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【39】兵器
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「《勇者》を人間として見てないのに、人間のように扱おうとするから話が長くなるんだよ」
《賢者》が皮肉っぽく言い、代表者たちを見回した。
円卓の空気が、わずかに揺らぐ。
「民衆にとっては、勇者は希望と力の象徴で良いが、貴方がたは、駒として見るべきだ。上手く采配するだけでいい。敬意を欠くとか、そういう話じゃない。それは――魔王も、神もだ」
神聖国の周辺がざわつく。勇者と魔王と神を同列においたのだ。声を上げようとする者を、聖務卿シグルドが無言で制した。
「あの」
静かな会議場で、ヴェルゼが小さく片手を挙げた。
「人間には知られていないでしょう、魔族領――ガイアデイラの情報を、開示します」
各陣営がざわめいた。どの国にとっても、魔族領は“恐怖と曖昧さ”で成立している前提だったからだ。
「《魔公》とは、魔王ヴァルナオグの後継の中で、力の強い二十四の皇子より選定され、それぞれに居住区と部下を持ちます。魔公は魔族領を統治するための存在ではありません。世界のひずみより絶えず噴き出る瘴気を、一部肩代わりするためです。そうすることで、ヴァルナオグは在位期間を飛躍的に延ばしました」
初めて開示される、魔族側のシステムだった。
「半数に減った魔公が動けば、人間界の瘴気はより濃くなるでしょう。ジルディウス様がいま動かぬことこそ、友好の証と受け取っていただきたいのです」
「魔王ヴァルナオグ……倒さぬことも出来ず、倒してもこれか……」
誰かがため息と共に呟いた。
戦争は終わっても、勝利の実感が無い。
「瘴気に侵された末期の魔王は、異常なまでの凶暴性を持ちます。ヴァルナオグは在位四百年以上――その終末期の被害は、我々の想定より少ないものでした」
「少ないだと」
どこかの国が、また気色ばんだが、ヴェルゼは冷静に頷いた。
「はい。ヴァルナオグは歴代と比較しても、強大な魔王でした。魔族領ごと東の大陸を滅ぼしても、不思議ではなかった。だが、《勇者》アレックス・ディアの強さも、歴代以上だった……」
会議場の温度が、明らかに下がった。敬愛すべき《勇者》が、恐るべき《魔王》を上回る強さだと、魔族の口から告げられたことに。
「……ご理解いただきたいことは……私たちは、一枚岩ではないのです。ヴァルナオグを恐れる者、敬愛する者、打倒したいと思っていた者――魔族も様々でした。そして今は一様に――勇者の力を恐れています」
恐怖の伝播は早い。それは魔族たちも変わりない。
「勇者が怖い……だから、魔族は勇者には手出ししません。けれど、その周りを揺さぶろうという動きは、一部の魔公にあります。新たな魔王を目指す者もいれば、勇者に魔王となってほしい魔公もいるでしょう」
「魔王が世界を守る“装置”なら、勇者は“兵器”だ。その兵器は、神の愛で作られた」
エルドヴァルドが、ヒューに目線を向ける。
腹の奥が妙にざわめいた。
「この世でもっとも、神の祝福が無い君が、覚悟を決めてその指輪を嵌めたなら、神からも魔族からも、逃げきってごらん」
王城の裏庭で、リオネルは丸洗いされる飛竜のワーテイルを眺めていた。
竜慣れしていない馬丁やメイドたちが、四苦八苦しながらブラシや布で鱗を磨いてくれている。
「慣れると可愛いですねえ」
「いやあ、英雄様の竜に触れられるなんて、光栄です」
「息子に話したら喜びますよ」
案外好評のようで、他にも洗える竜なら洗いますよ、と申し出てもらった。
「うーん、ニンフィリアは出すと庭がびしゃびしゃになるし、アグライアは火竜だから、水洗い嫌がるし……他は……」
「水竜様は、湖で洗ってみましょうか?」
「火竜は、このへんじゃ中々見れないねえ」
和気藹々とした雰囲気で、使用人たちが盛り上がっている。
竜はいつでも人気の生物だ。大人しい限りは。
リオネルはぼんやりとそれを眺めながら、退屈げに呟いた。
「ガインが会議出たの意外過ぎる……どうせ寝てるか、要らないこと言ってんのかな」
ガインでもいれば街に遊びに行ったが、一人であまりうろつくなとヒューに釘を刺されている。
会議はだいぶ長くなるよ、とエルドが言っていた。世界のその後を話すのだから、まあ長くはなるだろう。
