54 / 83
53
しおりを挟む
53
ストールを肩に掛けて、寝室の扉からサイオンの私室を覗くと、黒いスーツのサイオンとイヴァン、コーネリアが立っていた。
サイオンは表向きローゼとの関わりが薄いし、王太子という立場もあるので、本来は一男爵令嬢の葬儀に出席する事はない。しかし、ここでサイオンが葬儀に出る程ローゼを特別に思い、ローゼの死を悼み、その存在を失い嘆く様子を周りに見せる事には意味がある。
イヴァンが笑顔でローゼに歩み寄る。
「本当に元気そうで良かった。サイオンがローゼの居る寝室に入れるのはクレイグ殿だけだって言うからさあ」
「当たり前だろ」
サイオンがやって来て、ローゼの後ろから肩に掛かったストールの端を持ち、身体の前でしっかり重ねるように交差させながらローゼを腕に閉じ込めた。
「はいはい。サイオンって意外と独占欲強いんだな」
苦笑いのイヴァンに、ローゼは赤くなる。
「そうだな。自分でも意外だ」
サイオンは真顔でそう言った。
-----
王太子サイオンがローゼ・エンジェル男爵令嬢の葬儀に異例の出席をし、その後沈んだ様子で、執務中にもため息が多く、視察などもキャンセルし、私室に篭もりがちになっているとの噂が流れる。
「兄上は演技派なんですね」
サイオンの私室のソファに座り、少し呆れた様子でロイズが言う。
「俺は普通にしているだけだがな。ローゼが居るから私室に篭るし、ローゼが居るのにと思えば執務中にため息も出る」
「でっ殿下、やめてください」
しれっと言いながら紅茶を飲むサイオンの後ろで、侍従と同じ服を着たローゼが慌てて言う。
「ローゼのその髪は本当に切ったのか?」
ロイズがローゼを見て言う。
「あ、はい。染めるにも短い方が楽だし、今の私は侍従見習いの少年ですから」
ローゼはショートカットになった自分の髪を触る。
今はサイオンの部屋に居るので髪色はピンクのままだが、部屋を出る必要がある時には赤茶色に染める。黒や茶などの無難な色に染めるより、あまりいない色の方が髪色に意識が行って顔をマジマジと見られる事が少ないし、地毛の系統色の方が染め残しがあっても目立たないからだ。
「いつ向こうに移る予定なんだ?」
ロイズがそう聞くと、サイオンは顎に手を当てて言う。
「向こう次第だが…」
「今度、一度行って来る予定なんです。本当はもっと早く行きたいんですけど…私がデビィに会ってからって我儘言ったんで…」
ローゼはきゅっと拳を握る。
「俺としてはこのままずっと手元に置いておきたいんだけどな」
サイオンがそんなローゼを見ながら微笑む。
「…兄上、もう十日近くローゼを手元に置いておられますけど、まさかローゼに不埒な真似を…?」
ロイズが上目遣いにサイオンを睨む。
「そっ!そんな事サイオン殿下は決してなさりません!」
「…この信頼を裏切る事はできないだろ。正直毎日理性総動員だがな」
慌てるローゼに苦笑いのサイオン。
「俺は兄上がそのような事を言われる方だとは思っていませんでしたよ」
ロイズも苦笑いしながら言う。
「そうだな。我ながら聖人君子然としていたからな。…幻滅したか?」
「いえ。人間らしくて好ましいと思います」
「最近よく『人間らしい』と言われるな…俺は余程人間らしくなかったらしい」
クスクスと笑うサイオン。
そうね。初めて会った時、私も妖精かと思ったもん。でも本当に今は別人みたい。
「ロイズは…ローゼの事を今も想っているのか?」
サイオンの言葉にロイズは目を大きく見開く。
「何ですか急に」
「俺はこの計画にロイズは反対すると思っていたんだ。この計画は…ローゼを王太子妃にするためのものだから」
「まあ、俺にはこんな計画を立てて実行する技量はないですから…兄上もローゼも幸せになると言うなら、皆と同じようにローゼはあの時死んだと思って諦めるまでです」
「ロイズ殿下…」
ローゼが呟くと、ロイズはローゼを見ながら微笑んで言う。
「それに、最近エリカがかわいく思えて来まして」
「え?」
「エリカサンドラ嬢?」
エリカサンドラはロイズの婚約者の悪役令嬢だ。
「ローゼが死んだと連絡を受けて、俺の元に来たエリカが、俺の顔を見るなり滝のような涙を流したんです」
滝のような?エリカ様が?
