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「頬どうしたんですか?」
しゃがみ込んだまま目を丸くしてイヴァンを見上げるローゼの頬に、イヴァンがそっと触れる。
エリカサンドラから扇をぶつけられた時の傷がチリッと痛む。
「先生のルートに入れって…今…?」
「この言葉の意味がわかるんですね。コーネリアの話は本当だったのか…」
「コーネリア?」
コーネリア・バイロンはイヴァンの…
「私の恋人です」
ですよね。とローゼは思う。
「正しくは偽装恋人、ですかね」
ニコリと笑うイヴァン。
「え?偽装?」
「ええ。コーネリアは偽装恋人。ローゼさんを好きなのも本当ですが……私の本命はサイオンです」
…え。
「えええええ!?」
ローゼは思わず声を上げた。
-----
ローゼの前に紅茶のカップが置かれる。
「ありがとうございます」
「いいえ」
にこやかに微笑む女性はコーネリア・バイロン。二十三歳のロイズの侍女だ。
ここは王宮の中にある使用人棟のコーネリアの部屋。
小さなソファセットにローゼ、向かい側にイヴァンが座っていて、コーネリアがイヴァンの隣へ座った。
「端的に言えば、私は両刀使いなんですよね」
ニコニコしながら言うイヴァン。
つまり先生は…所謂バイで…異性も同性もイケると…
「コーネリアは十八で結婚した相手を二十一で亡くした未亡人なので、付き合っていても周りから結婚結婚と言われないのが良くて、偽装恋人になってもらっているんです」
「未亡人」
「旦那様は随分と歳上だったし、遺産も入ったし、働く必要はないんだけど、ほら私、前世の記憶があるじゃない?ここが『愛しの生徒会』の世界で自分が悪役令嬢の一人だと知ったら、特等席で舞台が見られるみたいで、何だかワクワクしちゃって」
コロコロと笑いながらコーネリアは言う。
「それで王宮の侍女になったら設定通りロイズ殿下付きになれて、イヴァン様に偽装交際を申し込まれたのよ」
「はあ…」
「だから私はゲームの成り行きを見守りたいだけで、イヴァン様を好きな訳じゃないから。イヴァン様も私を好きな訳じゃないし、断罪もされないから心配しないで。ただ怪しまれると思ってローゼさんに嫌がらせとかしちゃって…ごめんなさいね」
だからコーネリアの嫌がらせは鉛筆やペンなどを盗む、被害額が小さい物だったのか。
「私は前世では五十七歳まで生きたの。普通の主婦でね、子供も巣立っちゃって淋しくなって乙女ゲームにハマったのよ。ローゼさんは?」
「私は…」
言い淀むローゼ。
視線が泳いで、誤魔化すかのように口角を上げた。
「私、あんまり前世の事覚えてなくて…ただ、ゲームの事はまあまあ覚えてますけど」
「そうなのね。一口に生まれ変わりって言っても色々パターンがあるのねぇ。じゃあ前世でのこのゲームの推しは誰だったの?」
「推しですか?」
「ちなみに私はイヴァンよ。腹黒年上萌え」
ニコニコ笑って言うコーネリア。
「腹黒とは酷いですね」
苦笑いしながらイヴァンが言う。
「推しは…」
言い淀むローゼに、イヴァンが笑いながら
「サイオンでしょう?」
と言った。
「え…?」
「ローゼさんを見ていたらわかりますよ。今も」
「今?」
ニューマン先生、何を言ってるんだろ?
「今のローゼさんも、サイオンを好きでしょう?」
……え?
「おや。自覚がないんですか」
「何を…」
好き?
誰が誰を?
