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「デボラ嬢の怪我はどうなんだ?」
王宮のサイオンの私室のソファに、サイオン、イヴァン、クレイグ、リリーが座っている。
「幸い臓器には傷が達していなかったんですが、出血が多く、鎮痛剤の作用とでまだ意識は朦朧としています。医師がしばらく動かさない方が良いと言うので、キャストン伯爵家に預け、デボラ嬢のご家族が付き添っています。四~五日後には王城の医療棟へ連れ帰れるかと」
サイオンの質問にクレイグが答える。
「そうか」
「ところで、サイオン殿下、私は何故ここに呼ばれたのですか?」
不思議そうな表情でリリーが言う。
「クレイグ様から『エンジェル男爵家には女手がないからローゼに付いていてあげて欲しい』って言われて来たのに、まだローゼに会わせてもらえないし…」
サイオンは膝の上で組み合わせた自分の手をグッと握り、
「…強権発動とでも、何とでも言え」
そう、小さな声で呟く。
「サイオン殿下?」
その呟きが聞こえなくて、リリーは首を傾げる。
サイオンは組み合わせた手を解き、自分の正面に座るリリー、その隣のイヴァン、イヴァンの正面で、自分の隣に座るクレイグの顔を見回した後、息を吐いて言った。
「俺は、決心した。できるならば、非難ではなく協力をお願いしたい」
-----
痛い。
デボラは脇腹にじんわりとした痛みを感じて目を開けた。
「デボラ。痛いの?」
デボラの母親が顔を覗き込んで来る。
こくんと頷くと、母はポケットから薬の包みを取り出す。
「飲める?まだ難しいかしら」
あの包み紙は痛み止めか…ウチで扱ってる経口鎮痛剤では効き目が強い部類ね。
デボラは妙に冷静に考える。
「飲む…お水…」
もそもそと身体を動かそうとすると、母がデボラの肩を押さえた。
「やっと血が止まったんだから動かない!」
「はい!」
条件反射的に返事をするデボラ。声を出すのにお腹に力が入って脇腹がチクリと傷んだ。
ああ、そうか。刺されたんだっけ。
粉薬を口の中へ入れ、吸口で水を飲む。
「…苦い」
デボラが呟くと、母は苦笑いを浮かべる。
「ここ、どこ?」
見た事のない天井や壁紙、調度品。
「湖の側の伯爵家よ。応急処置でここに運ばれて、しばらく動かさない方が良いってお医者様が言うからそのままここに居させてもらってるの」
「伯爵家…」
「血も止まったし、そろそろ王城の医療棟へ移る筈よ」
「家に帰るんじゃないの?」
「結構な大怪我なんだからまだ無理よ。熱もあるし、消毒とかガーゼの交換とか家じゃできないんだから大人しく入院しなさいな」
何となくふわふわするのは鎮痛剤のせいかと思ってたけど、熱もあるのか。
「そうだ。デボラの目が覚めたら会いに行くから連絡くれって言われてるんだけど、呼んでも良い?」
「え?誰?」
まあ、事情を聞かれるんだろうから、学園の人と警察の人かな?
「エンジェル男爵」
「え?」
クレイグ様?
デボラの脳裏に自分を助けてくれた時のクレイグの姿が浮かぶ。抱き上げて「もう大丈夫だよ」と言ってくれたローゼと同じように青くて優しい瞳。
デボラは思わず自分の髪の毛と顔を触る。
「何してるの?」
母が不思議そうにデボラを見た。
「……」
あんな格好良い人に、寝起き?いや、寝起きとは違うけど、それに近い顔を見られるなんて!
「ははーん」
母がデボラを見てニヤニヤと笑う。
「うら若き乙女が!男性に!寝起きの顔なんて見られたくないに決まってるでしょ!?…いたたたた」
お腹に力を入れ過ぎて脇腹が痛んだ。
「力まないの。また出血するわよ?手巾濡らしてあげるから、それで顔でも拭きなさい」
「うん」
あれ?そういえば。
「母さん、ローゼは?王城にいるの?」
「……」
母は無言で部屋を出て行く。
聞こえなかったのかな?
「エンジェル男爵がもうすぐ着かれるらしいわ。早く拭きなさいな」
ほどなく戻って来た母は、デボラの手に濡れた手巾を持たせながら言う。
「ええ?」
「そもそもこちらに来るつもりで向かっておられたらしいの。鏡要る?」
「要る」
母は手鏡をデボラの顔の上にかざす。
ぼんやりした表情してるなあ。熱のせいで頬も赤いし。
そう思いながら手巾で顔を拭いて、母に渡す。
「ねえ、ローゼは…」
言い掛けた時、部屋の扉がコンコンとノックされた。
「デボラ嬢、目が覚めたんだね」
部屋に入って来たクレイグは、ベッドの傍に跪く。
「クレイグ様?」
「妹の事件に巻き込んで、怪我を負わせてしまって本当に済まなかった」
胸に手を当てて礼を取る。
「そんな」
「目が覚めて良かった。思ったより元気そうで安心したよ」
クレイグは立ち上がると、デボラの頬に自分の手の甲を当てた。
「!?」
ひええ。手が!クレイグ様の手が頬に!
