ヒロインに転生しましたけど、私、王太子より悪役令嬢が好きなんです。

ねーさん

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 見られた!?
 ニューマン先生にキスされる処、サイオン殿下に見られた?
 …いやいや、まあ、落ち着いて。ローゼ。
 見られたからって何だと言うの。
 これからニューマン先生のルートに入るんだから、他の攻略対象者にも、悪役令嬢にも、そう認識してもらわなきゃ。
 もちろんサイオン殿下にも。
「…とりあえず、頭を拭こう」
 わしゃわしゃとタオルを動かす。
 そもそも、ニューマン先生が私がサイオン殿下を好きとか言い出すから意識するのよ。
 わしゃわしゃわしゃ。
 ローゼは俯いて一心不乱に髪を拭く。
 髪がもつれちゃうけど、頭の中のもつれを解くのが先だわ。
 わしゃわしゃしているローゼの手の上に、誰かの手がそっと添えられる。
 ん?
「先生?」
 ローゼが顔を上げると、ローゼの前に立ち、右手をローゼの左手に重ねているサイオンが目に入った。

-----

「イヴァン、お前…ロー…いや校内で生徒と何をしてるんだ?」
 救護室から出たイヴァンとサイオン。廊下に誰もいないのを自分の従者に確認してからサイオンが言う。
「サイオン、俺は」
「イヴァン?」
「俺はローゼさん…ローゼと添い遂げる決心をしたんだ」
「は?添い遂げる?ローゼ嬢はまだ一年生だぞ?」
「そうだね。もちろん結婚はローゼが卒業するまで待つよ?」
「結婚!?」
 サイオンは驚きの声を上げる。
「『添い遂げる』とはそう言う事だろう?」
 口角を上げるイヴァン。
「それは…そうだが…」
 サイオンの視線がうろうろと泳ぐ。
 普段努めて冷静に振る舞うサイオンの、密かに動揺するこういう処、滅多に見れないけど…かわいいよなあ。
「十五歳で婚約が決まっているのも、婚約者と歳が離れているのも、そう珍しい話ではないだろ?」
「そうだが…それは家の事情などが絡む場合だろう?ローゼ嬢の気持ちはどうなんだ?九つも歳上の男性に惹かれるなど、一時の気の迷いじゃないのか?」
「そうかな?」
「そうだろう?」
「じゃあサイオンが確かめてみるか?」
「…は?」
「ローゼに俺の事どう思っているか聞いてみろ」
 困惑するサイオンに向けて、にっこりと、イヴァンは笑った。

 サイオンは先程中庭でローゼが女生徒に囲まれて、バケツの水を掛けられるのを見た。
 ローゼの前髪から水滴が落ちる。
 すぐに駆け出そうとして、自分が行く筋合いではないと一瞬思い留まる。
 すると、イヴァンが現れて、ローゼを抱き上げて去ってしまう。
 少し離れて二人に着いて歩く。
 イヴァンの背中に隠れてローゼの表情は見えない。ピンクの髪だけが肩越しに見える。
 たまに見えるイヴァンの横顔はずっと笑顔だった。

 イヴァンはローゼを抱き上げたまま救護室に入って行く。

 廊下の角に従者を留まらせ、救護室のドアをゆっくりと開ける。
 あのドアを、もっと勢い良く開けていれば、見なくて済んだのか?

 ベッドに腰掛けた二人の顔が重なっている。
 
 ガタンッとドアが音を立てた。

「先生…恥ずかしいです…」
 ローゼの小さな声が聞こえて、タオルに隠されて少しだけ見えるピンクの髪がイヴァンの肩に押し付けられている。
 ドクドクとサイオンの心臓が鳴った。
 イヴァンがタオル越しにローゼの頭を優しくポンポンと叩く。
 …恋人同士なのか。イヴァンと、ローゼは。

 イヴァンと話した後、また静かに救護室に入る。カーテンの向こうにローゼの気配。
 ゆっくりとカーテンを開ける。
 一心不乱に髪を拭くローゼは気付かない。
 かなり強く拭いている、ローゼの指先が白くなっていた。
 サイオンは思わず手を伸ばし、ローゼの手に自分の手を重ねた。
「先生?」
 ローゼの声。
 イヴァンの手だと思っているのか。
 チリチリと胸が痛む。
 顔を上げたローゼの青い瞳がサイオンを見た。

「サイオン殿下!?」
 大きな眼が更に大きく見開かれている。
 微かに頬が赤い。
「そんなに強く拭くな」
「あの、ニューマン先生は…?」
 恥ずかしそうに俯くローゼ。
「…ローゼ嬢はイヴァンを好きなのか?」
「え?」
「イヴァンが『ローゼと結婚するつもりだ』と…」
「私と先生がですか?」
「そうだ」
 ルートに入った振りでも、流石にそれは言い過ぎじゃない?…でも否定するのも変だし…
「…いつか、そうなれば良いな、と思っています」
 そう、ローゼは視線を下げて言った。






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