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船小屋のデッキから湖に飛び込んだサイオンは、そのまま水の中を潜って進む。
ぼんやりと複数の「影」の男の姿が見えた。
そして「影」の手の先にピンクの髪がゆらゆらと揺れている。
ローゼ!
サイオンは目を閉じたローゼの脇へ手を入れて引き寄せ「影」からその身体を受け取ると、浮上を始める。
水面の方を見ると、別の「影」が、水面の影が濃い部分を指差していた。
ローゼたちが居た船小屋の下へ浮上しろと言うことか。
船小屋には船の上に建物が乗った形の物と、足があり水面より上に床がある、水底から建つ形の物があり、ローゼとデボラが捕われていた船小屋は後者の物だ。つまり、水面から床の下までに頭を出せるくらいの空間があるのだ。
ゆっくりと水面へ顔を出す。ローゼを支えて顔を出させる。
意識はない。息をしていないようだ。
片手でローゼの小さな身体を支え、片手でローゼの口を塞いでいる布を解くと、口の中の布を出した。
サイオンは息を吸うと、ローゼの頬を掴み口を開けさせ、唇を重ねて息を吹き込んだ。
ローゼ、息をしてくれ。頼む。
何度が息を吹き込んだ時、頭上の船小屋で大きな音がした。
バアンッ
「ぎゃああ!」
男の声。
暫くガタガタと音がして、やがて静まる。
クレイグ殿が踏み込んだ音だろうな。
クレイグはサイオンとイヴァンが学園の一年生の時の四年生だ。容姿端麗、文武両道で有名で、その年に生徒会と騎士団が催した剣技大会でも騎士の家系の生徒を打ち破って優勝していた。
あれから十年近く経つが、きっとクレイグなら人攫い程度の賊に手こずるような事はないだろう。
「サイオン!制圧した。もう引き揚げて大丈夫だ」
桟橋の上から船小屋の下を覗き込むようにしてイヴァンが叫ぶ。
サイオンからはイヴァンの姿は見えなかったが、そのままイヴァンは桟橋を走って陸へ行ったようだ。
サイオンはローゼを抱え、息を吹き込みながら泳いで陸へと行く。船小屋へ何人かの「影」が入って行くのと、クレイグがデボラを抱いて出て来るのが見えた。
デボラ嬢…怪我をしているのか?
クレイグとアイコンタクトを交わす。
「ローゼは任せた」
と言われた気がした。
サイオンが飛び込んだ船小屋のデッキへとローゼを引き揚げると、ローゼはふはっと息と水を吐いた。
「ローゼ!」
サイオンは急いでローゼを横に向け、口を開けさせたまま胃の辺りを手で押さえて水を吐かせる。
ケホケホと少し咳き込んだローゼは意識はまだ戻らないが、呼吸は安定したようだ。
口を塞がれていたから余り水を飲まずに済んだのかも知れないな。
一先ず安堵のため息を吐きながら、懐から出したナイフでローゼの手首を縛っている縄を切った。
「殿下、とにかく呼吸が戻ったので、運びましょう」
侍従姿の「影」が言う。
「ああ」
サイオンはローゼを抱き上げた。
「殿下私が…」
そう「影」が言うが、サイオンは首を横に振った。
「いや、ローゼは俺が運ぶ」
「イヴァン殿と、エンジェル男爵、ムーサフ嬢は近くの伯爵家へ行かれたようです」
「そうか。こちらは王城へ戻る。馬車と、医師の準備を」
「はい」
ローゼを抱いて馬を駆けるのが一番早く戻れるだろうが、王太子がピンクの髪の女性を抱いて王城へ入る姿は目立ち過ぎるだろう。これ以上ローゼに危うい噂を立てる訳にはいかない。
ローゼを抱いて馬に乗り、ゆっくりと歩かせていると、紋章のない馬車がやって来る。
馬を降り、馬車に乗って来た「影」の男に馬を任せ馬車に乗り込んだサイオンはローゼを抱いたまま座席に座る。
座席に置いてあった手巾でローゼの髪をそっと拭いた。
動き出した馬車の中で、サイオンはローゼの顔に自分の顔を近付ける。
少し開いた唇から呼吸の音が聞こえた。
ああ、生きている。ローゼ、良かった…
ぎゅうっとローゼを抱きしめる。
そして、サイオンは一つの決意を固めた。
船小屋のデッキから湖に飛び込んだサイオンは、そのまま水の中を潜って進む。
ぼんやりと複数の「影」の男の姿が見えた。
そして「影」の手の先にピンクの髪がゆらゆらと揺れている。
ローゼ!