「熱いな。まだ熱があるか…王城へ移るのはまだ無理かな?」
「いえ、あの大丈夫だと思います!」
「そうか?」
「あのっ。クレイグ様、ローゼはどうしてるんですか?」
デボラが言うと、クレイグは困ったような表情を見せた。
「ローゼは……亡くなったんだよ」
「デボラ嬢の怪我はどうなんだ?」
王宮のサイオンの私室のソファに、サイオン、イヴァン、クレイグ、リリーが座っている。
「幸い臓器には傷が達していなかったんですが、出血が多く、鎮痛剤の作用とでまだ意識は朦朧としています。医師がしばらく動かさない方が良いと言うので、キャストン伯爵家に預け、デボラ嬢のご家族が付き添っています。四~五日後には王城の医療棟へ連れ帰れるかと」
サイオンの質問にクレイグが答える。
「そうか」
「ところで、サイオン殿下、私は何故ここに呼ばれたのですか?」
不思議そうな表情でリリーが言う。
「クレイグ様から『エンジェル男爵家には女手がないからローゼに付いていてあげて欲しい』って言われて来たのに、まだローゼに会わせてもらえないし…」
サイオンは膝の上で組み合わせた自分の手をグッと握り、
「…強権発動とでも、何とでも言え」
そう、小さな声で呟く。
「サイオン殿下?」
その呟きが聞こえなくて、リリーは首を傾げる。
サイオンは組み合わせた手を解き、自分の正面に座るリリー、その隣のイヴァン、イヴァンの正面で、自分の隣に座るクレイグの顔を見回した後、息を吐いて言った。
「俺は、決心した。できるならば、非難ではなく協力をお願いしたい」
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痛い。
デボラは脇腹にじんわりとした痛みを感じて目を開けた。
「デボラ。痛いの?」
デボラの母親が顔を覗き込んで来る。
こくんと頷くと、母はポケットから薬の包みを取り出す。
「飲める?まだ難しいかしら」
あの包み紙は痛み止めか…ウチで扱ってる経口鎮痛剤では効き目が強い部類ね。
デボラは妙に冷静に考える。
「飲む…お水…」
もそもそと身体を動かそうとすると、母がデボラの肩を押さえた。
「やっと血が止まったんだから動かない!」
「はい!」
条件反射的に返事をするデボラ。声を出すのにお腹に力が入って脇腹がチクリと傷んだ。
ああ、そうか。刺されたんだっけ。
粉薬を口の中へ入れ、吸口で水を飲む。
「…苦い」
デボラが呟くと、母は苦笑いを浮かべる。
「ここ、どこ?」
見た事のない天井や壁紙、調度品。
「湖の側の伯爵家よ。応急処置でここに運ばれて、しばらく動かさない方が良いってお医者様が言うからそのままここに居させてもらってるの」
「伯爵家…」
「血も止まったし、そろそろ王城の医療棟へ移る筈よ」
「家に帰るんじゃないの?」
「結構な大怪我なんだからまだ無理よ。熱もあるし、消毒とかガーゼの交換とか家じゃできないんだから大人しく入院しなさいな」
何となくふわふわするのは鎮痛剤のせいかと思ってたけど、熱もあるのか。
「そうだ。デボラの目が覚めたら会いに行くから連絡くれって言われてるんだけど、呼んでも良い?」
「え?誰?」
まあ、事情を聞かれるんだろうから、学園の人と警察の人かな?
「エンジェル男爵」
「え?」
クレイグ様?
デボラの脳裏に自分を助けてくれた時のクレイグの姿が浮かぶ。抱き上げて「もう大丈夫だよ」と言ってくれたローゼと同じように青くて優しい瞳。
デボラは思わず自分の髪の毛と顔を触る。
「何してるの?」
母が不思議そうにデボラを見た。
「……」
あんな格好良い人に、寝起き?いや、寝起きとは違うけど、それに近い顔を見られるなんて!
「ははーん」
母がデボラを見てニヤニヤと笑う。
「うら若き乙女が!男性に!寝起きの顔なんて見られたくないに決まってるでしょ!?…いたたたた」
お腹に力を入れ過ぎて脇腹が痛んだ。
「力まないの。また出血するわよ?手巾濡らしてあげるから、それで顔でも拭きなさい」
「うん」
あれ?そういえば。
「母さん、ローゼは?王城にいるの?」
「……」
母は無言で部屋を出て行く。
聞こえなかったのかな?
「エンジェル男爵がもうすぐ着かれるらしいわ。早く拭きなさいな」
ほどなく戻って来た母は、デボラの手に濡れた手巾を持たせながら言う。
「ええ?」
「そもそもこちらに来るつもりで向かっておられたらしいの。鏡要る?」
「要る」
母は手鏡をデボラの顔の上にかざす。
ぼんやりした表情してるなあ。熱のせいで頬も赤いし。
そう思いながら手巾で顔を拭いて、母に渡す。
「ねえ、ローゼは…」
言い掛けた時、部屋の扉がコンコンとノックされた。
「デボラ嬢、目が覚めたんだね」
部屋に入って来たクレイグは、ベッドの傍に跪く。
「クレイグ様?」
「妹の事件に巻き込んで、怪我を負わせてしまって本当に済まなかった」
胸に手を当てて礼を取る。
「そんな」
「目が覚めて良かった。思ったより元気そうで安心したよ」
クレイグは立ち上がると、デボラの頬に自分の手の甲を当てた。
「!?」
ひええ。手が!クレイグ様の手が頬に!
「熱いな。まだ熱があるか…王城へ移るのはまだ無理かな?」
「いえ、あの大丈夫だと思います!」
「そうか?」
「あのっ。クレイグ様、ローゼはどうしてるんですか?」
デボラが言うと、クレイグは困ったような表情を見せた。
「ローゼは……亡くなったんだよ」
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