ヒロインに転生しましたけど、私、王太子より悪役令嬢が好きなんです。

ねーさん

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 画面の向こうから青紫の麗しい人が私に笑い掛けて来る。
「はあ…尊い…」
 また一人言。でもまあ本当にサイオンは尊いからそれもやむなし。
「ローゼ」
 ああサイオンの声、好き。特にを呼ぶ声が。
「ローゼ」
 
 私じゃなくてあくまでもヒロインよね?サイオンが呼ぶのは。
 でも私が呼ばれているような、不思議な感じ。
 …こんな事思うなんて…ゲームやりすぎ?
 ハマり過ぎなのかな?

「ローゼ」
 ん?やっぱり私が呼ばれてる?

 ローゼはゆっくりと目を開ける。

「ローゼ」
 目に飛び込んで来たのは、青紫の瞳。
 …が写ってる。
「気がついたか?気分はどうだ?」
 心配そうな表情。こんな顔、ゲームでは見た事ない。
「…何これ、夢?」
「ローゼ?」
 画面越しじゃなく、目の前にサイオンがいるみたいな。
 リアルな夢だなあ~もしかして触れたりする?
 手を動かして、サイオンの頬に触る。
 触れた。夢すごい。
 思わず笑みが溢れた。
「…っ」
 サイオンが息を飲み。感極まったかのように、ローゼに口付けた。
 キス!?
 現実ではキスなんてした事ない!なのに何このリアルな感触!
 唇、柔らか!!

「俺のローゼ…絶対にどこへもやらない」
 ……あれ?
 サイオンってこんな事言うキャラだった?

 パチンッと、目の前で泡が弾けたような感覚。
 急に視界がハッキリとする。

 ローゼはパチパチと瞬きをした。

「私…死んだんじゃないの?」
 今の私が前世の夢を見てる?前世の私が見てる夢が今?
 水に落ちて「ああこれで死ぬんだな」と思ったのは同じだから…私は今で生きてるんだろ?

 もし、目が覚めて、前世の続きの世界だったとしたら…

 ゾワリと総毛立つような感覚。
 それでも、不思議と身体がポカポカと暖かかった。

「ローゼ」
 あれ?これは…抱きしめ、られてる?
 目の前に肩。顔の横に青紫の髪の毛。後ろ頭と背中に大きな手の平。いい匂いがして、少し重くて、暖かい。
 ベッドに横になったローゼを、そのベッドに膝を乗り上げたサイオンが抱きしめている。
「…サイオン…?」
 顔の横の髪の毛が動いて、正面から顔を覗き込まれる。
「ローゼ…」
 画面でアップになったのとは違う。圧倒的な生身の存在感。
 少し眉を寄せて、切な気にサイオンがを見てる。
 …ああ…好きだな。

 叶うなら、この「ローゼ」としての「生」を生きたい。
 辛い境遇もあるけど、大切な兄がいて、初めての友達がいて、初めての「恋」も…みんなにあるから。

「ローゼ、もしもあの時、命を落としたと思ったならば…これからの人生を、俺にくれないか?」

 夢じゃない。確かな体温。息遣い。抱きしめられる力。
 夢じゃないんだ。

「…うん」
 ローゼは小さく頷いた。

-----

 これは夢じゃない。

 と、ローゼが気付いた時には完全にサイオンの腕の中にいた。
 ひええええ。
 何これ?どういう状況?
 私、湖に落ちて……あ!
「あっ!デビィは!?無事!?」
「デボラ嬢は…脇腹を刺されたが、クレイグ殿とイヴァンに助け出されたよ」
「さ…刺された!?」
 私のせいでデビィが怪我を…
「殿下離してください。私デビィの所へ行かなきゃ」
 サイオンの腕の中でもがくローゼ。
「だめだよ」
 サイオンはローゼを抱く腕を緩める事なく、むしろもっと腕に力を込める。ローゼの頬がサイオンの胸元に押し付けられた。
「だ、だめって…」
「ローゼは暫くここから出さない」
「え?」
「ローゼのこれからの人生は俺の物だから」
 …確かにさっきサイオン…殿下に「これからの人生を俺にくれ」って言われたけど…半分夢だと思ってたんだもん!
「まあ。それは大袈裟か。デボラ嬢は湖の側の伯爵家に応急的に運び込まれて、容態が安定するまではそこにいるんだ。王城の医療棟へ移れば会える」
「デビィの怪我…酷いんですか?」
「命に別条はないが、刺し傷は表に見える傷より、身体の中に付いた傷の方が大きいからな」
「…私が無傷なのに、巻き込まれたデビィの方が怪我が酷いなんて…」
「ローゼは無傷ではないぞ?」
 サイオンは腕を緩めて、ローゼの顔を覗き込む。
「え?」
 無傷じゃない?手も足も、身体も、痛い所などどこにもないのに?
「何しろ、ローゼには、これから死んでもらうからな」
 そう言って、サイオンはにっこりと笑った。




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