ヒロインに転生しましたけど、私、王太子より悪役令嬢が好きなんです。

ねーさん

文字の大きさ
41 / 83

40

しおりを挟む
40

 その船小屋は、陸から桟橋が延びていて水面に浮いたように建っていた。このような構造の船小屋は湖畔に建つ物より水深が深い場所に建つので、より大きくて速く走る船を係留できるのだ。
 今その小屋には手漕ぎの小さなボートが一艘留められているだけなので、これからローゼたちを乗せて逃げるための船が来るのだと思われる。
「外に見張りはいないが…桟橋からしか近付けないか?」
 少し離れた所に建つ他の船小屋の影で、サイオンとイヴァンは船小屋の様子を窺う。

「殿下」
 小声で後ろからサイオンに声を掛けたのはクレイグだ。
「クレイグ殿」
「…桟橋から近付いて突入しようと思います。殿下の手の者に外から近付いて貰う事ができますか?」
 クレイグが声を落として言う。
「ああ」
 サイオンが「影」に目配せをすると
「外からも何人か泳がせて近付けます」
 そう「影」の男が言い、姿を消した。

 バタンッ

 その時、船小屋の桟橋とは反対の、湖側の大きな扉が勢い良く開き、人が湖に落ちるのが視界に入る。
 バシャーンッ
「ローゼ!!」
 一瞬だが、ピンクの髪が見えた。
「サイオン!待て!!」
 サイオンはイヴァンの制止の声を振り切り、船小屋の迫り出したデッキから湖に飛び込んだ。

 クレイグは直ぐに踵を返し、腰の剣の柄を握りながら船小屋と陸を繋ぐ桟橋へと駆け出す。

 イヴァンは、サイオンが飛び込んだのとほぼ同時に船小屋からもう一人の人影が湖に落ちるのを見た。
 黒尽くめの男はローゼを追って飛び込んだのではなく、落ちたか、落とされたかしたようで、すぐに水面に出て留めてあったボートに掴まった。サイオンが飛び込んだ事や「影」が近付いている事には気付いていないようだ。
 だったら、今、俺がサイオンを追って飛び込んで、相手に俺たちがここに居る事を知らせてはいけない。
 ローゼはきっとサイオンと「影」が助け出して来る。俺の役割はその後の事を考える事だ。
 イヴァンもクレイグの後を追って桟橋の方へと駆け出した。

-----

 痛い。
 痛い。

 デボラを見下ろす黒尽くめの男が目出し帽の下で嘲笑わらっているのが判る。
 デボラの脇腹をナイフで一突した男は、ナイフを刺したままデボラの前にしゃがみ込んだ。
 髪を掴んでいた男が今はデボラを羽交い締めにしている。
「さあて、ナイフを抜いて心臓を一突するのと、このままジワジワ死ぬのを見るのと、どっちがいいかねぇ」
 男は脇腹に刺さったままのナイフを手の平でぐっと押した。
「…ぐっ。ぅぅ…」
 塞がれた口から呻き声が漏れる。
 ドクドクと脈打って血が流れているのを感じた。
 視界が歪んだのは涙のせいか、意識が朦朧としているせいか。

 バアンッ
 とデボラの後ろから音がして
「ぎゃああ!」
 と男の悲鳴が聞こえた。
 羽交い締めされた腕が緩んで、デボラは床に倒れる。
「何だてめぇ!?」
 デボラを刺した男が立ち上がり掛けた時、剣の刃が光って男の額の前でピタリと止まった。
 …助けが…来たの?
「ひっ」
「死にたくなければ動くな」
 デボラの歪んだ視界に男に剣を突きつけるクレイグが写った。
 ローゼの…おにいさんだ…
 