「また旅したいな~……」
気持ち良さそうに水浴びをしているワーテイルを預け、リオネルはぶらぶらと裏庭を歩いた。
ヒューは、どうしちゃったんだろう。アレクとは遺跡で一回会ったと言ってたが、仲直りした様子なんてなかった。でも、ヒューは指輪をしていた。
「アレクのこと、もう怒ってないのかな?」
アレクも、ずいぶん変わってしまった。前はもっと気さくで、話しやすくて、強いけどそれを鼻にかけない。よく稽古をつけてくれたが、加減はまったくで、ヒューやグレンに叱られていた。
リオネルがもっと幼かった頃、軽い稽古のつもりだったアレクが、腕を折ってしまったことがある。当然ヒューはアレクを怒ったが、今思えば過保護にされるより、ずっと良かった。
アレクは誰にでも対等だった。リオネルを子供扱いせず、セシィリアを女扱いしない。ズレてる、とよく言われていたが、もっと純粋だった。子供みたいなところがあって、リオネルがヒューにくっついていると、たまに本気の嫉妬を感じたほどだ。
勇者なのに、リオネルよりずっと子供みたいなときがある。
ヒューは北の故郷が苦手で、帰るつもりはなさそうだった。戦いが終わったら、気に入った土地で暮らすと言っていた。アレクはきっとヒューから離れたがらないだろうから、戦争が終わって、ヒューが病気にさえなっていなければ、二人はずっと一緒だったのかもしれない。
「ヒュー、会議なんか出て大丈夫かな……」
剪定された庭の花を、ぼうっと指でつまんでいたら、茎がぽきっと折れて落ちてしまった。
「あっ」
やっちゃった、とその花を拾い上げようとしたら、先に拾われた。
顔を上げて、リオネルは目を見開いた。
金髪碧眼で、整った顔の青年が、落ちた花を指でつまみ、じっと見つめている。
「えっ、うそ。なにしてんの。アレク?」
そこには《勇者》アレックスがいた。
陽炎のように張りついた光と気配に、リオネルは慄いた。絶対に、さっきまでそこにいなかったはずだ。
「式典に来たの? それとも会議?」
光槍は肌身離さず背負っている。
話しながらも、リオネルは後ずさった。
いつでも槍は抜ける。
「会議なら、今やってるよ! ヒューが……」
「うん。知ってる」
アレックスは千切れた花を植えこみの中に、無造作に戻した。不器用で、生き物の扱いに慣れていない手つき。
それから口許に指を当て、しー、と小声で言って笑った。
「ヒューには内緒。みんなにもね」
「え、なんで? ヒューに会わないの?」
「会いたいけど」
アレックスは双眸を細めた。
「お前に、頼みがあって」
「ボクに?」
「うん。リオネルにしか、頼めない」
「ボクのこと嫌いじゃなかったっけ?」
「嫌いじゃないよ。ちょっと邪魔なだけ。だってヒューは、リオネルのこと可愛いからね」
軽く言うが、情念がこもっている。リオネルは顔をしかめた。
「前に読んだ本でさ、面白い話を集めたやつで、その中に『究極の選択』ってあってさ」
「知ってる。子供が読むしょーもない謎かけとかの本」
「それ読んで、ヒューに質問したんだ。僕とリオネル、どっちかしか助けられなくて、助からなかったほうは死ぬとしたら、どっち助ける? って聞いたら、『どっちかしか』のあたりで『リオネル』って即答された。あれ、かなりショックだったなぁ」
「その質問でアレクって答えることなくない? 子供見捨てるヒュー、やなんだけど」
「そのヒューを理解してるかんじも、僕には鼻につくんだよね」
「ガキじゃん。いや何の話」
呆れながらも、リオネルは戸惑った。
よく知っているアレクだ。
でも“よく知っているアレク”は、もういなくなったのかと思っていた。
「ヒューに会っていけば? あのさ……」
癪だが、リオネルは告げた。
「ヒュー、指輪してたよ」
リオネルが左手の薬指を指さすと、アレックスは少し目を開いた。
「ボクはまだ、アレクのこと許してないけどさぁ……」
リオネルが見上げると、アレックスが頬を赤らめていた。
「え、ヒューが?」
「……うん。指輪、してた」
「そっか……なんでだろ? 最近、嫌われることしかしてないけど……」
口許を押さえ、なんでかなぁ、とそわそわと呟くアレックスに、リオネルは顔をしかめた。
「許してくれたのかな? だったら嬉しいな」
はにかむ顔は、まったく嘘だとは思えない。すごく、アレクらしい反応だ。
「いや、分かんない。会って聞いたら?」