「そして『ローゼが亡くなるなんてロイズ殿下がかわいそう』と言うんです。号泣しながら、途切れ途切れに」
あの気が強くてプライドの高いエリカ様が…
「…口から出るのは、俺がかわいそうと、ローゼがかわいそうだけで…俺はローゼが死んでない事を知っていたから、余計に子供みたいにワンワン泣くエリカがかわいく思えたと言うか」
ロイズは少し照れたような表情で言った。
ストールを肩に掛けて、寝室の扉からサイオンの私室を覗くと、黒いスーツのサイオンとイヴァン、コーネリアが立っていた。
サイオンは表向きローゼとの関わりが薄いし、王太子という立場もあるので、本来は一男爵令嬢の葬儀に出席する事はない。しかし、ここでサイオンが葬儀に出る程ローゼを特別に思い、ローゼの死を悼み、その存在を失い嘆く様子を周りに見せる事には意味がある。
イヴァンが笑顔でローゼに歩み寄る。
「本当に元気そうで良かった。サイオンがローゼの居る寝室に入れるのはクレイグ殿だけだって言うからさあ」
「当たり前だろ」
サイオンがやって来て、ローゼの後ろから肩に掛かったストールの端を持ち、身体の前でしっかり重ねるように交差させながらローゼを腕に閉じ込めた。
「はいはい。サイオンって意外と独占欲強いんだな」
苦笑いのイヴァンに、ローゼは赤くなる。
「そうだな。自分でも意外だ」
サイオンは真顔でそう言った。
-----
王太子サイオンがローゼ・エンジェル男爵令嬢の葬儀に異例の出席をし、その後沈んだ様子で、執務中にもため息が多く、視察などもキャンセルし、私室に篭もりがちになっているとの噂が流れる。
「兄上は演技派なんですね」
サイオンの私室のソファに座り、少し呆れた様子でロイズが言う。
「俺は普通にしているだけだがな。ローゼが居るから私室に篭るし、ローゼが居るのにと思えば執務中にため息も出る」
「でっ殿下、やめてください」
しれっと言いながら紅茶を飲むサイオンの後ろで、侍従と同じ服を着たローゼが慌てて言う。
「ローゼのその髪は本当に切ったのか?」
ロイズがローゼを見て言う。
「あ、はい。染めるにも短い方が楽だし、今の私は侍従見習いの少年ですから」
ローゼはショートカットになった自分の髪を触る。
今はサイオンの部屋に居るので髪色はピンクのままだが、部屋を出る必要がある時には赤茶色に染める。黒や茶などの無難な色に染めるより、あまりいない色の方が髪色に意識が行って顔をマジマジと見られる事が少ないし、地毛の系統色の方が染め残しがあっても目立たないからだ。
「いつ向こうに移る予定なんだ?」
ロイズがそう聞くと、サイオンは顎に手を当てて言う。
「向こう次第だが…」
「今度、一度行って来る予定なんです。本当はもっと早く行きたいんですけど…私がデビィに会ってからって我儘言ったんで…」
ローゼはきゅっと拳を握る。
「俺としてはこのままずっと手元に置いておきたいんだけどな」
サイオンがそんなローゼを見ながら微笑む。
「…兄上、もう十日近くローゼを手元に置いておられますけど、まさかローゼに不埒な真似を…?」
ロイズが上目遣いにサイオンを睨む。
「そっ!そんな事サイオン殿下は決してなさりません!」
「…この信頼を裏切る事はできないだろ。正直毎日理性総動員だがな」
慌てるローゼに苦笑いのサイオン。
「俺は兄上がそのような事を言われる方だとは思っていませんでしたよ」
ロイズも苦笑いしながら言う。
「そうだな。我ながら聖人君子然としていたからな。…幻滅したか?」
「いえ。人間らしくて好ましいと思います」