 クレイグに額に剣を突きつけられた男は、イヴァンに手首を身体の後ろで縛られ、口に布を詰められる。
 口の布を押さえるよう縄を掛けた処でクレイグは剣を下ろす。
「デボラ嬢。遅くなって済まなかった。すぐに治療するから」
 クレイグはそう言うとデボラの口の布を解き、口の中の布を取り出す。男を縛り終わったイヴァンがデボラの後ろで縛られた手首の縄を剣で切っていた。
「出血するからナイフはそのままで、すぐに運ぼう」
「近くに伯爵家があるのでそこに。医者を呼ぶよう手配します」
 イヴァンはそう言うと小屋を出て行く。
 クレイグはゆっくりとデボラを抱き上げた。背中を斬られたもう一人の男が目に入る。
「…っうぅ…」
「済まない。痛いだろう?」
 身体を動かされ、傷みに歪んだ顔をクレイグが眉を顰めて覗き込む。
 イヴァンが出て行った扉と、ローゼが落ちた扉、両方から何人かの人が入って来て、倒れている男二人を取り囲んだ。
「…ロー…ゼ…は?」
「ローゼはサイオン殿下が助けに行ってくれた。きっと大丈夫だよ」
 デボラを安心させるように、落ち着いた声で言うクレイグ。
「…よ…かった…」
 デボラは安心したように少し笑うと、そう呟いて、意識を失った。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

とっていただく責任などありません

まめきち
恋愛
騎士団で働くヘイゼルは魔物の討伐の際に、 団長のセルフイスを庇い、魔法陣を踏んでしまう。 この魔法陣は男性が踏むと女性に転換するもので、女性のヘイゼルにはほとんど影響のない物だった。だか国からは保証金が出たので、騎士を辞め、念願の田舎暮らしをしようとしたが!? ヘイゼルの事をずっと男性だと思っていたセルフイスは自分のせいでヘイゼルが職を失っただと思って来まい。 責任を取らなければとセルフイスから、 追いかけられる羽目に。

王宮に薬を届けに行ったなら

佐倉ミズキ
恋愛
王宮で薬師をしているラナは、上司の言いつけに従い王子殿下のカザヤに薬を届けに行った。 カザヤは生まれつき体が弱く、臥せっていることが多い。 この日もいつも通り、カザヤに薬を届けに行ったラナだが仕事終わりに届け忘れがあったことに気が付いた。 慌ててカザヤの部屋へ行くと、そこで目にしたものは……。 弱々しく臥せっているカザヤがベッドから起き上がり、元気に動き回っていたのだ。 「俺の秘密を知ったのだから部屋から出すわけにはいかない」 驚くラナに、カザヤは不敵な笑みを浮かべた。 「今日、国王が崩御する。だからお前を部屋から出すわけにはいかない」 ※ベリーズカフェにも掲載中です。そちらではラナの設定が変わっています。(貴族→庶民)それにより、内容も少し変更しておりますのであわせてお楽しみください。

【完結】僻地の修道院に入りたいので、断罪の場にしれーっと混ざってみました。

櫻野くるみ
恋愛
王太子による独裁で、貴族が息を潜めながら生きているある日。 夜会で王太子が勝手な言いがかりだけで3人の令嬢達に断罪を始めた。 ひっそりと空気になっていたテレサだったが、ふと気付く。 あれ?これって修道院に入れるチャンスなんじゃ? 子爵令嬢のテレサは、神父をしている初恋の相手の元へ行ける絶好の機会だととっさに考え、しれーっと断罪の列に加わり叫んだ。 「わたくしが代表して修道院へ参ります!」 野次馬から急に現れたテレサに、その場の全員が思った。 この娘、誰!? 王太子による恐怖政治の中、地味に生きてきた子爵令嬢のテレサが、初恋の元伯爵令息に会いたい一心で断罪劇に飛び込むお話。 主人公は猫を被っているだけでお転婆です。 完結しました。 小説家になろう様にも投稿しています。