サイオンは目を閉じたローゼの脇へ手を入れて引き寄せ「影」からその身体を受け取ると、浮上を始める。
水面の方を見ると、別の「影」が、水面の影が濃い部分を指差していた。
ローゼたちが居た船小屋の下へ浮上しろと言うことか。
船小屋には船の上に建物が乗った形の物と、足があり水面より上に床がある、水底から建つ形の物があり、ローゼとデボラが捕われていた船小屋は後者の物だ。つまり、水面から床の下までに頭を出せるくらいの空間があるのだ。
ゆっくりと水面へ顔を出す。ローゼを支えて顔を出させる。
意識はない。息をしていないようだ。
片手でローゼの小さな身体を支え、片手でローゼの口を塞いでいる布を解くと、口の中の布を出した。
サイオンは息を吸うと、ローゼの頬を掴み口を開けさせ、唇を重ねて息を吹き込んだ。
ローゼ、息をしてくれ。頼む。
何度が息を吹き込んだ時、頭上の船小屋で大きな音がした。
バアンッ
「ぎゃああ!」
男の声。
暫くガタガタと音がして、やがて静まる。
クレイグ殿が踏み込んだ音だろうな。
クレイグはサイオンとイヴァンが学園の一年生の時の四年生だ。容姿端麗、文武両道で有名で、その年に生徒会と騎士団が催した剣技大会でも騎士の家系の生徒を打ち破って優勝していた。
あれから十年近く経つが、きっとクレイグなら人攫い程度の賊に手こずるような事はないだろう。
「サイオン!制圧した。もう引き揚げて大丈夫だ」
桟橋の上から船小屋の下を覗き込むようにしてイヴァンが叫ぶ。
サイオンからはイヴァンの姿は見えなかったが、そのままイヴァンは桟橋を走って陸へ行ったようだ。
サイオンはローゼを抱え、息を吹き込みながら泳いで陸へと行く。船小屋へ何人かの「影」が入って行くのと、クレイグがデボラを抱いて出て来るのが見えた。
デボラ嬢…怪我をしているのか?
クレイグとアイコンタクトを交わす。
「ローゼは任せた」
と言われた気がした。
サイオンが飛び込んだ船小屋のデッキへとローゼを引き揚げると、ローゼはふはっと息と水を吐いた。
「ローゼ!」
サイオンは急いでローゼを横に向け、口を開けさせたまま胃の辺りを手で押さえて水を吐かせる。
ケホケホと少し咳き込んだローゼは意識はまだ戻らないが、呼吸は安定したようだ。
口を塞がれていたから余り水を飲まずに済んだのかも知れないな。
一先ず安堵のため息を吐きながら、懐から出したナイフでローゼの手首を縛っている縄を切った。
「殿下、とにかく呼吸が戻ったので、運びましょう」
侍従姿の「影」が言う。
「ああ」
サイオンはローゼを抱き上げた。
「殿下私が…」
そう「影」が言うが、サイオンは首を横に振った。
「いや、ローゼは俺が運ぶ」
「イヴァン殿と、エンジェル男爵、ムーサフ嬢は近くの伯爵家へ行かれたようです」
「そうか。こちらは王城へ戻る。馬車と、医師の準備を」
「はい」
ローゼを抱いて馬を駆けるのが一番早く戻れるだろうが、王太子がピンクの髪の女性を抱いて王城へ入る姿は目立ち過ぎるだろう。これ以上ローゼに危うい噂を立てる訳にはいかない。
ローゼを抱いて馬に乗り、ゆっくりと歩かせていると、紋章のない馬車がやって来る。
馬を降り、馬車に乗って来た「影」の男に馬を任せ馬車に乗り込んだサイオンはローゼを抱いたまま座席に座る。
座席に置いてあった手巾でローゼの髪をそっと拭いた。
動き出した馬車の中で、サイオンはローゼの顔に自分の顔を近付ける。
少し開いた唇から呼吸の音が聞こえた。
ああ、生きている。ローゼ、良かった…
ぎゅうっとローゼを抱きしめる。
そして、サイオンは一つの決意を固めた。
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