「この間図書館裏で会った時、貴女とサイオン、互いに目を逸らせないかの様に見つめ合っていましたよ?」
「そ、れは」
確かにゲームでの推しはサイオンだったけど、それはゲームの中の話で。目が逸らせなかったのは私が王族のオーラに当てられたからで…
「サイオンは普段感情を態度や表情には出さないですが、私は長年サイオンを見続けているのでわかります。ただサイオンがローゼさんを恋愛的に好きかどうかは微妙な処ですが…何かしら惹かれる物はあるようですね」
顎に手を当てて言うイヴァン。
「サイオン殿下が私の事好きなんてある訳ないですよ。あのリリー様が婚約者なんですよ?それに、万が一好きだとしても、それはゲームの力ですから本当に好きなのとは違います」
そう言いながらも、ローゼの心臓は痛いくらいに早く拍動している。
「ゲームの力?」
「そうです。ニューマン先生が私を好きなのもその力のせいです」
キッパリと言い切るローゼの言葉にイヴァンは首を傾げる。
「私は好みの範囲が広いので、ゲームの力がなくてもローゼさんの事は気に入っていたと思いますよ?」
「九つも歳下なのに?」
「言ったでしょう?範囲が広いって。下は学園に入る歳から、上はどこまででも」
それで性別は男女を問わないとなると…
「…それはもう『範囲』じゃないですよね?」
「そうよ。それじゃむしろ範囲外の方が狭いわ」
クスクス笑いながらコーネリアが言う。
「範囲は広くても誰でも良い訳ではないですよ。今はローゼさんが二番目、私の一番は学園生の頃からサイオンです」
「頬どうしたんですか?」
しゃがみ込んだまま目を丸くしてイヴァンを見上げるローゼの頬に、イヴァンがそっと触れる。
エリカサンドラから扇をぶつけられた時の傷がチリッと痛む。
「先生のルートに入れって…今…?」
「この言葉の意味がわかるんですね。コーネリアの話は本当だったのか…」
「コーネリア?」
コーネリア・バイロンはイヴァンの…
「私の恋人です」
ですよね。とローゼは思う。
「正しくは偽装恋人、ですかね」
ニコリと笑うイヴァン。
「え?偽装?」
「ええ。コーネリアは偽装恋人。ローゼさんを好きなのも本当ですが……私の本命はサイオンです」
…え。
「えええええ!?」
ローゼは思わず声を上げた。
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ローゼの前に紅茶のカップが置かれる。
「ありがとうございます」
「いいえ」
にこやかに微笑む女性はコーネリア・バイロン。二十三歳のロイズの侍女だ。
ここは王宮の中にある使用人棟のコーネリアの部屋。
小さなソファセットにローゼ、向かい側にイヴァンが座っていて、コーネリアがイヴァンの隣へ座った。
「端的に言えば、私は両刀使いなんですよね」
ニコニコしながら言うイヴァン。
つまり先生は…所謂バイで…異性も同性もイケると…
「コーネリアは十八で結婚した相手を二十一で亡くした未亡人なので、付き合っていても周りから結婚結婚と言われないのが良くて、偽装恋人になってもらっているんです」
「未亡人」
「旦那様は随分と歳上だったし、遺産も入ったし、働く必要はないんだけど、ほら私、前世の記憶があるじゃない?ここが『愛しの生徒会』の世界で自分が悪役令嬢の一人だと知ったら、特等席で舞台が見られるみたいで、何だかワクワクしちゃって」
コロコロと笑いながらコーネリアは言う。
「それで王宮の侍女になったら設定通りロイズ殿下付きになれて、イヴァン様に偽装交際を申し込まれたのよ」
「はあ…」
「だから私はゲームの成り行きを見守りたいだけで、イヴァン様を好きな訳じゃないから。イヴァン様も私を好きな訳じゃないし、断罪もされないから心配しないで。ただ怪しまれると思ってローゼさんに嫌がらせとかしちゃって…ごめんなさいね」
だからコーネリアの嫌がらせは鉛筆やペンなどを盗む、被害額が小さい物だったのか。
「私は前世では五十七歳まで生きたの。普通の主婦でね、子供も巣立っちゃって淋しくなって乙女ゲームにハマったのよ。ローゼさんは?」
「私は…」
言い淀むローゼ。
視線が泳いで、誤魔化すかのように口角を上げた。
「私、あんまり前世の事覚えてなくて…ただ、ゲームの事はまあまあ覚えてますけど」
「そうなのね。一口に生まれ変わりって言っても色々パターンがあるのねぇ。じゃあ前世でのこのゲームの推しは誰だったの?」
「推しですか?」
「ちなみに私はイヴァンよ。腹黒年上萌え」
ニコニコ笑って言うコーネリア。
「腹黒とは酷いですね」
苦笑いしながらイヴァンが言う。
「推しは…」
言い淀むローゼに、イヴァンが笑いながら
「サイオンでしょう?」
と言った。
「え…?」
「ローゼさんを見ていたらわかりますよ。今も」
「今?」
ニューマン先生、何を言ってるんだろ?
「今のローゼさんも、サイオンを好きでしょう?」
……え?
「おや。自覚がないんですか」
「何を…」
好き?
誰が誰を?
「この間図書館裏で会った時、貴女とサイオン、互いに目を逸らせないかの様に見つめ合っていましたよ?」
「そ、れは」
確かにゲームでの推しはサイオンだったけど、それはゲームの中の話で。目が逸らせなかったのは私が王族のオーラに当てられたからで…
「サイオンは普段感情を態度や表情には出さないですが、私は長年サイオンを見続けているのでわかります。ただサイオンがローゼさんを恋愛的に好きかどうかは微妙な処ですが…何かしら惹かれる物はあるようですね」
顎に手を当てて言うイヴァン。
「サイオン殿下が私の事好きなんてある訳ないですよ。あのリリー様が婚約者なんですよ?それに、万が一好きだとしても、それはゲームの力ですから本当に好きなのとは違います」
そう言いながらも、ローゼの心臓は痛いくらいに早く拍動している。
「ゲームの力?」
「そうです。ニューマン先生が私を好きなのもその力のせいです」
キッパリと言い切るローゼの言葉にイヴァンは首を傾げる。
「私は好みの範囲が広いので、ゲームの力がなくてもローゼさんの事は気に入っていたと思いますよ?」
「九つも歳下なのに?」
「言ったでしょう?範囲が広いって。下は学園に入る歳から、上はどこまででも」
それで性別は男女を問わないとなると…
「…それはもう『範囲』じゃないですよね?」
「そうよ。それじゃむしろ範囲外の方が狭いわ」
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