行き遅れのお節介令嬢、氷の公爵様と結婚したら三人娘の母になりました

鳥柄ささみ
恋愛
お節介焼きで困っている人を放っておけないシアは、数多のご令嬢達から人気の令嬢だ。毎日ファンレターが届き、社交界に出れば令嬢に取り囲まれるほどである。 けれど、それに反比例するように男性からの人気はなく、二十七だというのに嫁の貰い手もないため、毎日母から小言をもらっていた。 そんなある日のこと、突然公爵家から縁談の話が。 シアは公爵家がなぜ自分に縁談など持ち掛けるのかと訝しく思いつつ話を受けると、なんと公爵の後妻として三人の娘の母代わりになれと言われる。 困惑するも、自分へ縁談を持ちかけた理由を聞いて、お節介なシアは嫁ぐこと決めたのだった。 夫になるレオナルドはイケメンなのに無表情で高圧的。三人の娘も二女のアンナを除いて長女のセレナも三女のフィオナもとても反抗的。 そんな中でもお節介パワーを発揮して、前向きに奮闘するシアの物語。 ※他投稿サイトにも掲載中

【完結】モブ令嬢としてひっそり生きたいのに、腹黒公爵に気に入られました

22時完結
恋愛
貴族の家に生まれたものの、特別な才能もなく、家の中でも空気のような存在だったセシリア。 華やかな社交界には興味もないし、政略結婚の道具にされるのも嫌。だからこそ、目立たず、慎ましく生きるのが一番——。 そう思っていたのに、なぜか冷酷無比と名高いディートハルト公爵に目をつけられてしまった!? 「……なぜ私なんですか?」 「君は実に興味深い。そんなふうにおとなしくしていると、余計に手を伸ばしたくなる」 ーーそんなこと言われても困ります! 目立たずモブとして生きたいのに、公爵様はなぜか私を執拗に追いかけてくる。 しかも、いつの間にか甘やかされ、独占欲丸出しで迫られる日々……!? 「君は俺のものだ。他の誰にも渡すつもりはない」 逃げても逃げても追いかけてくる腹黒公爵様から、私は無事にモブ人生を送れるのでしょうか……!?

【完結】6人目の娘として生まれました。目立たない伯爵令嬢なのに、なぜかイケメン公爵が離れない

朝日みらい
恋愛
エリーナは、伯爵家の6人目の娘として生まれましたが、幸せではありませんでした。彼女は両親からも兄姉からも無視されていました。それに才能も兄姉と比べると特に特別なところがなかったのです。そんな孤独な彼女の前に現れたのが、公爵家のヴィクトールでした。彼女のそばに支えて励ましてくれるのです。エリーナはヴィクトールに何かとほめられながら、自分の力を信じて幸せをつかむ物語です。

ブスすぎて嫁の貰い手がないから閨勤侍女になれと言われたので縁を切ります、完全に!完全縁切りの先にあったのは孤独ではなくて…

ハートリオ
恋愛
ルフスは結婚が決まった従姉の閨勤侍女になるよう父親に命令されたのをきっかけに父に無視され冷遇されて来た日々を終わらせようとブラコン父と完全に縁を切る決意する。 一方、従姉の結婚相手はアルゲンテウス辺境伯とのことだが、実は手違いがあって辺境伯が結婚したいのはルフス。 そんなこんなの異世界ファンタジーラブです。 読んでいただけると嬉しいです。 2/26 番外編を投稿しました。 読んでいただけると嬉しいです。 思っていたよりずっとたくさん読んでいただいていてとても嬉しいです。 とてもとてもありがとうございます!!   

ストーカー婚約者でしたが、転生者だったので経歴を身綺麗にしておく

犬野きらり
恋愛
リディア・ガルドニ(14)、本日誕生日で転生者として気付きました。私がつい先程までやっていた行動…それは、自分の婚約者に対して重い愛ではなく、ストーカー行為。 「絶対駄目ーー」 と前世の私が気づかせてくれ、そもそも何故こんな男にこだわっていたのかと目が覚めました。 何の物語かも乙女ゲームの中の人になったのかもわかりませんが、私の黒歴史は証拠隠滅、慰謝料ガッポリ、新たな出会い新たな人生に進みます。 募集 婿入り希望者 対象外は、嫡男、後継者、王族 目指せハッピーエンド(?)!! 全23話で完結です。 この作品を気に留めて下さりありがとうございます。感謝を込めて、その後(直後)2話追加しました。25話になりました。

処理中です...