ヒロインに転生しましたけど、私、王太子より悪役令嬢が好きなんです。

ねーさん

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「ロイズ殿下があからさまに落ち込んでおられるの、きっと貴女のせいよねぇ?ローゼ様?」
 ローゼの目の前で、扇で口元を隠し流し目でローゼを睨んでいる令嬢はロイズの婚約者のエリカサンドラ・クロフォード侯爵令嬢だ。
「…は…?」
 放課後、学園の校舎の屋上へ出る扉の前で、ローゼはエリカサンドラとその取り巻きたちに囲まれていた。
「何だか殿下は『ローゼを怖がらせてしまった』と言われてるらしいけれど、貴女みたいな図太い神経の方が何を怖がるのかしら?」
「…私には何も心当たりはありません」
 ああ、この間のお休みにリリー様に癒されておいて本当に良かった。HP回復したから耐えられるわよ。ね、ローゼ。
「何よその言い方!ロイズ殿下や他の生徒会の方々にちやほやされるからっていい気にならないで!」
 いい気になんてなってない。むしろ好かれたって嫌な気しかしないのに…
 ローゼは唇を噛んだ。
「殿下が私に舞踏会にドレスを贈ると言われないのも、貴女の差し金でしょう?」
「…ドレス?」
「とぼけないで。今まで殿下は舞踏会と卒業パーティーに私にドレスを贈ってくださっていたの。なのに今回はまだ何も言われないなんて…」
 エリカサンドラはキッとローゼを睨んだ。

 学園では、春期の終わりには夏季休暇に入る前の舞踏会があり、冬期の終わりには卒業パーティーがあるので、貴族の令息令嬢は社交を学び、貴族でない者も貴族社会との繋がりを作ろうと励む場となるのだ。
 舞踏会まであと一カ月、確かにドレスをオーダーするにはもう時期が遅い。
「貴女が殿下に今度から私にドレスを贈ってくださいだとか、私に意地悪するエリカ様にドレスなんて贈る事ないですとか言ってるんでしょう!?」
「私は何も…」
「嘘おっしゃい!」
 エリカサンドラは手に持っていた扇をローゼに投げ付ける。
「痛っ」
 骨の部分がローゼの頬に当たった。
「ロイズ殿下の婚約者は私なんだから!殿下が貴女に構うのはほんの気の迷いよ!くれぐれもいい気にならない事ね!」
 エリカサンドラは叫ぶ様にそう言うと、踵を返し階段を降りて行く。取り巻きも口々にローゼに文句を言いながらエリカサンドラに着いて階段を降りる。取り巻きの一人がローゼの足元に落ちた扇を拾って後に続いた。

「はあ…」
 完全に人気がなくなったのを確認してから、ローゼは息を吐きながら階段を降りる。
 あのゲームのヒロインに私みたいな過去があるなんて設定なかったんだけどなぁ。
 少しでも嫌がらせを減らすために誰かのルートに入ってしまった方が良いのかも。
 …でも誰の?
 生まれてこの方異性を好きになった事もないし、攻略対象者の誰を選んでもその婚約者たちの誰かを泣かせるんだし。
 それにゲームの力で私を好きになってるの、わかってるといくら好意を示されても虚しいし。

 階段を降りて、鞄を置いていた教室へ入ると、ローゼの机の上にある破れた教科書が目に入る。
「はは。またあ?」
 ローゼは苦笑いを浮かべる。
 口角の上がった口元が震えて、涙が落ちた。
「…もう、やだ」
 ローゼはその場にしゃがみ込んだ。

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「ローゼさん」
 しゃがみ込んで自分の膝に顔を埋めたローゼを呼ぶ声が後ろからする。イヴァンの声。
「…何ですか?」
「嫌がらせ、やめさせましょうか?」
「え?」
 ローゼは顔を上げて振り向く。
 イヴァンがニコニコしながら少し離れた所に立っていた。
「ローゼさんは真後ろ、特に至近距離から声を掛けられるの、苦手ですよね?」
「…あまり得意な人はいないと思いますけど?」
「ははは。確かにそうですね」
 イヴァンが近付いて来て、ローゼに手を差し出す。
「嫌がらせをやめさせるって、どうやってですか?」
 ローゼはイヴァンの手をじっと見つめる。
 この手を取って良いのだろうか。
「簡単ですよ」
「簡単?」
「私の…イヴァン・ニューマンのルートに入ってください」
 イヴァンはニッコリと笑って言った。


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