「それは無理」
「なんで!?」
「ヒューのことはリオネルにお願いしたいんだ」
アレックスが近づき、リオネルは後ずさりかけたが、我慢した。このアレクは信用していいアレクなのか? とまだ疑っていたが、目の前に来るまで耐えた。アレックスは腰をかがめ、そっとリオネルの頭に手を置いた。
「いい子。――君に、《運命》の祝福はある?」
顔の横で微笑むアレックスに、リオネルは眉をひそめた。
「……は? 無い……」
つい先日受けた診断で、たしかにその神の名は無かった。
「僕は――《運命》を殺したい」
「は……? なに……」
囁かれた言葉の意味が掴めず、リオネルは固まった。
「色々探したんだけど、その手段は、ヒューの中にあるみたいでさ」
「なんでボクに……エルドなら強いし、色々知って……」
「あいつは駄目。――ね、世界とヒュー、リオネルならどちらを助ける?」
「……そ、そんなの、選べるわけないじゃん……」
「エルドは世界って言うよ。だから、君が一番信用出来る。利害が一致してる間は、頼りになるんだけどね。あいつは感情より、理で動くだろ? そういう奴って、手持ちの駒としては最強なんだけど、いざってときに命は賭けてくれない」
「こ、駒……?」
「うん。エルドとは、そういう関係。でも僕とリオネルは、一番好きな人は同じでしょ?」
アレックスはリオネルの手を取り、にこりと微笑んだ。
「《竜騎士》の君が、仲間で良かった。だってヒューの中にいるのは、一応は“竜”の属性を持っているからね」
リオネルの手の中に、アレックスは何かを握らせて、離した。手のひらを開くと、そこには転移の石があった。
「もっと強くなりたくなったら、それで跳んでごらん。最強の竜に会えるから。でも、命の覚悟はしてね。弱いと死ぬよ」
アレックスが立ち上がる。リオネルが手を伸ばしかける前に、彼の体が揺らめいた。転移魔法の揺らぎとも違う。踏み込んではいけない気がする。
「え、ちょっと、待って……!」
「そろそろ行くね。女神の目を盗んでるんだ」
「待ってよ! アレクは、魔族領にいるの!?」
「そうだね、ガイアデイラにもいるし、神の庭にもいる」
「神……?」
「ヒューには、秘密だよ」
その言葉だけ残し、アレックスは消えた。
風も音も残さず。
世界のほうが彼を、そっと切り離したように。
《賢者》が皮肉っぽく言い、代表者たちを見回した。
円卓の空気が、わずかに揺らぐ。
「民衆にとっては、勇者は希望と力の象徴で良いが、貴方がたは、駒として見るべきだ。上手く采配するだけでいい。敬意を欠くとか、そういう話じゃない。それは――魔王も、神もだ」
神聖国の周辺がざわつく。勇者と魔王と神を同列においたのだ。声を上げようとする者を、聖務卿シグルドが無言で制した。
「あの」
静かな会議場で、ヴェルゼが小さく片手を挙げた。
「人間には知られていないでしょう、魔族領――ガイアデイラの情報を、開示します」
各陣営がざわめいた。どの国にとっても、魔族領は“恐怖と曖昧さ”で成立している前提だったからだ。
「《魔公》とは、魔王ヴァルナオグの後継の中で、力の強い二十四の皇子より選定され、それぞれに居住区と部下を持ちます。魔公は魔族領を統治するための存在ではありません。世界のひずみより絶えず噴き出る瘴気を、一部肩代わりするためです。そうすることで、ヴァルナオグは在位期間を飛躍的に延ばしました」
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「半数に減った魔公が動けば、人間界の瘴気はより濃くなるでしょう。ジルディウス様がいま動かぬことこそ、友好の証と受け取っていただきたいのです」
「魔王ヴァルナオグ……倒さぬことも出来ず、倒してもこれか……」
誰かがため息と共に呟いた。
戦争は終わっても、勝利の実感が無い。
「瘴気に侵された末期の魔王は、異常なまでの凶暴性を持ちます。ヴァルナオグは在位四百年以上――その終末期の被害は、我々の想定より少ないものでした」
「少ないだと」
どこかの国が、また気色ばんだが、ヴェルゼは冷静に頷いた。
「はい。ヴァルナオグは歴代と比較しても、強大な魔王でした。魔族領ごと東の大陸を滅ぼしても、不思議ではなかった。だが、《勇者》アレックス・ディアの強さも、歴代以上だった……」
会議場の温度が、明らかに下がった。敬愛すべき《勇者》が、恐るべき《魔王》を上回る強さだと、魔族の口から告げられたことに。