「最近よく『人間らしい』と言われるな…俺は余程人間らしくなかったらしい」
クスクスと笑うサイオン。
そうね。初めて会った時、私も妖精かと思ったもん。でも本当に今は別人みたい。
「ロイズは…ローゼの事を今も想っているのか?」
サイオンの言葉にロイズは目を大きく見開く。
「何ですか急に」
「俺はこの計画にロイズは反対すると思っていたんだ。この計画は…ローゼを王太子妃にするためのものだから」
「まあ、俺にはこんな計画を立てて実行する技量はないですから…兄上もローゼも幸せになると言うなら、皆と同じようにローゼはあの時死んだと思って諦めるまでです」
「ロイズ殿下…」
ローゼが呟くと、ロイズはローゼを見ながら微笑んで言う。
「それに、最近エリカがかわいく思えて来まして」
「え?」
「エリカサンドラ嬢?」
エリカサンドラはロイズの婚約者の悪役令嬢だ。
「ローゼが死んだと連絡を受けて、俺の元に来たエリカが、俺の顔を見るなり滝のような涙を流したんです」
滝のような?エリカ様が?
「そして『ローゼが亡くなるなんてロイズ殿下がかわいそう』と言うんです。号泣しながら、途切れ途切れに」
あの気が強くてプライドの高いエリカ様が…
「…口から出るのは、俺がかわいそうと、ローゼがかわいそうだけで…俺はローゼが死んでない事を知っていたから、余計に子供みたいにワンワン泣くエリカがかわいく思えたと言うか」
ロイズは少し照れたような表情で言った。
8
あなたにおすすめの小説
とっていただく責任などありません
まめきち
恋愛
騎士団で働くヘイゼルは魔物の討伐の際に、
団長のセルフイスを庇い、魔法陣を踏んでしまう。
この魔法陣は男性が踏むと女性に転換するもので、女性のヘイゼルにはほとんど影響のない物だった。だか国からは保証金が出たので、騎士を辞め、念願の田舎暮らしをしようとしたが!?
ヘイゼルの事をずっと男性だと思っていたセルフイスは自分のせいでヘイゼルが職を失っただと思って来まい。
責任を取らなければとセルフイスから、
追いかけられる羽目に。
王宮に薬を届けに行ったなら
佐倉ミズキ
恋愛
王宮で薬師をしているラナは、上司の言いつけに従い王子殿下のカザヤに薬を届けに行った。
カザヤは生まれつき体が弱く、臥せっていることが多い。
この日もいつも通り、カザヤに薬を届けに行ったラナだが仕事終わりに届け忘れがあったことに気が付いた。
慌ててカザヤの部屋へ行くと、そこで目にしたものは……。
弱々しく臥せっているカザヤがベッドから起き上がり、元気に動き回っていたのだ。
「俺の秘密を知ったのだから部屋から出すわけにはいかない」
驚くラナに、カザヤは不敵な笑みを浮かべた。
「今日、国王が崩御する。だからお前を部屋から出すわけにはいかない」
※ベリーズカフェにも掲載中です。そちらではラナの設定が変わっています。(貴族→庶民)それにより、内容も少し変更しておりますのであわせてお楽しみください。
【完結】僻地の修道院に入りたいので、断罪の場にしれーっと混ざってみました。
櫻野くるみ
恋愛
王太子による独裁で、貴族が息を潜めながら生きているある日。
夜会で王太子が勝手な言いがかりだけで3人の令嬢達に断罪を始めた。
ひっそりと空気になっていたテレサだったが、ふと気付く。
あれ?これって修道院に入れるチャンスなんじゃ?
子爵令嬢のテレサは、神父をしている初恋の相手の元へ行ける絶好の機会だととっさに考え、しれーっと断罪の列に加わり叫んだ。
「わたくしが代表して修道院へ参ります!」
野次馬から急に現れたテレサに、その場の全員が思った。
この娘、誰!?
