつ
少しは、役に立つかと、思ったのに……結局は、無能な純人種だった、精霊使い。
お前がいなければ、その階位の、ヴァンパイアなんて、俺だけで、どうにかできたのに。
―――ひーちゃんが死ぬまで、ずっと、俺は『』だけのままでいたかったのにな」



 がたがたがたと音を立て、棚から落ちてきた薬品に押しつぶされ気絶していた黎夜がふらりと立ち上がる。


 緑川が緋香梨の血を吸うことも忘れ、警戒態勢を取る。
 黒炎の壁が四散し、燃え盛る炎の球となって浮遊する。



「ひーちゃん。俺が、どんな、存在だったとしても……嫌いにならないで……ね……」



 黎夜は力なく呟き、琥珀色の瞳を長く閉じて―――つぎにを開いた。
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