ヒロインに転生しましたけど、私、王太子より悪役令嬢が好きなんです。

ねーさん

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 バシャッ
 と音を立てて、バケツの水がローゼに掛かる。
「あらあ。ごめんなさい。こんな所に人がいるなんて思わなくて」
 中庭のベンチに座るローゼの前に立ったのは、空になったバケツを持った取り巻きを連れたドロワ・カーティス。ルークの婚約者だ。
 前髪からポタポタと落ちる水滴の向こうに得意気な表情のドロワ。
 …ベンチに座る人に水を掛けて「こんな所に人がいるなんて」なんて、言い訳として破綻してるでしょうよ。
 ローゼは視線を上げてドロワを見る。
「な、何よ。文句があるなら言いなさいよ」

「カーティスさん、やり過ぎではありませんか?」
 そう言いながらイヴァンがドロワたちの後ろから現れた。
 ニューマン先生は…笑顔過ぎませんか?
「せっ先生。これは、あの、わざとではなく…」
 慌てるドロワを横目にイヴァンはローゼの横に立つと、ローゼの手を取ってベンチから立たせる。
「救護室へ行きましょうか」
 ローゼに笑い掛けるイヴァン。
 だから何で笑顔なのか…わっ!
 イヴァンはふわりとローゼを抱き上げた。

「あ、歩けます。先生」
「いえ。貴女は私のですから」
 ジタバタするローゼの顔を蕩けるような笑顔で覗き込むイヴァン。
 ドロワたちが呆然と眺める中、ローゼを抱いたままスタスタと歩き出す。
「…やり過ぎなのは先生の方です」
 ローゼが小声で言うと
「こういうの、楽しいですよね」
 とイヴァンは笑った。

-----

「水を掛けられるイベント…ああ、そう言えば…」
「このイベントでヒロインを、その時点で一番好感度が高い攻略対象者が救護室へ連れて行くの。そしてそこでキスをすればその攻略対象者の個別のルートへ入るのよ」
 コーネリアが人差し指を立てて言う。
「キス!?」
「救護室でローゼさんとキスすれば私のルートに入るって事か…役得ですね」
 慌てるローゼと嬉しそうなイヴァン。イヴァンはペロリと自分の唇を舐める。
「本当にキスする気ですか!?」
「あらやだイヴァン様、舌舐めずりなんて下品ですよ?」
「ははは。つい期待が行動に出てしまいました。しかし、しなきゃルートに入れないんでしょう?」
「ルートに入ったで良いじゃないですか!」
「「え~」」
 声を揃える二人。
「二人共!『えー』じゃない!です!」

 ローゼはこれ以上嫌がらせがエスカレートしない内に誰かのルートに入った方が良いのではないかと考え、この世界がゲームで、ローゼがヒロインへ生まれ変わった事を知っているイヴァンが「自分のルートへ入れ」と言っているので、イヴァンのルートに入るのが一番良いだろうと思った。

 ローゼを抱き上げたまま救護室のドアを開けたイヴァンは、ローゼをベッドに降ろし、座らせた。
「はいタオル」
「アリガトウゴザイマス」
「棒読みですね?」
「お姫様だっこはやっぱりやり過ぎだと思います」
「そうですか?これでカーティスさんたちが噂を広める速度も早まると思いますけど」
 ローゼの隣に座ったイヴァンは、ローゼが頭に掛けたタオルでローゼの頭をワシワシと拭く。
「ちょっ…先生乱暴です」
「早く拭かないと夏前とは言え風邪引きますからね」
「もう」
 タオルの下からイヴァンの方を見ると、至近距離にイヴァンの顔が見えて…
 ごく軽く、互いの唇が触れた。

「……」
「やはりでは令嬢たちの嫌がらせが止む確証がないので確実にルートに入った方が良いと思いまして…ローゼさん?」
「……」
「固まってますね?」
 目を見開いたままの固まるローゼ。

 ガタンッ
 救護室の入口の方から音がする。ハッとしたイヴァンがそちらを見ると、そこにはサイオンが立っていた。
「イヴァン」
 サイオンはバツが悪そうに片手で自分の口元を覆っている。
「サイオン、何故ここに?」
「学園長に用があったんだ。先程ローゼ嬢が水を掛けられるのを見て…」
「…なるほど。好感度の高い攻略対象者はちゃんとその場に居合わせるようになっているんですね」
 イヴァンは小声で呟くと、ローゼが小さく震えている事に気付く。
「ローゼさん?」
「先生…恥ずかしいです…」
 ローゼはタオルに顔を隠すようにして、イヴァンの肩に額を押し当てる。
「ああ、済みません」
 イヴァンは肩に乗ったローゼの頭をポンポンと叩くと
「少し待っていてください。ちゃんと拭いて、ね?」
 と優しい声で言うと、ベッドから立ち上がり、ベッドの周りを囲むカーテンを閉めた。
「イヴァン…お前…」
「サイオン」
 イヴァンは指で廊下を指すと、サイオンと共に救護室を出て行った。

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