「……ご理解いただきたいことは……私たちは、一枚岩ではないのです。ヴァルナオグを恐れる者、敬愛する者、打倒したいと思っていた者――魔族も様々でした。そして今は一様に――勇者の力を恐れています」
恐怖の伝播は早い。それは魔族たちも変わりない。
「勇者が怖い……だから、魔族は勇者には手出ししません。けれど、その周りを揺さぶろうという動きは、一部の魔公にあります。新たな魔王を目指す者もいれば、勇者に魔王となってほしい魔公もいるでしょう」
「魔王が世界を守る“装置”なら、勇者は“兵器”だ。その兵器は、神の愛で作られた」
エルドヴァルドが、ヒューに目線を向ける。
腹の奥が妙にざわめいた。
「この世でもっとも、神の祝福が無い君が、覚悟を決めてその指輪を嵌めたなら、神からも魔族からも、逃げきってごらん」
王城の裏庭で、リオネルは丸洗いされる飛竜のワーテイルを眺めていた。
竜慣れしていない馬丁やメイドたちが、四苦八苦しながらブラシや布で鱗を磨いてくれている。
「慣れると可愛いですねえ」
「いやあ、英雄様の竜に触れられるなんて、光栄です」
「息子に話したら喜びますよ」
案外好評のようで、他にも洗える竜なら洗いますよ、と申し出てもらった。
「うーん、ニンフィリアは出すと庭がびしゃびしゃになるし、アグライアは火竜だから、水洗い嫌がるし……他は……」
「水竜様は、湖で洗ってみましょうか?」
「火竜は、このへんじゃ中々見れないねえ」
和気藹々とした雰囲気で、使用人たちが盛り上がっている。
竜はいつでも人気の生物だ。大人しい限りは。
リオネルはぼんやりとそれを眺めながら、退屈げに呟いた。
「ガインが会議出たの意外過ぎる……どうせ寝てるか、要らないこと言ってんのかな」
ガインでもいれば街に遊びに行ったが、一人であまりうろつくなとヒューに釘を刺されている。
会議はだいぶ長くなるよ、とエルドが言っていた。世界のその後を話すのだから、まあ長くはなるだろう。
「また旅したいな~……」
気持ち良さそうに水浴びをしているワーテイルを預け、リオネルはぶらぶらと裏庭を歩いた。
ヒューは、どうしちゃったんだろう。アレクとは遺跡で一回会ったと言ってたが、仲直りした様子なんてなかった。でも、ヒューは指輪をしていた。
「アレクのこと、もう怒ってないのかな?」
アレクも、ずいぶん変わってしまった。前はもっと気さくで、話しやすくて、強いけどそれを鼻にかけない。よく稽古をつけてくれたが、加減はまったくで、ヒューやグレンに叱られていた。
リオネルがもっと幼かった頃、軽い稽古のつもりだったアレクが、腕を折ってしまったことがある。当然ヒューはアレクを怒ったが、今思えば過保護にされるより、ずっと良かった。
アレクは誰にでも対等だった。リオネルを子供扱いせず、セシィリアを女扱いしない。ズレてる、とよく言われていたが、もっと純粋だった。子供みたいなところがあって、リオネルがヒューにくっついていると、たまに本気の嫉妬を感じたほどだ。
勇者なのに、リオネルよりずっと子供みたいなときがある。
ヒューは北の故郷が苦手で、帰るつもりはなさそうだった。戦いが終わったら、気に入った土地で暮らすと言っていた。アレクはきっとヒューから離れたがらないだろうから、戦争が終わって、ヒューが病気にさえなっていなければ、二人はずっと一緒だったのかもしれない。
「ヒュー、会議なんか出て大丈夫かな……」
剪定された庭の花を、ぼうっと指でつまんでいたら、茎がぽきっと折れて落ちてしまった。
「あっ」
やっちゃった、とその花を拾い上げようとしたら、先に拾われた。
顔を上げて、リオネルは目を見開いた。
金髪碧眼で、整った顔の青年が、落ちた花を指でつまみ、じっと見つめている。
「えっ、うそ。なにしてんの。アレク?」
そこには《勇者》アレックスがいた。
陽炎のように張りついた光と気配に、リオネルは慄いた。絶対に、さっきまでそこにいなかったはずだ。
「式典に来たの? それとも会議?」
光槍は肌身離さず背負っている。
話しながらも、リオネルは後ずさった。
いつでも槍は抜ける。
「会議なら、今やってるよ! ヒューが……」
「うん。知ってる」
アレックスは千切れた花を植えこみの中に、無造作に戻した。不器用で、生き物の扱いに慣れていない手つき。
それから口許に指を当て、しー、と小声で言って笑った。
「ヒューには内緒。みんなにもね」
「え、なんで? ヒューに会わないの?」
「会いたいけど」
アレックスは双眸を細めた。
「お前に、頼みがあって」
「ボクに?」
「うん。リオネルにしか、頼めない」
「ボクのこと嫌いじゃなかったっけ?」
「嫌いじゃないよ。ちょっと邪魔なだけ。だってヒューは、リオネルのこと可愛いからね」
軽く言うが、情念がこもっている。リオネルは顔をしかめた。
「前に読んだ本でさ、面白い話を集めたやつで、その中に『究極の選択』ってあってさ」
「知ってる。子供が読むしょーもない謎かけとかの本」
「それ読んで、ヒューに質問したんだ。僕とリオネル、どっちかしか助けられなくて、助からなかったほうは死ぬとしたら、どっち助ける? って聞いたら、『どっちかしか』のあたりで『リオネル』って即答された。あれ、かなりショックだったなぁ」
「その質問でアレクって答えることなくない? 子供見捨てるヒュー、やなんだけど」
「そのヒューを理解してるかんじも、僕には鼻につくんだよね」
「ガキじゃん。いや何の話」
呆れながらも、リオネルは戸惑った。
よく知っているアレクだ。
でも“よく知っているアレク”は、もういなくなったのかと思っていた。
「ヒューに会っていけば? あのさ……」
癪だが、リオネルは告げた。
「ヒュー、指輪してたよ」
リオネルが左手の薬指を指さすと、アレックスは少し目を開いた。
「ボクはまだ、アレクのこと許してないけどさぁ……」
リオネルが見上げると、アレックスが頬を赤らめていた。
「え、ヒューが?」
「……うん。指輪、してた」
「そっか……なんでだろ? 最近、嫌われることしかしてないけど……」
口許を押さえ、なんでかなぁ、とそわそわと呟くアレックスに、リオネルは顔をしかめた。
「許してくれたのかな? だったら嬉しいな」
はにかむ顔は、まったく嘘だとは思えない。すごく、アレクらしい反応だ。
「いや、分かんない。会って聞いたら?」
「それは無理」
「なんで!?」
「ヒューのことはリオネルにお願いしたいんだ」
アレックスが近づき、リオネルは後ずさりかけたが、我慢した。このアレクは信用していいアレクなのか? とまだ疑っていたが、目の前に来るまで耐えた。アレックスは腰をかがめ、そっとリオネルの頭に手を置いた。
「いい子。――君に、《運命》の祝福はある?」
顔の横で微笑むアレックスに、リオネルは眉をひそめた。
「……は? 無い……」
つい先日受けた診断で、たしかにその神の名は無かった。
「僕は――《運命》を殺したい」
「は……? なに……」
囁かれた言葉の意味が掴めず、リオネルは固まった。
「色々探したんだけど、その手段は、ヒューの中にあるみたいでさ」
「なんでボクに……エルドなら強いし、色々知って……」
「あいつは駄目。――ね、世界とヒュー、リオネルならどちらを助ける?」
「……そ、そんなの、選べるわけないじゃん……」
「エルドは世界って言うよ。だから、君が一番信用出来る。利害が一致してる間は、頼りになるんだけどね。あいつは感情より、理で動くだろ? そういう奴って、手持ちの駒としては最強なんだけど、いざってときに命は賭けてくれない」
「こ、駒……?」
「うん。エルドとは、そういう関係。でも僕とリオネルは、一番好きな人は同じでしょ?」
アレックスはリオネルの手を取り、にこりと微笑んだ。
「《竜騎士》の君が、仲間で良かった。だってヒューの中にいるのは、一応は“竜”の属性を持っているからね」
リオネルの手の中に、アレックスは何かを握らせて、離した。手のひらを開くと、そこには転移の石があった。
「もっと強くなりたくなったら、それで跳んでごらん。最強の竜に会えるから。でも、命の覚悟はしてね。弱いと死ぬよ」
アレックスが立ち上がる。リオネルが手を伸ばしかける前に、彼の体が揺らめいた。転移魔法の揺らぎとも違う。踏み込んではいけない気がする。
「え、ちょっと、待って……!」
「そろそろ行くね。女神の目を盗んでるんだ」
「待ってよ! アレクは、魔族領にいるの!?」
「そうだね、ガイアデイラにもいるし、神の庭にもいる」
「神……?」
「ヒューには、秘密だよ」
その言葉だけ残し、アレックスは消えた。
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