王太子による恐怖政治の中、地味に生きてきた子爵令嬢のテレサが、初恋の元伯爵令息に会いたい一心で断罪劇に飛び込むお話。
主人公は猫を被っているだけでお転婆です。
完結しました。
小説家になろう様にも投稿しています。
ストーカー婚約者でしたが、転生者だったので経歴を身綺麗にしておく
犬野きらり
恋愛
リディア・ガルドニ(14)、本日誕生日で転生者として気付きました。私がつい先程までやっていた行動…それは、自分の婚約者に対して重い愛ではなく、ストーカー行為。
「絶対駄目ーー」
と前世の私が気づかせてくれ、そもそも何故こんな男にこだわっていたのかと目が覚めました。
何の物語かも乙女ゲームの中の人になったのかもわかりませんが、私の黒歴史は証拠隠滅、慰謝料ガッポリ、新たな出会い新たな人生に進みます。
募集 婿入り希望者
対象外は、嫡男、後継者、王族
目指せハッピーエンド(?)!!
全23話で完結です。
この作品を気に留めて下さりありがとうございます。感謝を込めて、その後(直後)2話追加しました。25話になりました。
大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!
古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。
その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。
『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』
昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。
領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。
一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――
【完結】モブ令嬢としてひっそり生きたいのに、腹黒公爵に気に入られました
22時完結
恋愛
貴族の家に生まれたものの、特別な才能もなく、家の中でも空気のような存在だったセシリア。
華やかな社交界には興味もないし、政略結婚の道具にされるのも嫌。だからこそ、目立たず、慎ましく生きるのが一番——。
そう思っていたのに、なぜか冷酷無比と名高いディートハルト公爵に目をつけられてしまった!?
「……なぜ私なんですか?」
「君は実に興味深い。そんなふうにおとなしくしていると、余計に手を伸ばしたくなる」
ーーそんなこと言われても困ります!
目立たずモブとして生きたいのに、公爵様はなぜか私を執拗に追いかけてくる。
しかも、いつの間にか甘やかされ、独占欲丸出しで迫られる日々……!?
「君は俺のものだ。他の誰にも渡すつもりはない」
逃げても逃げても追いかけてくる腹黒公爵様から、私は無事にモブ人生を送れるのでしょうか……!?
行き遅れのお節介令嬢、氷の公爵様と結婚したら三人娘の母になりました
鳥柄ささみ
恋愛
お節介焼きで困っている人を放っておけないシアは、数多のご令嬢達から人気の令嬢だ。毎日ファンレターが届き、社交界に出れば令嬢に取り囲まれるほどである。
けれど、それに反比例するように男性からの人気はなく、二十七だというのに嫁の貰い手もないため、毎日母から小言をもらっていた。
そんなある日のこと、突然公爵家から縁談の話が。
シアは公爵家がなぜ自分に縁談など持ち掛けるのかと訝しく思いつつ話を受けると、なんと公爵の後妻として三人の娘の母代わりになれと言われる。
困惑するも、自分へ縁談を持ちかけた理由を聞いて、お節介なシアは嫁ぐこと決めたのだった。
夫になるレオナルドはイケメンなのに無表情で高圧的。三人の娘も二女のアンナを除いて長女のセレナも三女のフィオナもとても反抗的。
そんな中でもお節介パワーを発揮して、前向きに奮闘するシアの物語。
※他投稿サイトにも掲載中
【完結】6人目の娘として生まれました。目立たない伯爵令嬢なのに、なぜかイケメン公爵が離れない
朝日みらい
恋愛
エリーナは、伯爵家の6人目の娘として生まれましたが、幸せではありませんでした。彼女は両親からも兄姉からも無視されていました。それに才能も兄姉と比べると特に特別なところがなかったのです。そんな孤独な彼女の前に現れたのが、公爵家のヴィクトールでした。彼女のそばに支えて励ましてくれるのです。エリーナはヴィクトールに何かとほめられながら、自分の力を信じて幸せをつかむ物語です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる