ヒロインに転生しましたけど、私、王太子より悪役令嬢が好きなんです。

ねーさん

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「は?私がヒロインって嘘でしょ!?」
 ローゼは毛布を跳ね除けてガバッと起き上がった。
 キョロキョロと周りを見回す。
 見慣れた室内、見慣れた調度品、見慣れた毛布、見慣れた…
「…夢?」
 まだ夜は明けていないらしく、周りは暗い。月明かりが見慣れた窓の見慣れたカーテンの隙間から漏れている。
 ローゼはベッドから降りると、窓へ近付く。
 …まさかね。
 心臓がドキドキと鳴る。
 そっとカーテンを開けると、窓ガラスに写ったのは。

 ピンクのふわふわした髪にパッチリした眼の、見慣れた自分の顔。
「マジか」
 見慣れた…乙女ゲームのヒロインの顔だった。

「『ローゼ』って事は…『愛しの生徒会』の方か…」

 前世でよくプレイした乙ゲー『生徒会シリーズ』は、中世ヨーロッパのような王制、貴族社会、舞踏会、ドレス、などのヒストリカルな世界で繰り広げられる恋愛シミュレーションゲームで、似たようで少し違う登場人物で、似たようで少し違う世界をプレイするパラレルワールド的世界観のシリーズが三作リリースされていた。
「恋する生徒会」は乙ゲー初心者向けで主人公ヒロインはローズ。
「愛しの生徒会」は「恋する」より少し上級者向けで主人公はローゼ。
「溺愛生徒会」の主人公ロードは男子生徒で、攻略対象者が男女混合。お色気シーンあり、B Lありバージョンだ。

 確かに生まれ変わりたいと思ってた。攻略対象者たちを生で見てみたいな、とも思ってた。特にイチ推しのサイオンを。
 思ってたけど。さすがにそのゲームのヒロインに生まれ変わりたかった訳じゃない。
 私はただ、生まれ変わって普通に生きていきたかっただけで…

 ここでローゼは重大な事に気付く。
 
「待って!私がローゼって事はリリー様が悪役令嬢って事で…」
 と、言うことは…私、リリー様に嫌われるって事!?

 窓ガラスには驚愕するローゼの表情が写っていた。

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「どうしたの?ローゼ」
 リリー様…今日も麗しいわ…
 ローゼは紅茶のポットを持ったまま、主人となるリリーに見惚れている。
「…リリー様は今日も麗しいなと思いまして」
「ローゼ、毎日それ言うわね」
 ソファに座るリリーはにっこりと微笑む。
「毎日そう思うんですから仕方ないです」
 ああ、笑顔かわいい。綺麗。好き。

 リリー・マーシャルは公爵令嬢で十七歳。金色の緩くウェーブした髪にエメラルドの瞳のたおやかな美少女で、王太子サイオンの婚約者だ。
 ローゼ・エンジェルは十四歳。男爵家の娘だが、八歳の頃からマーシャル公爵家で行儀見習いとして働いている。リリー付きの侍女だ。
 ピンクの髪にブルーの瞳、乙ゲーのヒロインらしく背は小さくかわいらしい顔立ちだ。

「学園へ行きたくないって、どうして?」
 リリーが不思議そうにローゼを見る。
「公爵家から学園へ行かせてくださるのは嬉しいんですけど…あの…」
 学園へ行けば、生徒会のメンバーと出会って、王太子とも出会って、リリーに嫌われる。避けられるものなら避けたい!
「ベティも行ったのよ?」
 ベティは、リリー付きの筆頭侍女で、今十八歳。この春学園を卒業した伯爵令嬢で、ローゼと同じく行儀見習いとして十歳頃からリリーの側に仕えている。
「ベティ様は伯爵家の令嬢ですから。私はしがない男爵家出身で一生マーシャル公爵家にお勤めするつもりなので必要ないんじゃ…家庭教師の先生に教えて頂けるだけで充分じゃないのかと」
「あら、ローゼは結婚しないの?良い家に嫁ぐには学園へ行ってるか行ってないかは大きな差よ?」
「結婚…?」
 ローゼは目を大きく見開く。
 結婚。私が?
 親が居て、噂のある私が学歴が必要な「良い家」になんか嫁げる筈もないし、考えた事もないわ。
「結婚してもお相手のお家によってはお勤めを続ける事もできるかも知れないし、学園へ行って損はないわよ。ね、ローゼ」
 微笑んで小首を傾げるリリー。
 こんなかわいいリリー様に逆らえる訳がない…
 ローゼは渋々頷いた。

 学園は十五歳で入学し、四年間学び十八歳で卒業する。貴族の令息令嬢は十五歳までは家庭教師に学び学園へ入学するが、貴族でない者は家の都合により五歳から十歳には初等教育校へ入学し、数年間字や計算などを学び、成績優秀者やお金のある商家の子供などが十五歳で学園へと入学する。
 全寮制で、いかに高位の貴族でも侍女や侍女、メイドなどを伴う事はできない決まりだ。もちろん王族でも。

 学園は一学年が春期、秋期、冬期の三月期制で、春期と秋期の間に約二ヶ月の夏季休暇、秋期と冬期の間、冬期と春期の間にそれぞれ約二週間の休暇がある。

 リリーは今学園の三年生。来春から最終学年の四年生になる。
 ローゼは来春学園へ入学予定。

 そして、ローゼが学園へ入学した日にゲームはスタートするのだ。


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